6 奴との再会
読むのに疲れるかも知れませんが・・・・ごめんなさい
「ククリや、一緒にお参りに行きませんか?」
「はい・・・・」
ある日清衡の母、有加がククリと一緒にある神社へ行きたいと言った。それは胆沢郡の南下のところにある磐神社だった。
そこには大きな岩が祭られていて、その神は今は伊邪那岐神となっているが、この神社を建てたのは安倍氏であり、その時祭られていた神はアラハバキだった。
有加は自分の一族が崇拝していたアラハバキの神にククリと一緒にお参りしたかった。それでククリは有加と共に磐神社へとお参りに出かけることになり、ヤエもククリと久狼と一緒にお参りに行けるとこを大喜びした。
* * *
当日護衛の十数名の郎党に、有加、ククリ、ヤエ、タチ、そして久狼もいた。
「クックックッ・・・・」
「だから何なのじゃ!」
ククリは貴族が外出する時に着る、壺装束を身にまとい、薄い布を長く垂らした垂衣を付けた笠をかぶっていた。
久狼はその姿を見てやっぱり笑い、ククリは顔を赤くして怒った。
* * *
「久狼殿、どうやったらあの飛んでいる3羽の鳥を射止めることが出来るのですか?」
「そりゃ、タチはまだそこまで己の感覚を研ぎ澄ませてないからだよ。あと今のタチの歳では強弓を引くには力不足だ」
神社に向かう途中、タチと久狼は話をしていた。タチは素直に久狼の強さを自分も身につけたいと思い、目を輝かせながら久狼に色々と尋ねていた。
久狼も良い弟が出来たような感覚でタチに付き合っていた。
「いつか、久狼殿のように強い人になり、ゆくゆくはこの奥州にふさわしい長になりたいです!」
「・・・・・・・・そうか」
館から休憩を入れてだいたい6時間、磐神社に到着した。数件の家と田畑の中にあるその神社は社の後ろに大きな岩があった。
その岩こそアラハバキ神であり、疫病、戦、邪霊を追い払い、豊作を祈願する神だった。
「久狼、肩車!」
「へい・・・・」
お参りを済ませて、皆一休みしているときに、やっぱりヤエが久狼の背中に飛びついてきた。
久狼はヤエの言うとおり、神社をグルグルと回った。
「ねぇ・・・久狼・・・」
「ん?」
「久狼はどうして父上が嫌いなの?父上は久狼と仲良くなりたいと思ってるよ・・・・」
ヤエが少々子供故の純粋でありながら重い質問を久狼にしてきた。
「・・・・ヤエのミチが作ろうとしている世界と、俺がずっと居たい世界が違うからだよ」
「でもね、久狼・・・・父上はこのアラハバキ様も大切にしてるよ」
「そうみたいだな・・・この神社も安倍氏の頃から消さずに残しているからなぁ・・・」
「前に父上が言ってた。久狼殿は我々が生きてきた記憶を誰よりも大切にしている。だからこそ久狼殿には私の創る未来を見て欲しい・・・・って言ってたよ!」
「・・・・ヤエはその意味が分かるのか?」
「分かんない!」
* * *
「久狼殿!明後日、わたくしと一緒に胆沢城へ参りませんか?」
ある日、久狼が館の隅っこでまるで野良犬のように何も無しに座っていたら清衡がやってきた。そしてここから北上川を越えたところにある胆沢城へ一緒に行かないかと誘ってきた。
その城柵はかつて大和とエミシの戦いの時に創られた城柵で、今でも鎮守府として、この地を管理していた。
その鎮守府将軍というのが、陸奥守である義家だった。
「実は家衡がわたくしとの和睦に応じてくれたのです!胆沢城で義家殿の元で、我ら兄弟がようやく仲直りできる。その場に是非とも久狼殿にも胆沢城に来て欲しいと言っておられます・・・・」
「清衡・・・・これで、本当にあなたと家衡の争いが無くなるのですか?」
