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執事とメイドのラブコメ  作者: 有明海
1章 一学期編

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12 執事とメイドのショッピングモールデート(1)

今日は華凛の指示に従い、瑠衣と悠斗は放課後にデートすることになっていた。

二人とも使用人としての業務は他の人に引き継いでいるということでオフでもある。

つまり、何の気がかりもないと言うことだ。


「星原さん。さてどうしましょうか?」

「うーん……」


隣の席なので都合よく相談はできるのだが、二人はどこに行くかは決まっていなかった。行動基準が主人なので、昔から今も自分の意志でしたいことなどなかった。


「こういう時普通の人はどこに行くのでしょうね?」

「カラオケとカフェはいきましたし……ネットで調べてみますか」


悠斗も普段使いのタブレットを調べ検索エンジンを開いた。昨晩、華凛から「少しは勉強しなさい!」とアドバイスをもらっていくつかブックマークを付けていた。これを参考に何かあるだろう。淡い期待を胸にスライドしていく。


「このサイトいいですね。『高校生カップルにおすすめのデートスポット六選』だそうです」


周囲から見れば、放課後の教室で仲良くタブレットを突き合わせている男女の高校生そのものだろう。ただ中身はそんな生優しいものでない。


「一番目は『王道の映画館デート』、二番目は『距離が縮まる水族館』、三番目は『癒しを求めて動物園』。こういうのが好きなんですね皆さんは」

「らしいですね。何か興味あるものはございましたか?」


瑠衣は画面をスライドさせていくがその顔は余計に渋いものに変わっていく。この感じはどれもめぼしいものがなかったのだろう。いくら悠斗でもその顔を見ればわかる。


「すみません。思いつかなくて」

「まあ……そうですよね。我々には少々難易度が高い。ならば、ショッピングなどどうですか?」

「買い物、ということですか」

「はい。近くに大きめのショッピングモールがあります。目的もなく歩くよりは何か必要な物を探すという名目があった方が動きやすいでしょう」


悠斗の提案に、瑠衣はなるほどと小さく頷いた。

こうしてお互いに自分の意志を持たないまま「初めての放課後デート」は、ショッピングモールへと決定した。


  ◇


ショッピングモールは複数の施設があるためスーツの男性や親子連れ、それに他校の制服を着た生徒など、様々な人がいる。これなら使用人同士の二人でも、はたから見たら立派なカップルに見える。


「……新鮮ですね、星原さん」


すれ違う買い物客の視線をそれとなくいなしながら、瑠衣が歩調を合わせて囁いた。向けている視線は、監視カメラや非常口などをそれとなく見ているのが分かる。悠斗もそれとなく周りを見渡したので瑠衣とは変わらない。


「そうですね。海外のショッピングモールには行ったことはありますが、日本では初めてですね。ここならすぐ回れそうですね」


二年前に奥様から「フィリピンのモールに行きたいから着いてきて」と無理やり連れてかれた以来。そこは店舗数が千店舗もあったのでここの約十倍。今回はそんな疲れなそうだと少し安堵していた。


「とりあえず上から回っていきましょうか。歩いたところにある店舗で気になる場所があれば入るという形でいきましょう」

「了解しました。そのように」


エスカレーターに乗り、二人はまず三階へと向かった。悠斗は一歩後ろに立つ瑠衣の様子をそれとなく伺うと、相変わらず無表情だ。だけど階上が近づくにつれて広がる新しいフロアの景色を、どこか好奇心の混じった瞳で見つめていた。


三階につき練り歩いていると、服屋、眼鏡屋、飲食店などモールらしい様々な店が並んでいる。


「あ、ここ」


中でも悠斗の目が留まったのはスーツの専門店。


「せっかくだからよってみますか?」

「いえ、大丈夫ですよ。他の所へ行きましょう」


悠斗も個人的な理由で足を止めたので、すぐに断るが瑠衣はお店を見つめながら呟いた。


「『気になる場所があれば入る』と言ったのは、星原さんですよ? 私は大丈夫ですので入ってみましょう」

「……そうですか? では、お言葉に甘えて少しだけ」


悠斗は苦笑しながら、瑠衣を伴ってガラス張りのスーツ専門店へと足を踏み入れた。


店内には、落ち着いた照明の下で仕立ての良いビジネススーツやリクルートスーツが整然と並んでいる。先客はまばらで、店員も遠巻きに声をかけてくるだけだった。


「星原さんはやっぱり仕事柄ですか?」


瑠衣からの質問に悠斗も「はい」と答えた。悠斗は仕事柄燕尾服、場合によってはディレクタースーツを着ている。だからこそこだわりと言うか少しうるさいところがある。


「これは……」


悠斗の視線が、棚の一角に綺麗に並んだネクタイピンのコーナーで止まった。シルバーのシンプルなスクエア型。装飾は最小限で、落ち着いた大人の雰囲気を醸し出している。


「それが気になるのですか?」

「うーんそうですね。派手すぎず、かといって安っぽくもない。いいですね」


悠斗が少し熱っぽく語ると、瑠衣はそのネクタイピンと悠斗の顔をじっと見比べた。


「星原さん、試しに胸元へ当ててみてはいかがですか?」

「いえ、この制服にはあいません。何より今日は『普通の高校生のデート』の勉強ですから。自分の買い物をしている場合では……」

「いいのではないでしょうか? 先ほどのweb記事に『ショッピングデート』というものもあるそうですし。そこでは『これとこれどっちが似合うと思う?』などするらしいですよ」

「なるほど。それは……」


悠斗は言葉を詰まらせた。確かに彼女の言う通り。ここでひいてはお嬢様の言う「高校生のデート」なるものが体験できない。


店員に許可を取り、手に取らせてもらうと鏡の前に立ち当てて見せた。鏡に映る姿は制服ながらも違和感がない気がする。


「どうでしょうか?」


悠斗の姿を後ろから見ると、屈み越しに瑠衣の真剣に吟味する顔が映る。


「いいですね、似合うと思います。これでしたら制服でも使えますし業務でも使えるんではないでしょうか?」

「そうですねせっかく、着用させていただきましたので購入するとします」

「それなら私がプレゼントしますよ」

「え……?」


店員に「これをお願いします」と言いかけ、財布を取り出そうとしていた悠斗の動きがピタリと止まった。


驚いて隣を振り返ると、瑠衣は相変わらずの無表情のまますでに自身の財布を取り出している。


「富士見さん、さすがにそれは困ります。これは私の個人的な買い物ですし、何よりあなたに支払わせる理由が――」

「理由ならあります」


悠斗の反論を、瑠衣は静かなトーンで遮った。


「これがあれば大和様も華凛様も納得してくれると思います。デートとの証明になりますし」

「ですが……」

「本日のデート用として、日ノ内から予算を預かっています。これは日ノ内からのプレゼントになります」


日ノ内の名前をだされたら悠斗にだって拒否権はない。それに「プレゼントをもらった」となれば華凛への説明がつくという言葉に深く納得した。ならばここは次を見越し受け入れるべきだろう。


「……なるほど。そこまで計算の上の行動でしたか。完敗です」


サインを終え、綺麗にラッピングされた小さな紙袋が瑠衣から悠斗へと手渡される。悠斗は少し照れながらその包装を受け取った。


「ありがとうございます、富士見さん。……大切に使わせていただきます」

「いえ。次の所に行きましょう」


プレゼントをもらって少し耳が熱くなっている悠斗を置いて、瑠衣はいつも通り無表情のまま歩き出す。でもその足取りだけは、ほんの少しだけ軽く見えた。


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