13話 レックス
グラーシアと共に偽物を長老の元に連れて行った後、死んだ黄金兵達を《ネクロマンシー》の魔法で死霊系の魔物として復活させておく。
ネクロナンシーの魔法とは、屍者を作るのではなく、通常のリッチキングが使う魔法だそうだ。
だから、この魔法で作られた死霊系の魔物は、自動的に一定の時間で復活する。
しかし、この魔法にも欠点があり、この魔法で作られて死霊兵達は単純な命令しか聞けないのだ。
単純な命令でも、時間稼ぎくらいはできる。もしもの時の為に、精霊の森の前で見張りをさせておくのだ。
こいつ等を屍兵として復活させる事も考えたのだが、こいつ等が自我を持って復活した後に俺に従うとは考えにくい。だから、普通の魔物として復活させた。
リッチキングならば、死霊系の魔物も従えさせる事が出来るので、便利だ。
三十匹の死霊兵だけでは心もとないので、更に十数匹のコボルト屍兵を一緒に召喚しておく。
ちなみに、屍兵の方が、死霊兵よりも少しだけ強い。
屍兵は自己再生能力があるが、死霊兵にはそれはない。しかし、屍兵は一度やられてしまうと、俺が再び呼ばないと復活は出来ない。
「これで、アロガンシア兵が襲撃に来ても時間稼ぎくらいは出来るだろう」
俺はメリア達の下へと戻る。
トレントの集落では、偽物を殺そうと長老達が、殺気立っている。
こいつ等、なぜ自分達に偽物を裁く権利があると思っているんだ?
「おい、トレント共。偽物に手を出してみろ、お前等だけを焼き尽くすぞ? グラーシアは元々、俺とは初対面なので俺を勘違いしてもおかしくないと思う。グラーシアはまだ話を聞こうともしてもいたからな。しかし、お前等は問答無用で襲いかかって来ただろう? それなのに、何和解したと勘違いしてるんだ?」
俺が殺気を放ちそう言うと長老達は黙り込む。
これくらい言わないと、こいつ等は自分が正しかったと勘違いしてしまう。そうなったら、鬱陶しいからな。
こいつ等は今は放置でいいだろう。
「さて、偽物さん、お前は何者だ?」
「き、貴様こそ何者だ!! なぜ、私の若い頃の顔をしている!? そもそも、歳を取っていない方がおかしいのではないのか!!?」
それを言われてしまうと、何も言いようがない。
大体、普通に俺が生きていたら、歳を重ねていて当たり前だろう。
しかしだな……。
「この姿なのには事情があるんだよ。まぁいい、メリア、こっちに来てくれ」
「うん?」
俺は偽物にメリアの姿を見せる。
俺の記憶を完全にコピーしているならメリアを知っているはずだ。俺は常にメリアの事だけを考えていたからな。
しかし……これが作られた記憶ならば、メリアの事は知らないはずだ。
「おい、メリアに見覚えはあるか?」
「ん? いや、見た事のない顔だな。誰だ、その女は」
やはり、メリアの事を知らないようだ。
いや、こう考えるべきか?
俺が、アレス達に教えていた情報しか知らない。
もし、そうならば……。
「おい、お前の元婚約者は誰だ?」
「カイル?」
「メリア、俺の予想が正しいのなら、お前の名は出てこない」
「え?」
俺の予想では、エタ―ナと答えるはずだ。
こいつは、俺の記憶をコピーしているわけではない。
という事は、こいつは俺の情報を埋め込まれていると考えた方が良い。
俺の婚約者エタ―ナというのは、俺が死ぬ前にエタ―ナという糞女をアレスの奴に押し付ける為に嘘をついたからだ。
アレス達が俺の情報を基にしているのならば、最期の言葉を利用するはずだ。
「私の元婚約者は、エタ―ナ様だ。アレス様との真の愛に目覚めらっしゃったので、私が身を引いたのだ」
「やっぱりな」
「どういう事じゃ?」
「ベル、お前は知っていると思うが、エタ―ナというのは聖女でな。あの糞女は、俺を手に入れる為に、勝手に教会に自分が婚約者と吹聴していたんだ。あぁ、メリア勘違いしないでくれ。俺はあの女を心底嫌っていたからな。アイツは俺に触れさせた事すらない。いや、捕らえられた後の拷問の時に、殴られたくらいか……今思い出してもムカつくな……」
「あぁ、覚えておるよ。お前はわしとの戦闘中も聖女の回復魔法を完全に無視して戦っておったからのぉ。それどころか、仲間と共に戦おうともしなかったな」
俺は仲間を信用していなかったからな。
イグニスとオズマは信用はしていたが、奴等も何を考えているかが分からなかったから、戦闘中に背中を預けるのは危険と思っていたのも事実だ。
アレスは問題外。
エタ―ナは、考えたくもない。
「カイルがそこまで嫌うって珍しいね」
「そうだな、アレスよりもあの女の方が嫌いだったからな。それよりもだ、やっぱり、俺の読み通り、エタ―ナを婚約者と言ったな」
「どういう事じゃ?」
俺は、ベル達に、処刑直前にエタ―ナを奪われる事を悔しがる振りをした事を説明する。
おれだって、こんな事をしたくはなかったが、せめてもの復讐のつもりだった。
「しかし、目論見を外したな。エタ―ナの性格を考えれば王国が滅びるまで一年かからないと思っていたのだがな……そこだけが残念だ」
まさかと思うが、エタ―ナの欲を叶える為に、民に重税でも課したか? それならそれで面白いのだがな。
俺は、あの国の民も許してはいない。
勝手に滅びると思っていたから、復讐も考えなかったのかもしれないな。
しかし、この偽物、自分を完全にカイルだと思い込んでいる。
思い込みや、嘘でここまで信じ込めるのか?
