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執事とメイドのラブコメ  作者: 有明海
1章 一学期編

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11 執事とメイドと説教

 あのドーム公演の二日後。悠斗たちは、すっかり定番となった旧校舎の美術室に集まっていた。

 ただ今日は珍しく大和を除いた三人だけ。その理由は悠斗と瑠衣に雷を落とすためだ。


「なぜ私もこのように」


 企画したのは日ノ内なのに、悠斗もほぼ巻き込み事故だ。「あんたも同罪」「日ごろの行いが悪いからついでに」と言うことで悠斗も正座されられている。


「あの、華凛様。この前はなにか不手際がありましたでしょうか」


 瑠衣の質問に華凛は髪の毛をくるくるし、いかにも「怒っていますよ私」という雰囲気を出している。そもそも隣の瑠璃は二人で正座をしている理由かわかっていない様子。


「ねぇるいるい。私はこの前何がしたいって言ったけ?」

「カラオケデートがしたいと」

「そうだよね? 私はドーム公演をしたいなんて言っていないよね?」

「はい。ですが一般のカラオケボックスでは――」

「言い訳は聞きたくないの!!」


 瑠衣が口を開こうとすると、瑠衣は指を差して一喝した。普段の悠斗とであれば脳天にチョップが落ちるが今回は瑠衣相手と言うことで、大目に見ているのだろう。しかし、華凛のこの怒っている様子は初めて見るようで瑠衣も委縮している。


「私と大和はなんだっけ?」

「日ノ内と月若のご子息です」

「ちがーーーーーう!!! 高校生!!! 確かにそうかもだけど高校生の男女なの!」

「は、はい!」

「普通のデートがしたいの! ドームなんて求めてないの! カラオケ店が良かったの!」


 絶叫が、古びた教室の壁に虚しく木霊する。

 隣の瑠衣は普段の無表情が嘘のように困惑し、膝の上でそっと握られた拳が微かに震えている。対して悠斗は怒られ慣れているせいでいつものことだとなんも気にしていなかった。


「……お嬢様。富士見さんの弁護をするわけではありませんが」


 悠斗は背筋をピンと伸ばし手を挙げた。


「何よ」

「我々使用人というものは、主の安全を第一に考えるよう叩き込まれております。彼女なりに様々な事象を考えた上で出た結論が『無観客でのドームでのカラオケデート』なのです」

「論理飛躍しすぎ! あんたたち、そろいもそろって……!

「二人はもっと恋愛について学びなさい!!!」


 似たような話をこの前も聞いた気がする。その時に勉強しろと渡された少女漫画は、業務の忙しさで読めてない。


「勉強とは何をすれば……」

「好きな人いないの?」

「いません」

「友達で恋愛してる子は?」

「そもそも友人がいません」


 一切の迷いもなく、瑠衣は堂々と言い切った。


「あんたも悠斗も一緒なのね……わかったわ、なんかごめん」


 やはりこういう仕事をしていると公私の境界線が曖昧になっていく。悠斗も友達がいなくていいと考えていた為、同じ考えの人がいて隣で安心していた。


「これから二人にはデートの下見とか、学校でのこととか頼みたいからもっと勉強してほしいの! 普通の高校生の生活と恋愛についてを」

「はぁ……?」

「るいるいはこれから頑張ればいいわ。悠斗は勉強してるのよ、ねぇ? 貸した漫画どうした?」


 華凛からの視線がこちらに向くが、悠斗は顔を背けた。耳が痛い。


「……」

「ん?」

「……ヨンデマセン」

「……おいこら、悠斗? こっち向け」


 華凛の目が据わった。教室の温度が、一気に氷点下まで下がったかのような錯覚を覚える。

 まさかこんな形でバレるとは悠斗も考えておらず冷や汗がだらだらだ。


「あれだけ私が『これを読んで恋愛を勉強しなさい!』って、全巻貸してあげたじゃない! まだ一ページも開いてないってこと!?」

「いえ、一ページは読みました。そのあと机に置いたまま……」

「放置してるって言いなさいよ!!」


 華凛が頭を抱えてのけ反る中、これまで縮こまっていた瑠衣が頬を少しあげ悠斗に向けてきた。


「……なるほど星原さん。これは一緒に勉強する必要がありますね。主人からプレゼントされたものを放置するなんて信じられません」

「放置ではありませんよ。富士見さん。……それに私はあなたと違って、少なくとも手元に漫画がある。これは大きなアドバンテージです」

「それでしたら私だってクラスメイトの話をこっそり聞きますし。というか積読は今回のアドバンテージとは言えないかと」


 瑠衣の容赦ない正論が、悠斗の胸にグサグサと突き刺さる。


「あんたたち……正座したまま言い合いしてんじゃないわよ!」


 華凛は大きくため息をつくと、二人を交互に指差した。


「もういいわ。るいるいに友達がいないのも、悠斗が漫画を放置してるのも、全部まとめて解決する方法を思いついたから」

「……と、仰いますと?」


 悠斗と瑠衣が同時に首を傾げると、華凛は不敵な、そしてどこか楽しげな笑みを浮かべた。


「明日の放課後二人でデートしてきなさい! そこでもう少し『普通の高校生』について学びなさい」


 またお嬢様がわけのわからないことを思いついたなと、悠斗は小さくため息をついた。

 それと同時くらいに隣からもため息の音が聞こえた気がする。

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