204.壁内病院で検査
「あの、外出禁止、と言うか自宅謹慎になって⋯⋯」
「ああ、それか⋯⋯」
改めて、サキちゃんの指示で対外的にボクは病気になって喜多村の屋敷、敷地からは出られなくなったと話すと、マキナはもう聞いていたらしい。
「──もう仕方ない。壁内学校でも視察するか?」
「何それ?」
壁内学校? ここは病院や農園もあるし、壁内はもう自給自足コミュニティじゃないの?
「喜多村の恥部であり、世間に非難され喜多村が嫌われる要因の一端でもある」
良く分からない。謎だ。
世間で辛い思いをした男子や、生殖能力が低く外では生活が困難な子などを、年齢を重ねて能力を失った者を教師にして学校の真似事をして生活しているとマキナが説明してくれた。
結構、ディープ。⋯⋯喜多村の表に出せない恥部か。いや、恥部って部分は無い気がするけど?
これから──チッキョと言う軟禁状況で何が出来るかマキナと相談していたら、マキナの長妹アヤメさんが訪れる。
まだ、蒼湖に居たんですか〜?
「キョウちゃん、セキュリティに反攻を受けたって?」
「⋯⋯はい?」
唐突な問いに気の抜けた声が出る。⋯⋯聖殿でのことかな?
マキナは、怪訝な顔で睨んでくる。
「──お館から検査して置けって言われたんだよ」
「いや、別に検査するほどでは⋯⋯」
「それは、私が判断する」
益々、マキナの表情が険しくなる。責められるようなことは⋯⋯ちょこっとしたけど。
説明を端折ったのは、その顔を見たくなかったからなんだよ。だから、こちらに向けて来ないで。
「──さあさあ、病院へ行くよ」
「ちょっとちょっと⋯⋯」
アヤメさんがボクを引っ張って行く。
マキナに「ちょっと行ってくる」と断わりつつ、アヤメさんには「ちょっとチクっとしただけだよ」と抗弁する。
抵抗虚しく館前、車寄せに停まる車に乗せられ壁内病院へ向かう。
「アヤメさん、まだ居たんですか?」
「酷い。キョウちゃん専属で壁内病院に居るから〜」
無駄話をしている間に病院に着く。正面から入って右へ廊下を進み検査区画へ。
CTとか言う検査機器の部屋で、黒メガネを掛けたアヤメさんにカゴを渡され脱ぐよう言われる。
「下着で良いですか? 検査衣とかは?」
「あ〜面倒だから下着で良いよ」
面倒って。
脱ぐのを抵抗するとショートパンツは金具がありダメで、下のままで良くなった。
問題は頭なんだから脱ぐ必要ないでしょうに?
棒状のドーナツかバウムクーヘンかって言う検査機器から吐き出された検査台に上り、横になったボクをアヤメさんはメガネ越しに凝視する。
「じゃあ、機械に通すから動かないで」
「はい」
何なんだ、今の間は?
「ん〜⋯⋯。焼き切れたところも無いし⋯⋯問題ないか⋯⋯」
機械に入ること、小一時間。検査シートらしきものを見ながらアヤメさんが零す。
焼き切れるって怖いんですけど? やっぱり別状なかったじゃん。
検査機器から出て検査台から下りると、アヤメさんが紙コップを持ってやって来る。
「一応、飲んでおいて」
「何です、これ」
「えっ? 薬?」
「なんで疑問形?」
大体、そう言うのは検査前に飲まない? コップを受け取ったまま躊躇する。
「良いから良いから。損傷を修復する薬だから栄養ドリンクとでも思ってぐいっと飲んで」
「損傷なんてしてませんよ」
それでも「良いから良いから」と強引に飲まそうとする。
飲まなきゃ静脈注射するよって言うから慌てて飲んだ。
うえ〜〜っ。何か苦いダシ汁みたい。口とか喉がいがいがするし、何なんだ。口直しにジュースを要求したい。
「へ〜⋯⋯。飲めるもんだね〜」
「⋯⋯何ですと?」
感心してボクを見るアヤメさんの呟きに呆れた。紙コップ、投げつけてやろうか。
「何でもない。ところで最近、気になることとか、悩んでることはない?」
「も〜、いろいろ有りすぎて」
「ほうほう。言ってみ? カウンセラーの資格、あるから」
「へ〜〜」っと懐疑的に返す。
アヤメさんのことだから口から出任せな気がするのは、気のせい?