近くで聞いていた有加が希望に満ちた顔をしながら近づいてきた。
「もちろんです!今まで母上にはつらい思いばかりさせてきました。ですが、これからはわたくしが母上を幸せにいたします」
清衡はついに自分の悲願が叶うと感激していたが、久狼は良い気持ちではなかった。久郎は了承だけして、その場を離れると、館の裏に回ってククリがいる部屋の方へ歩いていった。
「お〜い、ククリ〜」
ククリの部屋は絶えず御簾が掛かっていた。これは平安貴族の習わしで女性は自分の夫以外に顔を見せてはいけないらしく、扇子で顔を隠すことだってある。
ククリも帝の嫁ぐための花嫁修行でそうなっているのだが、久狼はそんなの知ったこっちゃない、普通に御簾を上げてククリの部屋に入るというめちゃ無礼な事を平気でやる。
「久狼・・・・待ってた」
実のところククリも久狼が来てくれた方が嬉しかった。これも貴族の習わしで女は滅多に外出など出来ず、ほとんど部屋の中に閉じこもっている。
そのせいでククリの話し相手と言えばヤエと久狼しかいなかった。部屋の隅にはもう身につけることはない自分の太刀と弓と直垂が大切に置いてあった。
「そうか・・・・良いではないか、義家様にお会いすれば」
「俺はどうでも良いんだよ・・・・武士の大将なんてよ・・・・」
「・・・・そうじゃの、久狼はエミシじゃからの・・・・」
「ククリ・・・・どんどん元気が無くなってゆくぞ?」
覚悟を決めたとはいえ、ククリは帝に嫁ぐために修行をすればするほど自分が消えていきそうな気分を抑えることが出来なかった。
そんなククリがいつもより優しい笑顔で久狼に告げた。
「久狼・・・・いよいよわらわは都へ行く」
「・・・・行くな」
久狼はたまらずそう言った。
「7日前じゃ、もう貴族のしきたりを完璧に覚えた。それで清衡が都に使いを出したのじゃ。もうすぐ都からわらわを迎えに使者が来る」
それは2人とも承知していたことだった・・・・そのはずだった。
「久狼・・・・この地で独りにならないで」
* * *
その夜、これまた貴族が使う御帳台の中でククリが眠れぬ夜を過ごしていた。
ガタ、ガタ、ガタ・・・・
え?・・・・
突然、閉じてある蔀が動き出した。
「ククリ〜」
蔀が開かれるとカモシカの毛皮、ケタビなどの冬装備を身につけた久狼が夜にククリの部屋に入ってきた。
「さぁこい」
「えっ!な、何じゃ!?」
「静かに・・・・」
久狼は有無も言わさず小袖と袴だけのククリの手を握って外に出した。
「よし、これを身につけろ」
久狼はククリのためにもう一式、冬装備を用意していてそれを着させた。そして近くにある小屋へククリを連れて中に入ると戸を閉め、奥にある荷物をどかし、敷いてあったむしろをどかすと、穴が現れた。
「どうだ!」
なんと久狼はこの館に来てから人知れず抜け穴を掘っていたのだ。
「すごい・・・・」
2人はそれで塀を抜けて警護をしている郎党達にバレないように館を抜け出た。そして館から離れたところの木に2頭の馬が繋いであった。
「そこら辺から頂いてきた」
「あぁ・・・・そうか」
2人は馬に乗ると奥州の森目指してかけていった。季節はもうすぐ雪が振ろうかという時期での夜だった。確かに寒かったが外に出れたククリには心地よい風が流れていた。
「ククリ見てみろ!」
「・・・・・・・・綺麗」
木々を抜けて開けたところに出ると、空には以前、風来の郷で見た時よりももっと綺麗な星空が見えていた。
「これをククリと一緒に見たかった」
「うん・・・・」
2人は馬から降りると側にある大木の枝に馬を繋ぐと一緒に大木に腰を下ろした。
