再びのスーパーヒーロー
学校を出た奏真は繁華街へ向かった。
コンビニへ入り、雑誌コーナーを眺めていると、フリーペーパーが目に入った。
「…………」
薄っぺらいバイト情報誌を脇に挟み、ピザまんと緑茶を買ってコンビニを出る。小さな公園のベンチに腰を下ろした。雑誌を捲りながら晩飯代わりのピザまんを頬張る。
ふーん。アルバイトもいろいろあるんだなー。
他人事のように、ただ募集広告を目で追う。
引越し屋、飲食店の洗い場、カラオケスタッフ、ガソリンスタンド。いろいろありすぎてどれもピンとこない。働くイメージもわかず、探すとは名ばかりの状態。雑誌と飲みかけのお茶を袋に戻し、奏真はまた歩き出した。
カラオケ、ネカフェ、時間をつぶせる店は街にはいろいろあったが、バイト雑誌持った人間が入るのもおかしいと思った。実際、財布の中身にも限界がある。
いつものゲームセンターが見えてきた。
また瀧本さんに会えないか? そんなかすかな期待を胸に入店する。昼間とは比べ物にならない程、賑わってる店内。瀧本どころか、この前の男たちに出くわさないかとそちらの方が心配になってきた。
瀧本を探し半分、警戒半分で店内を巡ったが、運良く男たちには出くわさず、運悪く瀧本も見つからなかった。
百円のゲーム台に座り、限界まで時間を潰す。ワンプレイやツープレイでお終いにならない自分を褒め称える。そんな奏真にもやはり終わりは来るもので。もう一枚百円を投入するのを止め、奏真は辺りを見回しながらゲームセンターを出た。
お金も使わず、どこでなにをするってんだろ……。
彷徨うことしかできない虚しさに、奏真は口を尖らせ鼻を鳴らした。だんだん手が冷えてきて上着のポケットに両手を突っ込む。若干の寒さしのぎにはなったが、瀧本のジャンパー程あったかくはなかった。思い出すと、無性に瀧本に会いたくなる。
……ああ、そうか。こんなところにいるわけない。
瀧本が七時から道路工事のバイトをしていると話していたことを思い出す。現場がどこなのかちゃんと聞いときゃ良かったと、詰めの甘さを嘆いた。
確実な情報はなにひとつないが、幸いなことに時間だけはたっぷりとある。
こうなったら、国道を歩きまくってやれ。
やっと目的を定めることができてホッとする。目標じゃなく、目的を持つ。それは現実的な行為でとてもいいことだと奏真には思えた。
早く見つけなきゃバイトが終わっちゃうかも。
奏真は歩幅を大きく、足を素早く動かした。警備会社のバイトの時間になればそれこそ会える可能性はゼロになる。
信号でやむなく足を止めた時だった。向こう岸の歩道を前方から歩いてくる三人組の姿が見えた。なんとなく見覚えのある三人組はゲーセンで絡んできた男たちだった。三人のうちの一人も奏真に気づいたようで、他の二人に指をさし奏真の存在を知らせている。
ちっ。めんどくさっ。
奏真は信号を待たずにクルリと左へ方向転換した。足をさらに速く動かす。次の角を曲がってまた次の角。なるべく元の繁華街へ戻らないようセカセカ歩いた。しかし、バタバタと追い掛けてくる足音と声に追いつかれてしまう。
「おい! おいって。なんで逃げんだよ」
「あれ? どこいった?」
「こっちに行ったんじゃね?」
ひえーーーー! なんで追っかけてくんのよっ!
奏真は足音を立てずに、静かに走った。
しつこく追ってくる気配はなかなか消えない。
ただ闇雲に突き進んで三人から逃げまくる。もう、どこをグルグルしてるのか奏真自身も分からない。気づけば路地から抜け、開けた通りに出てしまっていた。ここをまっすぐ出ても大通りで隠れる場所がない。
迫る足音。背後から「止まれや!」と声が聞こえる。もう曲がる道もない。とりあえず前方に見えるコンビニの看板を目指しダッシュした。レジのそばにいれば三人も絡みようがないだろうと踏んだのだ。なにかあれば店員に「警察に電話して」と叫べばいい。
コンビニの横には、潰れたような古いオート洗車機と駐車場があった。その薄暗い駐車場に二十台くらいのバイクが集まっている。ドドドと地鳴りのように低く響くエンジン音。コンビニの駐車場は明るいのに、そこだけがやたらと暗い。街灯もその一角だけ切れていた。しかし怖じ気づいている場合ではない。三人が奇声を発し、今にも後ろから追いつかんと迫って来ているのだ。
「お! みーっつけた!」
「なんで逃げんだよ!」
ひゃっ! と奏真の背筋が伸びた。昔見たサスペンス映画を思い出す。これだけ逃げて捕まったらそれだけで三人にはボコるのに十分な理由になる。奏真は走りを全速力に変えた。
口内に鉄の味と熱い息が満ちる。走り続け、喉はカラカラに干上がっている。気持ち悪い。吐き気を感じながらダッシュし、奏真を捕まえようと向かってくる声から逃げた。しかし、もうとっくに奏真も体力の限界を迎えていた。
スピードや瞬発力に自信はあったが、帰宅部なだけに哀しいかな持久力は無い。コンビニを前に足はもつれ、奏真はべしゃっと無様に転がった。ガツンと顎に衝撃が走る。
「あははは! だっせぇ!」
奏真が立ち上がろうと上体を起こすと、追いついた三人が周りを囲んだ。嘲笑い奏真を見下ろしている。
「ったく、すばしっこくちょこまかと。走らせやがってよー」
「俺らがなんかしたみたいじゃねーか」
なんかって追っかけてきたクセに!
そう心の中で文句をぶちまけると、三人組の一人にグイと襟を掴まれ引き上げられた。
ヤバイ、殴られる!
奏真は歯をくいしばり、顔を背け身構えた。
「あーごめんごめん! ちょおっといいかなぁ?」




