第8話 過去の私からの手紙
不遇な令嬢が前世の記憶を取り戻したとき、自分を幸せにする覚悟を決めた。記憶と接客技術を武器に踏み出した一歩は、やがて国も巻き込んでいく…。
不定期更新です。
リノは震えそうな手を抑える。
ハンナは見守る。
手紙がゆっくり開く。
「15歳の私へ
今は幸せですか?
大切に思う人も、あなたの幸せを心から願っているよ。
10歳の私より」
二人は顔を見合わせる。
リノは拍子抜けした顔をする。
ハンナは笑い出す。
「リノ、物凄く間抜けな顔。」
リノは少しムッとしながら言い返す。
「あれだけ緊張してこれだけですよ。」
再び手紙に目を落とす。
「当時の私はいったい…。あっ…」
ー一見、模様に見えるこれって…。
切り取り…??
「気になることでもあるのか?」
ハンナは手紙を覗き込む。
「何か周りに記号みたいなのが書かれているな。」
リノはじーっと手紙を眺める。
そして閃く。
「小学校で流行ってた!ハンナさんハサミある?」
「小学校…??」
ハンナは不思議そうにハサミを渡す。
興味津々でリノの動きに注目する。
リノは受け取ったハサミで手紙の周りを切っていく。
もう一枚手紙が出てきた。
ハンナは目を見開く。
「どういうこと??」
「簡単な仕組みです。
2枚の紙の周囲を糊で貼り付ける。
糊の内側をハサミで切る。
すると、2枚の紙が現れる。」
リノは淡々と説明した。
ハンナは感心して吐く。
「軍隊でも思いつかない。」
リノは微妙な顔をする。
ハンナは気にも留めず話す。
「何て書いてある?私には読めない。」
リノは静かに手紙に目を落とす。
「リノ・アシュフォード様
ここに辿り着くと言う事は、ある程度は理解していると思います。
お察しの通り、生まれた頃から前世の記憶を持っていました。
あなたの人生を乗っ取った様で申し訳ない気持ちと、周囲から沢山の愛情を受けて再び新しい人生を歩めることに喜びを感じていました。
本題に入ります。
母は私を庇って亡くなりました。
多分、私と同じ様に前世の記憶を持つ者がこの世界にもいます。
私は調べるため、本家に行くことに決めました。
その一方であなたに申し訳ないと思いながら…。
そこで1つの賭けをしました。
過去の記憶を消して、あなた自身の人生を歩んで貰おうと…。
この手紙を読んでいると言う事は成功したようですね。
どんな人生を歩んでますか?
幸せですか?
自分のために人生を歩んでください。
佐藤 梨乃 」
リノは今にも涙が溢れそうだ。
ハンナを優しい眼差しで見守った。
「遠い昔の私からの手紙だった…。」
リノの声が震える。
ハンナはリノを抱きしめた。
静かな時間が流れる。
リノは今にも消えそうな声で話す。
「私…、前世の記憶があるの…。」
ハンナは抱きしめる腕を強くする。
「聞かせて。」
リノの瞳が揺れる。
大粒の涙がこぼれた。
ハンナを見て笑う。
「今度…、ゆっくり…。」
ハンナは意地悪そうな笑顔を浮かべる。
「不安だった?目が赤いよ??」
手でリノの涙をぬぐうハンナ。
リノは安堵した笑顔になる。
そして、頬を膨らませて文句を言う。
「意地悪ですね。」
ハンナは笑いながらリノの頭を撫ぜる。
2人は見つめたまま笑いあった。
しばらくしてハンナは静かに問う。
「これからどうしようか?」
リノは少し沈黙した。
力強い瞳でハンナを見る。
「まずは…整理したいです…。」
「わかった。」
ハンナは優しく頷く。
そして続けて話した。
「明日の夕方にはあの家族が戻ってくる。」
リノは目を見開く。
一瞬、間が空いた。
「明日の昼頃…。お話出来ますか?」
「楽しみに待っている。」
ハンナはとびっきりの笑顔で頷いた。
ーどうする…。
リノの瞳が動いた。
思考が巡る。




