第7話 確かなぬくもり
不遇な令嬢が前世の記憶を取り戻したとき、自分を幸せにする覚悟を決めた。記憶と接客技術を武器に踏み出した一歩は、やがて国も巻き込んでいく…。
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リノはゆっくりと瞼を開けた。
額に手を伸ばす。
冷たいハンカチが手に触れた。
視線を移動した。
心配そうに自分を覗き込む女性の顔が瞳に映る。
不可解な面持ちでその女性を見た。
「リノ!目が覚めた?」
ハンナは安堵した声で言う。
焦点が定まらないリノを見つめた。
表情が段々と曇り始める。
「リノ!わかる?医者を呼んでくるわ。」
ハンナは素早く立ち上がり医者を呼びに行く。
リノは他人事のようにその様子を見ていた。
「熱も下がったようですが、2、3日は安静にしてください。食事は消化良いものを食べさせてください。」
医者はリノを診察した。
そして、ハンナに伝える。
ハンナはお礼を言い、医者を見送った。
「リノ…。大丈夫…??」
ハンナはベッド近くの椅子に腰を掛ける。
リノを覗き込む。
「ハンナさん…。」
リノはゆっくりと視線をハンナに向ける。
ハンナは大きい目を見開いた。
「リノ…。記憶が戻ったの…?」
リノは不思議そうな表情でハンナを見る。
小さい声で独り言のように呟く。
「ハンナさんは…、どこまで…。」
ハンナは静かな笑顔で部屋から出て行った。
リノはただ部屋の扉を眺める。
しばらくすると扉が開き、ハンナが戻ってきた。
手にはトレーを持っている。
静かにベッドの横のテーブルに置いた。
トレー上に置かれた料理と封筒が、リノの目に入る。
「リノ、リゾット食べれる?」
ハンナの声で、リノは我に返る。
「はい。食べれます。」
ハンナは優しく微笑む。
そして、リノに皿を渡す。
「熱いから気を付けて。後、何日も食べてないのだから、無理はしないで。」
リノは皿を受け取る。
お皿からはコンソメの良いかおりがした。
思わずお腹が鳴る。
ハンナはクスクス笑いながらリノにスプーンを渡した。
リノの手にスプーンの重さがズシッと伝わる。
ゆっくりと持ち上げて口元に運んだ。
「優しい…。」
リノはスプーンを持ったまま、しばらく動かなかった。
じんわりと、体が温かくなっていく。
ほんの少し、口元が緩んだ。
ハンナは静かに見守った。
「私は何日寝てました?」
「3日よ。」
ハンナは静かに答える。
そして、ゆっくりとリノを見つめる。
「記憶が戻ったの…?」
「わからないです…。ただぼんやりと…。母の亡くなる前の記憶とか。ハンナさんはどこまでご存知ですか?」
ハンナはリノ頭に手をのせる。
優しく、静かに、語る。
「話し方、戻ってるね…。昔みたいに…。」
リノはハンナから目を逸らさない。
「トレーの手紙。これはリノに15歳になったら渡してほしいと言付かったものだ。少し早いけど、返した方が良い判断した。」
リノはトレーの上の手紙に目を向ける。
「何者でもいいよ。あんたはリノだ。私にとって大切な友人だ。」
リノの目から涙がこぼれ落ちる。
唇をきゅっと結ぶ。
かすれた声で伝えた。
「読んでみます。傍にいて…。ハンナさん。」
リノはたどたどしくハンナに手を伸ばす。
ハンナはリノの手を両手で握る。
小さく、しかし確かに頷いた。




