第6話 忘れられない味と、忘れていた記憶
不遇な令嬢が前世の記憶を取り戻したとき、自分を幸せにする覚悟を決めた。記憶と接客技術を武器に踏み出した一歩は、やがて国も巻き込んでいく…。
不定期更新です。
ベットに運ばれたリノはうなされていた。
ハンナは眠るリノを心配そうな眼差しで見守っている。
リノは夢だと、分かっていた。
それでも、目を逸らせなかった⋯。
弟のけんじが心配そうな顔をする。
私は気丈に振る舞う。
「大丈夫。すぐ行く。」
「りの⋯、大丈夫⋯??」
途切れ途切れの声で私を見る女性。
周囲は騒然としている。
「警察!救急車!!」
「きゃー」
「犯人あっちに逃げたぞ」
私は⋯
「お母さん⋯。お母さん⋯。」
ー場面が変わる。
白い服を着て花に囲まれて寝ている女性。
私は絶望的な悲しみに打ち拉がれている。
「これ⋯、会社から。今、佐藤を会社に復帰させるように動いてるから。また、一緒に働こう」
白い封筒を私に渡す。
私は力なく受け取る。
両手を肩に置き覗き込む。
「先輩⋯。わたしはもう疲れました⋯。」
「姉ちゃん。警察の人が犯人の確認したいって」
スーツを着て、眉間に皺を寄せた男性が二人並んでいる。
私が現れたら揃って頭を下げた。
「ご冥福をお祈り致します。早速で申し訳ないですが⋯。」
内ポケットから顔写真を取り出す。
私は写真を覗き込む。
「はい。よく店に来ていたのはこちらの男性です。」
「お母さんが刺されたときの犯人の顔まではみていませんか?」
私の目を見据え、警察の人は事務的に質問。
「正直⋯、一瞬のことだったので⋯。」
私も感情を押し殺して淡々と答える。
「ご協力ありがとうございました。
SNSの風評被害についても引き続き操作していますので。」
警察の人はそう言い残し立ち去って行った。
「あんたが死ねば良かったのよ⋯。こんな結果、私は望んでないわ。」
ー信じてたのに⋯。
私の後ろから声がする。
振り向くと、見慣れた女性が立っていた。
胸の奥で、何かが焼けた。
ー許したくない。
先輩が静かに怒った声で話す。
「鈴木さん、ここはあなたが来て良いところではないはずよ。」
くるりと私の背後に回る。
そっと肩に手を置き部屋に私を連れて行く。
部屋に入ると緑茶とプリンが用意されていた。
悲しみの表情に満ち溢れた男性が優しい目をする。
「りの、弔い客の対応はお父さんがするから⋯。少し休んで。」
先輩に目を向けて深々と頭を下げる。
「りのをよろしくお願いします。」
私は先輩に促されて席に座る。
先輩は作った明るい声で私に話す。
「佐藤、プリン好きでしょ?とりあえず食べて⋯、休んで⋯。」
私は一口プリンを口に入れる。
「甘い⋯。美味しい。」
ーこの味…。懐かしい…。
先輩は安堵した表情を浮かべる。
そして静かに口を開く。
「もう一度、社内で調べ直すことが決まったわ。
私達は鈴木を疑っている。あなたの幼馴染かもしれないけど⋯。仲間は信じているわ。またあなたと働きたいと切に願っている。」
私は堰を切ったように目から涙がこぼれ落ちていく。
背中を撫ぜる先輩の手が温かい。
視界がぼやけていく。
そして、意識が途切れていく⋯。
ーひんやりしていて、気持ちいい
「…リノ。」
ハンナは吐くようにリノに声を掛けた。
そして、リノのおでこを冷たいタオルで拭く。
リノの眉間に皺が寄った。
ー私を呼ぶ声がした。
不思議と安心する。
え…?誰…??
リノはゆっくりと瞼を開く。




