第4話 唯一の居場所
不遇な令嬢が前世の記憶を取り戻したとき、自分を幸せにする覚悟を決めた。記憶と接客技術を武器に踏み出した一歩は、やがて国も巻き込んでいく…。
毎週日曜日更新です。
ドアが開く音でリノは目を覚ました。
メイドは床に寝ているリノを一瞥する。
それだけで、何も言わない。
カーテンを開けた。
窓から朝日が差し込む。
体の節々に痛みを感じる。
リノは思わず顔を歪めた。
メイドは気にも留めない。
「お風呂のご用意を致します。」
リノはゆっくり体を起こす。
朝の支度を始めた。
リノが食堂に着くと最後だった。
足早に席に座る。
「遅くなりました。申し訳ありません。」
当主であるロベルトの朗らかな声が響き渡る。
「食事をお願い出来るかな。」
メイドたちは一斉に準備する。
ロベルトはリノに微笑みかける。
「おはよう。気にしないで良い。先に皆には話していたが、2日後に視察に行く。今回は5日程だ。リノは来れるかい?」
クラリスは微笑む。
セシリアは鋭い目を向ける。
ヴィオラ夫人は見つめる。
リノに視線が集まった。
「申し訳ありません。体調が優れず、道中ご迷惑をかけてしまうと思います。」
リノが抑揚ない声で答える。
「今回もか。まぁ仕方ない。次はいい返事期待してるよ。」
ロベルトは残念そうに肩をすくめる。
クラリスは相変わらず微笑んだままだ。
セシリアはしかめっ面になる。
ヴィオラ夫人は無表情のまま、テーブルに目を落とした。
「食事が冷めてしまうわ。食べましょう。」
ヴィオラ夫人は単調な声で言った。
リノは目の前のスープを一口含む。
塩辛い。
ーイリーネか…。
静かにスプーンを置いた。
「申し訳ありません。体調悪く…。お先に失礼します。」
リノは淡々と席立ち頭を下げる。
「部屋に消化の良い食事を運ばせるわ。」
ヴィオラ夫人は事務的に伝えた。
「ありがとうございます。」
リノも同じトーンで返す。
ー私の元に運ばれることはない。
「お父様、お義母様、お姉様、いってらっしゃいませ。」
リノはふらつきそうな体を両足で踏ん張った。
そして、張り付けた笑顔を作る。
後ろの執事も一緒に頭を下げる。
「しっかり休みなさい。」
ロベルトはリノの肩に手を置く。
馬車に乗り込んだ。
中では、ヴィオラ夫人とクラリス、セシリアが楽しそうに笑っていた。
視線をリノに向ける。
「行ってくるわね。」
ヴィオラ夫人は静かに言う。
クラリスとセシリアは素敵な笑顔で手を振った。
家族が乗った馬車を筆頭に馬車が連なる。
イリーネが馬車の窓からリノを見る。
冷たい目だった。
馬車は走り去っていく。
リノは一息付いた。
後ろを振り向く。
「用事があれば、部屋のドアから手紙を入れておいてください。」
リノは心無しか弾んだ声で伝える。
執事は淡々と答える。
「…いつも通りですね。」
リノは頭を下げた。
逸る気持ちで騎士舎へ向かう。
だが、足取りは重い。
3日近く、まともに食べていない。
足に力が入らない。
騎士舎の風見鶏が見えた。
少し足早になる。
ようやく騎士舎に着いた。
入口にはトランヴェール家の馬車が止まっていた。
馬車の扉が開いた。
トランヴェール夫人が降りてくる。
「今日はタイミングがいいわね。」
リノを見て小さく呟く。
「あなたときちんとお話がしたいと思ってました。お時間を頂けますか?」
トランヴェール夫人はリノに笑顔を向ける。
リノは気を抜いていた。
一瞬、言葉が出ない。
驚いた顔でトランヴェール夫人を見た。




