第11話 試される覚悟
不遇な令嬢が前世の記憶を取り戻したとき、自分を幸せにする覚悟を決めた。記憶と接客技術を武器に踏み出した一歩は、やがて国も巻き込んでいく…。
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ハンナは手を伸ばしメモを受け取る。
リノの瞳が揺れた。
トランヴェール夫人は二人を観察し、リノに微笑む。
「ハンナが読み終わるまで、私たちは食べながら待ちましょう。」
リノは小さく頷いた。
トランヴェール夫人の食事の音だけが室内に響く。
真剣な眼差しでメモを見つめるハンナ。
やがて、眼差しはリノに移り、メモをトランヴェール夫人に渡した。
トランヴェール夫人は食べている手を止め、視線をメモに移す。
「リノ、冷めるよ。」
以前と変わらない微笑みをリノに向ける。
リノは小さくため息をついた。
そして、コーヒーを一口飲む。
「コーヒー冷めてないか?一度温め直してもらおう。」
ハンナはコーヒーポットに手をかけた。
「大丈夫です。」
リノは慌てて伝えた。
時計の音だけが室内に響いた。
トランヴェール夫人は静かにメモから目線を外した。
「信じてもらえますか」
リノは真っ直ぐな眼差しで二人を見る。
静かな声で聞いた。
トランヴェール夫人が答える。
「信じがたいわ。」
揺らいだリノの瞳がハンナを捉える。
「エノレアは信じないとは言ってない。私もリノが噓ついているとは思ってない。」
ハンナは落ち着いた声で優しく伝えた。
リノのきゅっと結んでいた口元が緩む。
「リノ、このメモを私たちに見せたのは信じてもらうのが目的?これを見せてあなたは何がしたいの?」
トランヴェール夫人の冷静な声がリノを緊張させる。
「エノレア、何も…。リノも落ち着いて。」
ハンナは眉を下げながら二人を宥めるように言った。
トランヴェール夫人は気にせず話し続ける。
「リノ、あなたはこれからどうしたいの?」
ー口が乾く
思うように声が出ない…。
リノは生唾を飲み込み、揺れる瞳でトランヴェール夫人を見つめる。
トランヴェール夫人はコーヒーを一口飲み、リノ言葉を待った。
「母の死の真相が知りたいです。」
小さいが力強い声でリノは伝えた。
「どちらの?」
表情を変えずトランヴェール夫人は聞く。
ハンナは優しい目で二人を見守る。
リノは焦点の定まらない目でトランヴェール夫人を見た。
「信じがたいけど腑に落ちる部分はあるわ。そして…、リノに幸せになって欲しい気持ちは本物よ。」
静かにため息まじりでトランヴェール夫人が言った。
「お二人の友人だった母です。」
リノは二人の目を見て伝えた。
ハンナは静かに傾く。
トランヴェール夫人は鋭い眼差しでリノを見る。
「それなら行動で示しなさい。」
「行動とは…?」
リノは戸惑う。
「一か月で今の状況を有利に変えなさい。一か月後、癒風亭のオーナーが選ばれる。予定ではセシリアが指名されるわ。あなたが指名を受けなさい。」
「…。」
「≪癒風亭≫は領地の境界にある店よ。ここの都市を通らないとアシュフォード領には入れないわ。」
リノはトランヴェール夫人とハンナを交互にみる。
ハンナは静かに言う。
「ここには色々な情報が集まる。」
リノは微動だにせず耳を傾ける。
トランヴェール夫人は更に話し続けた。
「出来ないなら、大人しく私の養子になりなさい。全て忘れて幸せに過ごすのよ。」
リノは瞳を大きく開く。
「私たちが願うリノの幸せと、リノが思う幸せは違うのかもしれない。助けだそうと思えばいつでも助けられた。ただ10歳のリノを尊重した。私たちは、リノが苦労せず笑顔でいてくれたらそれでいい。」
ハンナは一つ一つの言葉を置くように話した。
リノの瞳から涙が溢れ出す。
しかし、トランヴェール夫人は冷たく言う。
「覚悟がないならやめなさい。あなたは弱すぎるわ。」
ー私は悪女になると決めたはずなのに…。
強くならなきゃ。
全てを受け入れる。
「私は悪女になるって決めてます。私の話を聞いた以上、お二人に拒否権はないです。」
リノは涙を止め、真っ直ぐ前をみて、冷酷な声で言った。
トランヴェール夫人はニヤリと笑う。
「それなら、どの状況でもご飯食べる根性もちなさい。」
リノは冷たくなったスープにパンをつける。
そして、ぎこちない笑顔で食べた。
ハンナは心配そうにリノを眺めていた。