「ほらほら〜」
黙ってたら催促が来る。
ヒセン様に高圧的にやったこと。
陛下に妙に好かれたこと。
やろうと思うと強引でも何とかしようとするとか⋯⋯
「我を通すようなところか⋯⋯。自己防衛のため、やむを得ないかもねぇ? 一拍置き、落ち着いて自問してみたら? それから、陛下は兎も角、女には好かれる仕様だから、そちらは、ちょっと難しいねぇ〜」
キョウちゃんの良いところだから下げると魅力減なんだけど、少し下げて置くか⋯⋯、とタブレットでチェックシートらしきものを確認しながらアヤメさんがぶつぶつ呟く。
魅力減だけど下げる? いや、その前に不穏な語句が聴こえた。
「落ち着いて自問するは分かったけど⋯⋯〝しよう〟って何?」
「仕様?⋯⋯。え? ああ、どうしようってことよ」
焦り交じりでアヤメさんが言い直す。どう見ても弁解だ。
「なんか、誤魔化しましたね?」
ジト目でアヤメさんを見る。
「ううん、誤魔化してない。知らずに女を誘惑してるかもね〜? 思わせぶりな行動は慎んでね?」
「全く、思わせぶりな行動なんてしてないはず。う〜ん?⋯⋯してませんよ」
「無自覚に出るからね〜。塩対応するようにすれば良いと思うよ」
「う〜〜ん? 難しいけどそうします」
女性には丁寧に接するよう教育されてきたのに急には変われない。
さすがキョウちゃん、ちょろい、と要らない言葉をアヤメさんが吐く。
「何か言いました?」
「言ってない」
ちゃんと聴こえたぞ。ちょろいとは心外な。質実剛健なボクを知らないのか。
どうもアヤメさんは好きになれない。マキナの赤ちゃんが産まれたら、いよいよアヤメさんと⋯⋯。考えたくない。
車で送ってもらい本館に戻ると、お昼の配膳が始まってた。
検査が無けりゃ、調理場へ行って勉強できてたのに⋯⋯。
三階に上がるとタンポポちゃんたちもマキナとの部屋に集合してる。
もう子供たちの憩いの場所になってるな〜。
率先して配膳を手伝う。当然、メイドたちに遠慮される。
サザレさんは、困り顔で許してくれる。
キツネうどん、鰆?の西京焼き、たまご豆腐、と今日も麺類か。
マキナの食べっぷりを確認しながらボクもうどんを食べる。食べるとワカメがたくさん入ったワカメうどん・キツネ添えだな。
西京焼きも柚子風味が付いて香り高い。
さすがサザレさん。
食後、お茶はあとにして片付けを手伝う。これまでやって来なかった引け目もあり強請る──お願いする。
当然、遠慮され指示を窺うメイドさんにサザレさんが頷く流れだ。マキナは苦笑い。
壁の外に出られなくなったし積極的にやろう。特に家事仕事。
いつか分からないけどマキナと同居できる家が復旧した時のために。
お茶を回収してメイドたちと調理場に移る。
「キョウ様、片付けなどされなくても。食事の準備についても良いのですよ」
「でも、お世話になってばかりで申し訳ないし」
「キョウ様はご主人様なのですよ。それなのに。些末事はお任せください」
「でも⋯⋯、マキナと同棲に戻った時、困ると思うし」
「そんな事態は無いと思いますが? 必ず家政婦が就くはずです」
まあ確かに、新都の家では赤井先輩のお母さんが居たし、元に戻っても誰かが入ってくれるんだろう。
何かしないと、昼間はやること無いと思う。その前に家がちゃんと直るかな〜?
そう言えば、赤井先輩はどうしてるかな〜?
タマちゃん・ミナちゃんは元気にしてるかな〜?
マキナにあとで聞くと、ゆくゆくは本家を出る心算だったけど、ボクの所為で壁外では生活し辛くなったって。有名になり過ぎて。
それでも新都の家は直してる最中と言う。有名で被った問題より発注が先だから中止すると顰蹙ものだろう。
とは言え、芸は身を助けるって言うし頑張らないと。調理や後片付けは芸に当てはまるか少し疑問だけど。
片付けを済ませ調理場でお茶を頂いていると、マキナが呼んでいると教えてくれる。
急いで三階に戻るとマキナが呆れていた。
「メイドに任せて置けば良いのに。お前がする必要はないぞ。──それで、壁の中をドライブしないか?」
お昼前に話した、壁内学校、通称・高山学園へ見に行かないか、とマキナが言う。
「うん、行く行く」
「その恰好で行くのか?」
「ダメ?」
自分の姿を見る。リネンシャツに短パンだ。ちょっと時期が早いか?
「ダメではないが⋯⋯」
何か羽織れと言うのでマキナにパーカーを借りる。
「それじゃ行こ」
ため息して歩きだすマキナにくっついて行く。これは、ふたりっきりになるチャンス?
「お出かけですか?」
部屋から出ると待機部屋から現れた笹さんが訊く。
「壁内学校へ行くの」
「壁の中だから護衛は要らないだろう」
「はあ、それはそうですが⋯⋯」
朝早くから大変だったし疲れが見える。ゆっくり休んで。
「あそこへ不必要に訪れるのは危機感を煽る」
「確かに、そうですか⋯⋯」
もの憂げな笹さんを宥めているとエレベーターでタンポポちゃんたちが上がって来た。
「ちょっとー、どこか行くの?」
「行くの〜?」
「の〜?」
三人が責める口調で言ってくる。
「ちょっと、マキナとドライブ」
「ズルい。私たちも連れて行きなさいよ」
「ズルい!」
「さいよー」
返事を失敗したか⋯⋯。行きたいとは思わなかった。
「壁の中を走るだけだよ?」
「良いじゃない。たまにはドライブも」
「ドライブ〜」
「うん」
タンポポちゃんたちを宥めるのは骨が折れそうだぞ。




