第4話 学食じゃんけん
学園に来て初めての食堂。この王立貴族学園の学食は非常に美味しいものだと爺やから伝えられていて、俺も大変楽しみにしていたのだが……
「金がねえ、お前ら手持ちの金は?」
『僕は3200ルーン』
『俺は400ルーンだ』
悲しいことに下級貴族というのはそこらへんの商会よりも貧乏であり金がないのだ。
「俺も400ルーン。3人合わせて4000ルーンか……」
一番安い超貧乏貴族もどき日替わり定食でさえ2000ルーン。下級貴族をターゲットにしているはずなのに値段が高くふざけんなよというこの感じ、さすが恐るべき王都価格だ。一般的なランチが500ルーンほどで販売されていることを鑑みると非常に高い。
「つまり、俺たち3人の内2人しか昼飯を食うことが出来ない、ということだ。」
悲しいことに俺たちは争わなくてはならない。
『え、普通に寮に帰って昼飯食べればいいんじゃ……』
『ふっ、言いたいことは分かったぜ。つまり……やるしかないということだな』
「ああ、そういうことだ。やるぞ、じゃんけんを!!」
じゃんけん、俺が異世界にきて驚いたことの一つにそれがあった。なんとこの世界ではじゃんけんが当たり前にある。きっと俺の他にも転生者がいて、そいつが広めたのだろう。たぶん、しらんけど。
『ちょっと待って。それって僕がじゃんけんに参加する必要なくない?』
気づいてしまったか。カイの所持金は3200ルーン、じゃんけんなどせずとも1人で定食を買うお金があるのだ。カイが参加しなければ俺が定食を食える確率は2分の1。だが3人でじゃんけんをすれば確率は3分の2まで上がる。ここはなんとしてもじゃんけんに参加させなければならない。
『よーく考えてみろ、カイ。本当にじゃんけんに参加しなくていいのか。己の手で昼飯を、勝利を勝ち取りたくは無いのか!!』
「カイ、俺たちと熱い戦いを繰り広げようじゃないか」
『僕は、僕は……』
ミロと俺の意味不明な説得によってカイのじゃんけん参加が決定した。
そして、なんとしても昼飯を食べたい男達の仁義なき戦いが今幕を開ける!!
『俺はチョキを出す。』
出たな、あらかじめ自分が出す手を宣言しておくことによりじゃんけんを純粋な運の勝負から心理戦に持っていく狡い手。相手が心理戦に慣れていない場合には有効だが……
甘いぜミロ!!
日本じゃんけん協会勝利の法則10ヶ条を読破した俺にかかれば、お前の狡い手なんか簡単に見破れる!!
日本じゃんけん協会勝利の法則第6条によると、相手が次に出す手をあらかじめ宣言した場合そのまま同じ手を出す可能性が高い。つ、ま、り、パーを出せば俺の勝ちになる、ということだ。この勝負もらったぜ!!
……いや待てよ、ほんとにパーでいいのか。よく考えろ、俺。日本ジャンケン協会によれば、確かに宣言した手と同じ手を出す可能性が高いとあった。だがしかし、こいつはとんでもないホラ吹きだ。現に彼女がいないのにも関わらず、イマジナリー彼女をでっち上げてしまっている。果たしてそんな奴に日本ジャンケン協会のデータが通用するのか?むしろグーじゃない手を出す可能性の方が高く思えてきた。……一度奴の顔を伺うことにしよう。
クソっ、自信に満ち溢れた顔をしてやがる。よほど自分の出す手に自信があると見えるが、だがもうすでに出す手は決めているようだ。あとは俺が勝つだけだな。
改めて考え直そう。奴のホラ吹き具合ならきっと宣言した手と違う手を出すに違いない。そうに決まっている。となると俺が出すべきはグーかチョキ。奴がチョキかパーを出すなら、チョキを出せば俺は負けない。
懸念事項としては、日本じゃんけん協会勝利の法則10ヶ条は本来2人での戦いを想定して作られたものだが……まあその点に関しても抜かりはない。カイは素直な奴だからきっとミロの言葉を信じてパーを出すに違いない。
つまり、俺はチョキを出せば高確率で勝てるということ……完璧だ!!
「……やろうか。」
『ああ、もうゴタゴタ言ってもしょうがねえ。白黒つけようや』
『じゃあいくよ、学食じゃんっけんじゃんっけんぽん』
な、なんてことだ……
俺とミロがチョキで、カイがグーだと……
そんな、ばかな。俺が、この俺が、日本じゃんけん協会勝利の法則10ヶ条を完全読破したこの俺が負けただと……いや、しかし
『まだ、まだ終わりじゃない。』
そう、まだ終わりじゃないのだ。枠はあと一つ残されている。次こそは10ヶ条が通用するはず。どんな手を次に出そうか考えている俺たちに対しカイが……
『ねえ、提案があるんだけどさ……』
『うめぇ〜』
結局俺たちは、超貧乏貴族もどき日替わり定食を2つ買い3人で分けて食べることになった。
カイが取り皿を食堂のおばちゃんからもらってきてくれたおかげで俺たちの争いには終止符が打たれたのだ。
『みんなでご飯を食べるのって楽しいね!!』
かわいい。やはり彼を見ていると俺の新たな扉が開かれそうになる。
「ああ、だな!!」
『違いない』
王立貴族学園への入学が決まったとき、俺は正直行きたくないと思っていた。それは日本での学校生活が楽しいものでなかったり、この学園で学べることなんてほとんどないと思っていたりしたからだ。けど、こいつらと一緒に居られるのなら学園生活ってのも悪くないんじゃないか。そう思い始めている。
じゃんけんって面白い




