第5話 トイレ戦争
この寮には欠陥がたくさんある。それは寮の匂いが臭かったりゴキブリが出現したりと様々だが、中でも酷いのがトイレの数だ。この寮の人口30人に対しトイレの数はわずかに2つ。そして起きる時間はニワトリのモーニングコールによりみんな同じ。何が起きるかなんて決まっている。そう、トイレ戦争だ。
『お前横入りしただろ!!』『いやいや最初からいたけど、そっちこそ横入りしたんじゃないか。』
またやってるよ……この寮ではトイレの並び順で揉め事に発展することが非常に多い。
このトイレ戦争、1週間ほど経った今だからこそある程度落ち着いているが、最初の3日間はとても大変だったのだ。どんな手を使ってでもトイレに入りたい輩が大勢いたため、風魔法でライバルを吹っ飛ばすやつ、糸を出す魔法で寮の廊下をスパイ映画のセンサーのことぐ塞いだやつ、その糸を燃やそうとして危うく寮内を火の海にするところだった奴、もう散々。そのため4日目からは寮内で魔法を使うことが禁止されたのだ。
とはいえ争いは絶えない。早いとこトイレの数を増やしてくれ……そう思わずにはいられない。
「やっと俺の番か」
15分並ぶハメになった。みんなトイレ行きたすぎだろ。
朝の排便とはなぜこんなに気持ちのいいものなのか。前世でも携帯片手に朝便するのが至福の時間だった。この世界には携帯なんてものはないが、今は代わりに学園で発行される校内新聞を読んでいる。
何々、一年生が魔法訓練場で大魔法をぶっ放して施設を完全破壊?修理に3ヶ月?どんな魔法打ったんだよ……この学園やばい奴多すぎだろ。えーと他には……学園内の女子生徒を片っ端からナンパして回る変態現る。……これやりそうな奴に若干1名心当たりがあるんだが……気のせいだな。そうに決まってる。
内容はともかくとして、やはりこうして日常の出来事に関心を向けるというのは大切だな。そう思いながら新聞の続きを読もうとすると
『も、漏れる。漏れちゃう。早くこの扉を開けてくれ』
俺の素晴らしい朝便タイムに邪魔が入った。まあだが、俺が長いことトイレを占領してしまっているのは事実だし、そろそろ出るとするか。んじゃ早くケツを拭いて……
……ん?ないぞ、確かにそこにあるはずのものが。
まずい、まずすぎる、緊急事態だ……ケツを拭くための葉っぱが無い。クソッ、ちゃんと補充しとけよ。
『は、早く……開けて』
まずい、このままでは俺はケツを拭かずにトイレを出ることになる。パンツをうんこで汚したとマーガレットさんに知られたら何て言われるか……ひいては寮のみんなに知られたとき俺のあだ名がうんこまんになってしまうかもしれない……
だからといってこのままでは、扉の前にいるやつがうんこを漏らす可能性が高い。奴の焦り具合からしておそらく長くは持たない。このままでは奴はうんこを漏らし、あだ名がうんこまんになってしまう。それだけで済めば良いが、俺まで風評被害を受けうんこまんと呼ばれる可能性もある。
クソッ、どちらにしろ俺はうんこまんと呼ばれるじゃないか……
一度冷静になり周囲を見渡してみると、壁際に葉っぱが一枚落ちていることに気づいた、これを使えば……
ん、待てよ。この葉っぱ、なんでこんな奥に落ちているんだ?それにこの茶色い部分……
まさかこの葉っぱ、誰かの使用済みか?なんて汚いんだ、触っちゃったじゃないか。
改めて状況を整理しよう。俺に残された選択肢は3つ。1つは新聞紙を使いケツを拭くこと。だがこれは紙が勿体無い上に、そもそもこの新聞は寮の公共物のため、ケツを拭くのに使いましたなんてことになったらマーガレットさんに何て言われるか……
もう1つは、おそらく誰かがケツを拭くのに使ったであろう葉っぱを使うこと。だがこれを使う場合は俺のケツに他人のうんこが付くことを容認しなければならない。なるべくこれは避けたいな。
となると3つ目、拭かない。いや……なしだな。
クソッ、どうすればいい。どの選択肢を選んでも詰んでいるぞ……
ほんとに出来ることは何もないのか?……いや、そうだ!!
「ふぅ、スッキリした。」
あの後、俺は自分の手から水を出し、それをケツに当てることでうんこを洗い流すことに成功した。なんとかうんこまんと呼ばれる事態を回避したわけだ。
『エルムおはよう』
ちょうどトイレから出てきた俺に対し、カイとミロが声を掛けてきた。
『飯食おうぜ!!』
「ああ」
あれ?俺何か忘れているような……気のせいか。
『まずい、葉っぱがないぞ……』
朝のうんこタイムほど気持ちの良いものはない




