203.何となくデジャヴ
試着コーナー内に入ってもらった笹さんに背中の紐を緩めてもらい、やっとビスチェが脱げる。
キャミソールを着け、Tバックも普通のショーツに穿き換える。
え? 笹さんが一緒で良いのか? 笹さんは信頼できる、羽衣さんよりも。ましてや牧村さんは論外でしょ。
「はい、着替えました。上を⋯⋯」
試着コーナーの外へアウター一式を頼む。
「──では、まずこれを」
カゴのトップスとボトムスの一対をカーテン越しに牧村さんが差し出してくる。
いや、すべて渡してもらえないかな?
「いや、それに合わせるのはこれ!」
「いやいや、これだろう?」
「何言ってる。これで決まりだ!」
羽衣・気更来のふたりが、コーディネートで言い争う。
まあ、何でも良いから、早く決めて?
押し込んでくる試着候補からカーテン越しに選んで受け取り身に着ける。
「ふう……。人心地ついた」
姿見で確認する⋯⋯、悪くない。
「はい、ポーズ取って?」
試着コーナーから出ると牧村さんがカメラを向けてくる。
「え? どうして」
思わず、両腕で体を隠す。隠しきれないけど隠す。
カメラ所持はボクの盗撮? いや、薄々分かってたけど、カメラ持って来てまで撮ろうとする?
「キョウ様のお召しの服は記録するよう喜多村レンカ様からお達しが出ておりますので」
何それ。聞いてないよ?
喜多村レンカって誰?
笹さんが耳打ちしてくれる。何なに、マキナの叔母? ボクの義叔母じゃん。
なんか、いつだったか会った気がする。ってタンポポちゃんのお母さんだよ!
「さあさあ、早くポーズを取ってくださ~い」
「⋯⋯⋯⋯」
無言、ジト目で抵抗したけど効果がない。仕方ない⋯⋯。
牧村さんに言われるまま、ポーズを取る。羽衣さん気更来さんも便乗してカメ娘になってる。
三回ほどポーズを変え、ワンポーズに付きアングルも変えて牧村さんに撮影された。
「さあ、時間もありません。次、行きましょう!」
確かに早く撤退しなきゃいけないのに、まだやるの? 外を歩ける格好が付いたから、もう他の試着は要らないよ?
なんでそんなに元気ハツラツしてるんだ。そこまで勧めて撮影するの?
「お買いになったもの、すべて記録しませんとお叱りを受けます」
ぐいぐい来る牧村さんに押し切られ、ファッションショー&撮影会の様相に。なんかデジャヴ。
こんなこと、していて良いのか?
ボクの心配をよそに籠の服を消化するまでソレは続いた。以前のように、商品タグは回収されたが決済はされず、支払いはモール持ちで収まった。
やっぱり宣材にするんでしょう。
大きい買い物袋ふたつを笹さんと打木さんに持ってもらい車へ戻る。
あの写真は、きっとサガラに渡って、バラエティニュースで報じられるんだ⋯⋯。
サキちゃんは観ないだろうけど、報告が上がると秘密裏に買い物のはずの寄り道がバレる、よな〜。
いまさら仕方ない。
にこやかな守衛さんに礼をして外に出る。
「時間は大丈夫?」
「小一時間でしたね? 服飾エリアが開く前で片付いて良かったです」
そうじゃないよ!
「サキちゃんに怪しまれないか?ってこと」
ああ、そちらですか? と打木さん。頼みますよ?