「ククリ・・・・向こうで・・・・独りになるな」
「ありがとう・・・・」
* * *
当日、久狼はククリを館に置いて清衡と共に胆沢城へ向けて出発した。清衡は希望を胸に抱き未来に向かって歩むように眼を輝かせて奥州の大地を進んでいた。
それとは反対に久狼はどうも気が晴れず、楽しい気分などなれなかった。
奴は・・・・・・・今どこにいる・・・・・・・
そう思いながら久狼は清衡と共に北上川の所までたどり着いた。
「!?」
突然、久狼の五感が告げた。
「久狼殿?」
清衡が不思議に尋ねる。
「来る!」
久狼は馬を返すと、大急ぎで館へ引き返した。
* * *
「・・・・来るのか!?」
館でククリも、奴が来るのを察知した。ククリは十二単を脱いで小袖と袴だけになり、太刀を腰に帯びて弓を持って母屋から飛び出した。
「誰だ・・・・あいつは?」
しばらくして櫓に立っている二人の郎党がこちらを見上げている男が現れたのに気づいた。
骸の死者が刀を持って、館に現れた。死者は久狼とククリがくぐった門前に立っていた。櫓に居る同丸鎧を着けた二人の郎党が死者を警戒した。
骸の死者は腰に差していた無数の刃渡り一尺(30センチ)ほどの小刀を2本抜き、櫓に居る郎党めがけて1本を飛ばした。
ザスッ!
死者が投げた小刀は郎党の額に突き刺さった。
「敵襲じゃー!」
残った郎党が叫びながら死者に弓を放とうとした。だが二人目の郎党も同じ結果になった。一瞬にして館が騒然となった。館を警護していた無数の郎党達が弓、薙刀、太刀を持って、骸の死者と対峙した。
「義母上様!早くお逃げください!」
ククリは母屋に居る有加達に叫んだ。
だが有加とその家族は恐怖で動けなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・・」
ククリの呼吸が荒くなっていく。それでもククリは太刀を帯びて、弓を構えて待ち構えた。母屋では有加と清衡の娘は震えて動けない。清衡の息子は自分も戦うと鎧を身につけ太刀を抜いた。下の方では、郎党達の叫び声が聞こえる。
しばらくして下で声がしなくなり、ついに死者がもう一度、ククリの前に現れた。
20丈(60メートル)ほどの距離まで近づいた時、ククリは死者めがけて、矢を放った。
ヒュッ・・・・!
ククリは絶望した。骸の死者は高速で飛んでくる矢を自分の眼に当たる寸前、左手でつかんだ。
ククリは弓を捨てると太刀を抜いて死者に突進した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
死者の心臓めがけて鋭い突きを入れた。だが死者はそれを躱すとククリの胸ぐらを掴んで数メートル離れた塀の所へククリを軽々と投げ飛ばした。
「あぅ!!!」
ククリは塀に勢いよく叩きつけられ、地面に倒れ込んだ。すぐに起き上がって落とした太刀を拾って戦わねばならないが、激痛に身体が動かなかった。
うつ伏せになったまま、ククリは死者を睨み付ける。近づいてくる死者。だが死者はク方向転換して母屋のほうへ歩みを変えた。
「まっ・・・待て!!!」
ククリが叫んだ。
だが死者は無情にも母屋の中へ入っていく。中には震えるヤエを有加が震えながら必死に抱きしめ、タチが恐怖の中で必死になって太刀を握り、その他の息子と娘達は壁のほうで動けなくなっていた。
「止めろー!!!」
身体の奥底から声を出した後、ククリの心に痛みが走った。
すぐに死者が再び顔を出した。ククリは必死になって動けぬ身体を動かそうとした。それを死者はあざ笑うかのように鋭くとがった犬歯を見せて地面に降りた。
ダァン!!!
