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瀧本と愉快な仲間たち


 この前と全く同じセリフに三人がギョッとして振り返った。奏真もギョッとする。

 え? まさか。

 そのまさかだった。瀧本がまたニコニコして立っていたのだ。しかも、今度は背後にものすごく性質が悪そうな人相の仲間を五人くらい従えていた。


「え……あの……あ、すんません」


 三人は青ざめた顔で奏真の襟から手を離し、軍隊のように真っ直ぐにピッと立った。奏真がまた地面にへたり込む。


「おい、ヤベェよ……」


 三人がガクガク震えながら呟く。奏真は地面に座り込んだまま頭上で広がる光景をただ呆然と見ていた。


「その子、俺の大事な子なんだわ? 返してくれないかな?」


 瀧本が奏真を指差してニッコリと笑う。

 追いかけまわしていた三人が慌てて奏真の脇に手を入れ引っ張り上げた。ひとりがパンパンと奏真の尻や膝の埃を払う。


「いや、あの、俺ら……本当になんにもしてないんで……あの……」


 声を震わせ半泣きで弁解する三人に、瀧本がゆるい口調で言った。


「もし、今度こいつにちょっかい出したら、コロすよ?」


 こっ!


「ひっ! は、はい。わ、分かりました!」


 奏真は三人の不良たちと一緒になってピシッと背筋を伸ばした。

 三人が頭を下げながらスゴスゴと逃げ去る。取り残された奏真はポカンとしたまま動けなかった。


「……おーい。大丈夫か?」


 瀧本はキョトンとした顔で、奏真の顔の前で手をヒラヒラと振ってから、背中をバンバン叩いた。


「いぎっ」


 痛烈な振動に変な声が上がる。ジンジンする背中。奏真は目尻に涙を浮かべながら己に言い聞かせた。

 きっと、きっと、これはさすってるつもりなんだ。

 奏真の痛みに耐える顔に、瀧本はまた笑顔になった。


「おお。気絶してるわけじゃねーよな」

「お、起きてます」

「で、お前、こんなとこでなにしてんの?」

「あいつらにバッタリ会ったら追っかけられちゃって……ってか、ありがとうございました」


 奏真は瀧本にパッと頭を下げて、うしろの強面の男たちをそーっと覗き込み、感謝の意を込めてペコペコとお辞儀した。


「だから〜、中ボーがこんな時間にフラフラするからだろ?」

「西高っす。二年の水瀬っす」

「わははは。分かってるよ。バカ」


 どっちがバカなんだよ。と奏真は思ったがそんなツッコミはもちろんしない。


「んで、こんな夜にどこ行くつもりだ?」


 唐突に聞かれ、答えられるわけもなかった。奏真の唇は徐々に尖がり、表情もどんどん曇っていく。俯いていく奏真に合わせ、瀧本の顔も斜めになる。


「……瀧本さんのトコ」


 奏真が観念してボソッと言うと、瀧本は、手のひらでバッ! と口を塞ぎ、大きな体をクネクネと左右に揺らした。さっき物騒なことを言った人物とは思えない。あの瀧本さんはどこへ行ってしまったのか? と頭の中だけで再びツッコミを入れる。


「だから、お前なぁ。来るならメット持ってこいよ。それにメールしろよ」


 奏真はパッと顔を上げ、ズイッと踏み出した。


「しても良かったんすか!?」

「なんのためにアドレス交換したんだよ。バカじゃねーのか?」


 そう。俺はバカなことばかり考えちゃう大バカ者だ。恋しいくせに強がって、会いたいくせに遠慮して。でも……でも、嬉しい。

 鼻の付け根にツンと刺激が走った。呆れ顔の瀧本を見上げ、奏真は満足そうに言った。


「うん。俺、バカです」


 瀧本は困ったように頭をガリガリ掻くと、奏真の肩に手を回した。そして、ドドドとエンジンが唸るバイクと、怖そうな顔面の集団の元へ連れて行く。

 このままこの人達とどっかに行くのかな? 俺はもしかして、このまま仲間入りしちゃうんだろうか……。て、ゆーか完全に浮いてるよね……うまく馴染めるだろうか?

 緊張しながら瀧本の腕の中で首を竦める。

 ついに仲間入りかと覚悟を決め目をギュッと瞑った瞬間、瀧本の口から予想外の言葉が出た。


「わりー。俺、今日は帰るわ」


 謝る瀧本へ強面の連中からブーイングが起こる。

 どうしよう……。俺のせいだ。

 身を竦めた奏真は意を決し声を出した。


「あっ、あの……俺、」


 奏真が弱々しい声を漏らした途端、瀧本がグイと奏真の肩を引き寄せた。


「生き別れになってた弟が俺に会いに来てくれたんだよ。だから……わりーなホント」

「は?」


 奏真は口をポカンと開けた。

 強面の連中も、皆が口をポカンと開け瀧本と奏真を交互に見ていたが、なにをどう納得したのか「うんうん」と頷きだした。


「そっか……そういう事情が……可愛い弟じゃないか」


 うそーーーーーーんっ!

 奏真は驚愕し、さらに口が大きく開く。

 二人の周りにはしっとりした空気が漂っている。涙ぐんでいるスキンヘッドや金髪、眉毛の無い男たち。そんな瀧本の仲間を見て奏真は思った。

 なんて単純な人達なんだ……。よく今まで生きてこれたなこの人たち。


「ありがとう。みんな」


 瀧本はニコニコして、バイクに跨りやはり赤い半ヘルを奏真の胸へトンと押し付けた。


「危ないから、ちゃんとベルトしろよ」

「う、うん」


 奏真を見る瀧本の目はとても優しい。振り向けばいかつい男たちが「うんうん」と涙を滲ませながら頷き、温かい眼差しでこちらを見ている。

 ほわほわした視線に挟まれ、気恥ずかしいと思いつつヘルメットをグイと被った。ベルトを留めると、顎にチリッと痛みが走る。


「いっ」


 ベルトがさきほど転倒した時の傷口に触ったらしい。瀧本が「ん?」と振り返る。


「どした?」

「あ、うん。顎が」

「見せてみろ。ああ、大したことねぇ。ただの擦り傷だ」

「うん」

「三人からボコられず逃げおおせたんだ。名誉の負傷だな」


 名誉の……無様に転んだだけなんだけどな。

 そう思いつつ、奏真の口元も誇らしげにゆるむ。

 奏真は「うん」と瀧本へ頷き、強面の男たちにもう一度頭を下げた。バイクによじ登り瀧本の背中にしがみつく。瀧本は奏真の両手を掴むと、またジャンパーのポケットの中へグイッと押し込んだ。


「裏の細い道から帰るから、しっかりつかまってろよ?」

「はい!」


 ポケットの中の手で奏真はグイッと瀧本の体に自分の体を引きつけ、ぴったりくっついた。瀧本のポケットの中はやはりぽかぽかとして温かい。

 奏真はしがみつく手に力を込めた。



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