社員駐車場のワゴンに乗り込む。
「終わったことは、振り返らないでいましょう。気更来、頼む」
笹さんが前向きな慰めをくれる。
「了解」
答えた気更来さんが発車させる。
喜多村へ向かう分岐まで、来た道を引き返し、家に帰る。
もう、喜多村本家が家の認識になったな〜。
日に照らされる正門の通過儀礼を済まし敷地に入る。
木立の並ぶ道を奥へ進み、本館の前で降りる。気更来さんは、車を車庫へ回して行く。
まあ、こっそり入ってる心算でもサキちゃんに帰宅はバレてるだろう。
3階に上がり、気更来さんたちは待機室へ。自室前で荷物を受け取ると笹さんが懐から御護り刀を取出し捧げ渡してくる。
「あっ、ありがとう」
それを両手で受取ると、笹さん打木さんも一礼して待機室へ退く。
「ただいま〜」
「おかえり。大変だったな?」
リビングでソファーに座ったマキナが迎えてくれる。
ほっとしたらお腹が鳴った。朝食、食べかけで右往左往したからな〜。
タンポポちゃんたちは、来ていない。勉強中だろう。
「──それにしては、その荷物はどうした?」
「⋯⋯ごめん。あちらでは着物の代わりに、与えられた服で居たんだよ。帰って来るのにラフ過ぎるのも拙いと思って、取るものも取り敢えず何か服を買って着替えるはずだったのに、つい⋯⋯」
「なるほど。まあ、買ってしまったのはしようがない。けどな⋯⋯」
マキナがお小言を言う。当然だ。軽く、聖殿での事から帰るまでの出来事をマキナに話す。
「──帰着を知らせてくる」
荷物を寝室に置きサキちゃんの下へ。
「サキちゃ〜ん、ただいま戻りました」
声をかけ、リビングまで進むと奥からサキちゃんが現れる。
「良く戻った⋯⋯と言うべきか? お前は行く先々で問題を起こすな」
「違うよ? トラブルが、どこからかやって来るんだよ」
持参した懐剣を両手で捧げ持ちサキちゃんに返す。
「うむ」と厳かにサキちゃんは受取り、好々爺の笑みを浮かべ白鞘を撫でる。愛しい孫のように⋯⋯。
全く似合わない。見た目、小学校高学年だから玩具を愛でるならまだしも、刃物だよ? 通報されそうな危ないヤツだ。
「もう、良い。電話で話した通り自室で謹慎じゃ。聖殿からの問合せは、のらりくらりと躱して置く」
「は〜い」
「聖殿のセキュリティをハッキングしたなどと追及されるのは業腹じゃ。良いか? そなたは、知らぬ。関わりない。分かったか?」
言うだけ言って、ムーラグントの衛星に⋯⋯、陛下の心労が⋯⋯とか、苦々しくブツブツと独り言を呟きながら奥へ戻ろうとする。
もう用事は終わりと、思索に没入しているサキちゃんに「イエス、マァム」と言って辞す。
な、何じゃと?とボクの不意打ちに面食らってサキちゃんが振り返る。
お腹減ったな⋯⋯。何か摘むものでもお腹に入れたい。調理場に朝食の残りがないかな?
マキナの下には帰らず、エレベーターで一階まで下りる。
作業棟へ移動して調理場入口の窓から中を覗くと、後片付けと共に休憩・食事中のメイドたちが居る。
「すいませ〜ん。朝食の余りって残ってませんか?」
もう後片付けだから良いかと思い、調理場に一歩入って訊く。
「こ、こ⋯⋯これはキョウ様。残り物など、どうされるのですか?」
「実は、朝食を食べ損なって⋯⋯」
「それは⋯⋯。ただちにご用意いたします!」
トーストを食べていたメイドさんが答える。
「いえいえ。指示くだされば自分でやります」
食事中に用意してもらうのは申し訳ないので指図だけほしい。
メイドさんはトーストなんだ。と言うか、和食・洋食からそれぞれ選んで食べてるんだろう。
案内してもらうと和食も残っている。食器を用意し、よそったご飯・みそ汁・香の物をトレイに載せ、調理台の空いた隅に移る。
食べた後、洗い場へトレイを持って行く。腕まくりして洗おうとすると、慌ててメイドさんが止めてくる。
我々が洗いますからとメイドさんが譲らないので、気が引けるけどお願いする。
お腹がくちくなり(満腹になり)、余裕が出来ると、タンポポちゃんたちが気になった。ちゃんと勉強してるかな?
教えてくれている田端先生にも話を聞いてみたい。
迎賓館の二階、タンポポちゃんの部屋へ移動し、そっとドアを開けて⋯⋯覗き見る。⋯⋯見つからないよう勉強の様子を見る。
集中力が途切れ途切れの落ち着かないマナちゃんと目が合った。あちゃー、見つかった。
喋らないでと立てた人差し指を唇に当て頼む。
マナちゃんは黙って頷く。
でもね、じっとこちらを見ていたら他の子にバレるよ⋯⋯。
「キョウ、帰ってきたの!」
「帰ってきた!」
うん。案の定、見つかった。タンポポちゃんたちが立ち上がり駆け寄ってくる。
ボクは部屋に入り受け止める。
昨夜の様子を聞いたり姦しくするのを宥めすかせて勉強に戻す。
タンポポちゃんたちの集中力を切らしてしまった。失敗。田端先生に勉強の進み具合を聞いて部屋を出た。
マキナの下に戻り、寝室で紙袋の獲得品をクローゼットに片付ける。
片付けながら携帯端末の更新をどうしようか悩む。マキナに相談するのが一番だけど、ついこの前買ったばかりなのに。
それと、持って来ちゃった赤いスウェットはどうしよう。扱いに困る。取りあえずは洗濯に出すとしよう。
そして、学校訪問? 視察?は出来なくなった。そこも、どうするかな⋯⋯
相談するか自問し苦悶していたら、マキナが様子を見に来た。