一瞬にして死者の全身に危機感が走りその場から一歩下がり、笑顔が消えた。そして死者は母屋に刺さった矢を見て、飛んできた場所を見た。
「殺したのかー!タチをヤエをー!」
馬に乗った久狼がそこに居た。
「12年・・・・よくぞ生きた・・・・」
絶対の自信に満ちた笑顔で骸の死者は刀を片手に持って、久狼に近づく。身の丈、5尺8寸(174センチ)。久狼の蕨手刀の刃渡り、一尺7寸(51センチ)ほどに対して身の丈6尺(180センチ)を優に超え、手にした刀の刃渡りは久狼の蕨手刀の倍はあろかという長さで切っ先に行くほど幅が厚くなっていく刀を持って久狼に近づく。
久狼も馬から降りて相手に近づいた。
骸の死者は刀を右手で久狼の胴体めがけて下から上に斜めに振り上げた。
ザッ
久狼は一呼吸早く相手の懐に飛び込んだ。先ほどまで骸の死者に有利だった間合いが久狼の方に傾いた。久狼は相手の喉を蕨手刀で切り裂こうとした。
「!?」
久狼が相手の喉を切り裂こうとした瞬間、骸の死者は蕨手刀を持っている久狼の右手を左手でつかんだ。
・・・・死ぬ・・・・
久狼の頭の中でこの言葉がよぎった。次の瞬間、久狼の身体は宙に浮いた。骸の死者は自分の身体を回し、遠心力の勢いで左手一本でつかんでいた久狼を投げ飛ばした。1丈(3メートル)ほど飛ばされた久狼は地面に背中を打ち付けた。
・・・・ちきしょ・・・・う
激痛を必死に耐えて久狼は立ち上がった。骸の死者が笑いながら近づいてくる。久狼は息が荒く、足下はふらついていたが眼は奴をにらみつけていた。
「・・・・狼の眼だ・・・・300年前、最後に俺と戦ったあいつと同じ目だ!」
その眼を見て死者は昔を思い出した。
ブワァッ!!!
死者が久狼の胴体を切り裂くように、平行に刀を振った。久狼は風に飛ばされるように後ろへ避けた。
・・・・あの長い武器をあんなに軽く扱ってやがる・・・・
久狼は蕨手刀の間合いに近づくことが出来ない。武士が太刀で戦った時でも勝利できる久狼も奴の腕から振るわれる刀に太刀打ちが出来なかった。
「確かにお前は貴重な人間だ。誇りを最後まで守り抜いた・・・実に惜しい・・・ゆえに最高に狩りが出来る人間だ・・・・」
骸の死者が絶対的優位を誇示しながら、久狼に近づいていく。
そして、右手に持った刀を久狼の胴体めがけて、振った。
「!?」
骸の死者は驚き、一瞬動きが止まった。すぐに後ろを振り向いた。
久狼とククリが骸の死者から消えた。
死者はゆっくりと母屋へ戻ると母屋の中も見た。
「3人か・・・・」
* * *
気がつくと、ここは久狼とククリと初めて会ったあの社だった。
「あなたは!」
突然、ククリが久狼の背後を見て驚いたので久狼も後ろを振り向いた。
久狼の後ろの壁にあの翡翠の女が優しく微笑んで立っていた。
「あんた・・・・アラハバキだったのか?」
久狼は長年不思議だった翡翠の女の正体が今、分かったような気がした。
「瀬織津と言ってほしいです」
翡翠の女は久狼の問いに笑みを浮かべながら自分の名前を言った。その名を聞いたとき、久狼は眼を丸くした。
「ククリ、知ってたの?」
様子からしてククリも知っているのだろう、久狼は混乱している頭でククリにも聞いてみた。
「小さい頃より、時々出会っていた。じゃが、瀬織津姫様だったのは今初めて知った」
翡翠の女は瀬織津姫だった。ずっと昔から人々が崇め、今は忘れ去られた神が自分の目の前に立っていた。
突然、社の扉が開いた。久狼とククリが扉の方を見た。そこに風来が立っていた。あの太刀を持って。
「おっさん・・・・年いくつ?」
久狼は驚きながらも、いつもの言葉を風来に言った。
「久狼・・・・ワシの話をきいてくれねぇか?」
「???」
