第12話 二人の思惑
不遇な令嬢が前世の記憶を取り戻したとき、自分を幸せにする覚悟を決めた。記憶と接客技術を武器に踏み出した一歩は、やがて国も巻き込んでいく…。
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「”私は悪女になるって決めてます”って…。あの子純粋過ぎるわ…。」
トランヴェール夫人はため息をついた。
ハンナは窓の外に目を向ける。
屋敷に小走りで戻るリノの背中が目に映った。
「エノレア、紅茶でも飲まないか?」
「ええ、頂くわ。」
紅茶を頼んで戻ってきたハンナは、トランヴェール夫人と向かい合わせで座った。
二人は暫く無言で見つめあう。
「リノ話、信じられないけど本当だと思う。」
ハンナが天井を見上げた。
「私もそう思うわ。」
トランヴェール夫人は自問自答のように言う。
「リノは、リノになる前は何歳で亡くなったかしらね?」
ハンナが笑い出す。
「気になるのがそこか…。」
「重要よ。精神力や経験値が違うでしょ?」
トランヴェール夫人は険しい眼差しで言った。
ハンナは納得して頷く。
「予想では、15歳、せいぜい20歳ぐらいだろう。一応何かは学んでいたらしいな。」
「理解出来ない単語が多かったわね。」
扉からノックが聞こえた。
ハンナは立ち上がり扉を開ける。
同僚カルゼンが紅茶を持って立っていた。
部屋に入り、手際よくテーブルに紅茶を運ぶ。
「リノ嬢、大丈夫だったかい?」
カルゼンは眉間にしわを寄せ聞く。
「リノは愛されているわね。」
トランヴェール夫人は口元が綻ぶ。
「当たり前だ!エレナ様がお亡くなりになられた後、あいつらのところに行かされて、ろくな目にあってない。ハンナよ、どうにかならないのか。」
「作戦会議中だよ。」
ハンナは宥めるように言う。
「期待してるぜ!」
息まいてカルゼンは出て行った。
「カルゼンは相変わらずね。」
トランヴェール夫人は紅茶を一口飲んだ。
「悪い。葉巻いいか?」
ハンナは申し訳なさそうに聞く。
「特別よ。」
トランヴェール夫人は答えた。
一息ついたハンナが切り出す。
「いつかエレナのこと伝えないとな。」
ーどこまで伝えるのが正解なんだろうか…。
「そうね。話すとしても1か月後よ。今はリノの本気度を見極めるの先よ。」
ーリノの覚悟次第では知らない方がいいかもしれない。
静かにトランヴェール夫人は言った。
「エノレア、何を考えている。」
葉巻を置き、トランヴェール夫人の目を探る。
「セシリアを指導すると言う名目でアシュフォード家に1か月滞在するわ。少しはリノに手を貸すつもりよ。」
ハンナの目が開く。
「家は大丈夫なのか。」
「主人もいるし、子供たちもいるから大丈夫でしょう。それにもう18歳よ。そろそろ家のことやってもらわないと。」
「確かにな。」
ハンナは一拍置いた後、静かな口調で言った。
「本当に余計な事はしないんだろうな。」
「余計なことと決めるのは私よ。執事、あなたの部下だって知っているのよ。情報は入ってくるでしょう。」
トランヴェール夫人は不敵に笑う。
ハンナは深いため息をついた。
アシュフォード家の馬車が屋敷の前に到着した。
リノは緊張した面持ちで待つ。
近くの馬車からトランヴェール夫人は様子を見ていた。




