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ゼアミ  作者: がくぞう
26/52

26 一徹さんの男気

 PWMS・匠の第四回大会は、それからおよそ三か月半後のゴールデンウイークに、小石川ホールで開催された。

 五月一日――奇しくも俺の四十二歳の誕生日だった。

 贋作・与作を演じるために、小太郎は改めてプロレス・テクニックの基礎を徹底的に叩き込んできたようだ。俺との対戦を知らされてから、小太郎は『風姿花伝』にはいっさい姿を見せなくなった。あいつなりのプロ根性だと理解した。俺も覚悟をした。ごまかしのきかない技と技のプロレスを披露する時がきたんだ。

 大会が近づくにつれて、マスコミの取材も過激になった。与作と俺の父子関係や母親のことなどが、面白おかしく紙面を彩った。

 こういう事態はあらかじめ覚悟していたことなので、あまり気にはならなかったが、それよりも、妹や腹違いの小太郎のことをかぎつけられやしないかと、毎日ドキドキだった。幸い、大会当日まで真実がスクープされることはなかったが。

 俺は贋作・与作との一戦に備えて、清水一徹さんのもとで、若手選手たちに交じってプロレスラーとしての体力づくりを重点的にトレーニングした。

 贋作・与作との一戦は恐らく技の応酬による長期戦になることだろう。三十分フルタイムは覚悟しておかねばならない。

 一徹さんのトレーニングは四十を過ぎた俺には相当きつかった。若手の連中が平然とメニューをこなしていく横で、俺は歯を食いしばって一徹さんのしごきに耐えた。小太郎の野郎、こんなきついメニューを乗り越えてきたんかと思うと、俺は日を追うごとに不安になっていった。とてもじゃないが、小太郎と三十分闘える気がしなかった。

 そんな弱気な精神状態の俺を見かねてか、ある夜、寮生たちとの花見を終えたほろ酔い気分の一徹さんが、珍しく『風姿花伝』に現れた。一徹さんは、俺がコップになみなみと注いだ日本酒を一気に呷ると、

「アメリカで二十数年もトップを張ってきた新吾のどこに不安があるんだ。プロレスは力のゴリ押しだけじゃない。こんなこと今さら新吾に言うこっちゃないだろうが、長年にわたって培われた経験と技術がものを言う世界だ。それこそ、まさに匠の技じゃないか。プロレスラーとしてのこれまでの経験が必ず助けてくれる。まあ、自分を信じて闘うことだ。それにしても、与作か……実は俺はな、与作とは同期なんだよ。その上、生年月日もまったく一緒さ」

 えっ、そうなんだ。

 俺は、一徹さんが親父と同期で、なおかつ生年月日が同じだということを、この日、初めて知った。

「与作と一度でいいからリング上で闘ってみたかったな。団体が同じだったら、恐らくずんぐりむっくりの体形がそっくりだったから双子の兄弟コンビとして売り出していただろうな」

 あの一徹さんの表情が緩んだ。久しぶりに笑い顔を見たような気がする。ホッとした。

 一徹さんは、いっさいつまみを口にすることなく、コップ酒を三杯飲み干すと、「ま、小太郎の奴をアメリカでの二十数年のキャリアで鍛えてやってくれよ」と平然と席を立って『風姿花伝』を出て行った。

 一徹さんの座っていたパイプ椅子には一万円札が置かれていた。その飲みっぷりといい、振る舞いといい、一徹さんって、まさしく昭和の(おとこ)だなと思った。


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