神妙な顔で風来が中に入って久狼に近づき、目の前で座って、何やら真剣な話を久狼に今しようとしている。久狼はとりあえず話を聞くことにした。
「おめぇは、よくわしの年を聞いてくる・・・・久狼、わしは一度死んだ・・・・」
「・・・・・・・・???」
風来の言葉に久狼は無反応だった。何を言っているのか分からなかった。
「ワシのかつての名はモレだ」
「・・・・なんで、300年前の人間が今でも生きてんだよ?」
風来のかつての名を聞いたとき久狼は信じられなかった。その名は300年前、自分たちを率いて戦った男の側についていた友の名だった。
「300年前、自分たちが死ぬとき瀬織津姫様に復活をお願いした・・・・」
「俺達を率いた男は今、どこにいる?」
「・・・・あいつは向こうの世界へ行った・・・・・」
風来は300年覚えていた記憶の中の、友の言葉を思い出しながら語った。
* * *
「なぁモレ・・・・俺がもう一度、復活したらどうなる?」
「・・・・もう一度、俺達と大和が戦をして・・・・奴も来る」
300年前、久狼が着ている直垂に描かれた同じ模様の着物を着た風来が友と一緒に奥州の大地で馬に乗っていた。
彼が今日まで忘れずにいた友との最後の思い出であった。
「俺は間違っていたのか?俺なりに、仲間の未来を想って行動したつもりだった・・・・モレ、すまんがお前に託したい。
もし、未来に俺のような者が生まれたら・・・・仲間のために正しい道を歩めるようお前が導いてやってくれないか?」
「・・・・責任重大だな」
300年前の4月、二人は大和に投降した。8月二人は河内国の処刑場へと移送され、その地へ来たとき、死者が立っていた。
右手に刀を持ち、左手には2本の蕨手刀を持っていた。死者は二人の前に蕨手刀を投げた。そして2人の縄が解かれた。
* * *
「俺達は最後の最後で奴と直接戦い、奴に殺された。気がついたら俺はこの地に立っていた。友は居なかった・・・・。
だが、ワシは独りでは無かった。妻と、ワシらと最も親しかった34名の仲間も瀬織津姫様にお願いして・・・・今日までワシと共に生きてくれた。
刀匠になり、名を風来に変えて・・・・変わったなぁ。ワシの姿を見ろ。今の時代の姿だ。敗北にも似た寂しさの中、時代を生きるとはそういうことかもしれんと思った。
そんな時、出会った。お前らの親父達だった。もう70人程しか残っていなかった貴重な・・・・仲間だった・・・・。
そしておめぇは、わしらの最後の貴重な独りだ・・・・」
「まだあんたも生きてるじゃないか。これからもずっと死なずに生きていけるのか?」
久狼のこの言葉に風来は極めて落ち着いた言葉で返した。
「いや、どこかで終わらせなければならねぇ。300年の間、色んな人間が色んな思いを抱いて死んでいった。
俺も・・・・いつまでもわがまま言うわけにはいかん」
「・・・・あんたも消えるのか俺の前から」
久狼が弱気になった。
そんな久狼に風来が一度久狼に渡そうとした太刀をもう一度久狼に見せた。
「20年前・・・・再び奴が現れた。そして10年前、また俺達の仲間が殺された。そのとき、ワシは瀬織津姫からこの世の物とは思えない鉄をもらって、その鉄にワシらの魂を注ぎ込んでその太刀を作り上げた。
久狼、お願いじゃあ!それで奴を倒して・・・・生きてくれ、ククリと共に!」
風来がそう言って、久狼にこの太刀を受け取るように促した。
久狼は、鞘を握り風来から太刀をもらうと、鞘を抜いた。光り輝く刀身が現れた。
「わしらは馬に乗り、弓を扱い、蕨手刀を腰に帯びていた。それを受け継いだのが武士だ。蕨手刀から生まれたのが太刀だ」
* * *
骸の死者と戦うまでの間、久狼は森の中で太刀の鍛錬をした。
「久狼、生きておったか!」
「あっ義家・・・・殿」
森の中で鍛錬中、偶然義家との3度目の再会をした。馬に乗った義家に久狼は頭をかきながらぎこちなく頭を下げた。
その姿に義家は笑いながら、久狼が太刀を持っているのを無視しなかった。
「武士になったのか?」
「正直、まだ清衡とは馬が合わねぇが・・・・まずは武士と馬を合わせることにした」
「そうか・・・・其れがしは家衡を討つことにした。館を襲い、清衡殿の家族を奪ったのは家衡に間違いない!」
「・・・・骸の死者じゃねぇのか?」
「清衡殿も其れがしの所へ向かう途中に家衡の軍に襲われた。これで決まった。もしかしたら骸の死者も家衡の手の者かもしれん・・・・」
「あぁ・・・・」
久狼は家衡はついていない者だと思った。家衡も心のどこかで清衡あるいは義家に対して耐えられない理不尽があったのだろう。
だが、運命は清衡を助け、家衡を見捨てた。
「ところで久狼・・・・館で有加殿とタチ、その他の清衡の子らの亡骸は見た。その中でヤエは無事に其れがしが保護しておる・・・・ククリ殿の亡骸が無い。知らぬか?」
「ちょっと待て・・・・ヤエは生きてる!?」
「うむ、不思議なことが起きた。館が襲われたとき、胆沢城にいた其れがしの目の前に突然ヤエが現れた。ヤエも何が起きたか分からず、2人で困惑しておった」
「そうか・・・・ヤエは生きているのか・・・・」
「うむ、じゃがククリ殿の生死が分からぬ」
「・・・・俺も知らねぇ」
「・・・・そうか」
久狼の答えに義家は笑みを浮かべながら頷いた。
「久狼・・・4年前、帝が八幡宮へ行幸のとき、我ら武士に護衛を命じた。都で貴族共らに野蛮と罵られた我ら武士が帝の護衛をした。
新しい時代が来るのだ!清衡殿は幼いとき父を殺され、そしてヤエを残して家族も殺された。だからこそ清衡殿は自分がこの世でするべき事を決めた!この奥州にも清衡殿があたらしい時代を持ってくる!
・・・・生きてくれ、お主にはいつの日かまた会いたい・・・・」
そう言って義家は馬で駆けていった。
「義家は清衡の心と共にお前の心もくみ取っていた・・・・」
久狼の後ろから風来の声がした。久狼が振り向くと風来は2頭の馬を連れて立っていた。
「必要かと思って馬を調達してきた」
「そりぁあ、ありがたい・・・・さっきの言葉はどういう意味?」
「ん?義家はお前がククリは知らねぇと嘘ついたらそれを受け入れたじゃねぇか。ククリに関しては清衡よりもお前のククリに対する想いをくみ取ったんじゃぁ~」
「・・・・・・・・ちょっと待て!それは無い!!!」
久狼は真っ赤になって否定した。風来はこらえきれず大笑いした。
* * *
久狼は社に戻った。社の中で瀬織津姫は自分と同じククリの白い髪をといていた。
「瀬織津、ヤエも逃がしたのか!?」
「いえ、私とてあなたとククリだけで精一杯でした」
「じゃあ・・・・誰がヤエをあそこから逃がした?」
久狼はあんなことを出来るのは瀬織津姫以外いないと思った。だから瀬織津姫が否定したのは以外でますます誰がやったのか気になってきた。
「わらわじゃ・・・・」
ククリが恐る恐る答えた。
「あの時、わらわの中から不思議な力が出て、ヤエがあそこから消えたような気がしたのじゃ・・・・ただ、わらわも自分のやったことが信じられなかった」
「タチは・・・・助けられなかったのか!?」
「わらわでは・・・・ヤエだけで精一杯じゃった」
ククリは久狼に申し訳なさそうに言った。
「・・・・1人でも良い・・・・ヤエだけでも生きてて良かった・・・・」
久狼の眼から涙がこぼれた。大粒の涙を流してククリに何度もお礼を言った。
「ありがとう・・・・ありがとう・・・・」