「ベル、これは精神を弄られていると考えた方が良いか?」
「そうじゃのぉ、それと幻惑とでもいうか? 変装の魔法もかかっておるな」
ベルは魔法を使う為に、俺の頭に触れる。
もう魔力を奪われるのにも慣れてきたな。
「マジックキャンセル!!」
ベルが魔法を使うと、偽物の顔が歪み始める。
今の魔法は、魔法効果をかき消す魔法だったか? イグニスが使っているのを見た事がある。
しかし、あの程度の魔法を使うにしては、魔力量が多かったように感じたが……。
「なんじゃ?」
「いや、魔力量の事だがな」
「お前は本当に魔法の事を知らんのだな。マジックキャンセルはかけられている魔法の強さにより魔力消費量が変わるんじゃ。こいつにかけられた魔法はそれだけ強力だったんじゃよ」
強力な魔法?
ま、まさか……あの二人のどちらかが関わっているんじゃ……。
俺はあの二人の事を考えると、血の気が引く思いをする。
あの二人は魔法職として、頂点に君臨する二人だ。しかも、魔法研究の為なら、仲間で実験をする事に何の抵抗も感じていない。
その二人のうちどちらかでも、アレスについていると考えるだけで、危機感を覚える。
「ほれ、魔法が解けるぞ」
俺は偽物の顔を見る。
俺の顔だった顔は、俺のよく知る人物の顔に変わっていた。
こいつは……!?
「まさか、お前だったのか……レックス」
レックス。
俺が勇者だったころに一番仲の良かった騎士隊長だ。
俺と同じ年だが、剣の腕を見込まれて若くして騎士団の第三隊長にまで上り詰めた人物。
なぜ、レックスが?
「わ、私に何をした!!?」
レックスは、自分の顔が変わった事に気付かず、今も自分がカイルだと信じている様だった。
「ベル、この精神操作系の魔法は消せないのか?」
「ふむ、これはわしでは無理そうじゃ。そもそも、マジックキャンセルなどの魔法は神官にしか使えん魔法じゃ。しかも、わしの場合お前の魔力を使った仮初の魔法じゃからな、こんなに精神の奥深くに根付いた魔法は解けん」
「そうか……」
「じゃが、諦めるにはまだ早い。エリアルならば解けるかもしれない」
彼女は、今の魔王城の中で一番優れた魔導士だ。彼女ならば、解けるかもしれないとの事だった。それでも解けない場合は、心苦しいが、一度殺して屍者化するしかないそうだ。
レックスの事を知っている者として、それだけは避けたい……。
こいつは友と呼べる人間だからな。
「グラーシア、俺達は魔王城へと戻る。精霊の森の外に屍者兵を何体か置いてあるから、そいつらを使え、お前に従うようにしておいてやる」
俺としては、これ以上精霊の森に関わるつもりは無い。
だが、このまま長老達だけに任せておいては、この綺麗な森が失われる。それは避けたいところだ。
「いえ、ベアトリーチェ様。私も一度魔王城へ戻ります」
「そ、そうなのか!?」
「今のままでは、精霊の森は滅びてしまいます。都合のいい話とは思いますが、私が戻る事で精霊の森も守っていただきたい……」
確かに、グラーシアが来るのならば、俺としてもこの地に兵を送らなければだめだな……。
ベルは俺の顔をチラチラ見ているが、魔王であるベルの言う事には従う。俺も魔王に与しているようなものだからな。
「わ、分かったのじゃ。カイル」
「あぁ、お前の言いたい事は分かるよ。カロン、お前にコボルト屍者兵の指揮権を渡す。これでアロガンシア兵の襲撃への時間稼ぎは出来るはずだ。死霊兵は言う事を聞かないので放っておいてくれ。アイツ等は勝手にこの森を守ろうと戦うはずだ。それとお前は精霊の森の外で戦え」
これだけは言っておいた方が良い。
『何故だ?』
「お前、森の中で本気で戦えないだろう? 死霊兵は燃えてもすぐに復活するようにしておく。こいつ等は、お前が到着するまでの時間稼ぎだと思ってくれ。お前が到着してしまえば、雑魚兵程度なら問題はないだろう。コボルト屍兵は、お前が到着した後、下がらせればいい。ただ……」
『ただ?』
「魔導士が単体で現れた時には注意しろ。俺の仲間だった奴等のうちどちらかが来ただけでも、かなり危険になる。その時は、お前は死霊兵やコボルト屍兵を盾にしてでも逃げろ」
『なんだと?』
「お前は火の精霊だ。奴等は、お前の弱点をつける魔法を使ってくる。だから、気を付けろ」
火の精霊王とはいえ、オズマの《千年水晶》という最強の氷魔法を喰らえば、ただでは済まないだろう。
だから、もしもの時は、逃げてもらうしかない。
『分かった。もしもの時はお前に助けを求める』
「そうしてくれ」
カロンと連絡手段などの打ち合わせをしていると、グラーシアが俺に頭を下げる。
「カイル殿……、先ほどはご無礼を働きました事、誠に申し訳ありません」
「いや、レックスのあの姿ならば、騙されてもおかしくないのは事実だからな」
しかし、トレント共を許す気になれないのは、俺の心が小さいのか?
カロンは俺の違和感に気付いた。カロンとも一度顔を合わせた事がある程度なのにもかかわらずだ。それなのに長老は疑うどころか、最初から話を聞く気が無かった。
一度裏切られた俺だからこそ、会話というのを大切にしたいと思った。
いや、レックスを見れば俺を信用できなかったのは仕方ないとも思っているからこそ、心の中が上手く整理できない。
なんとなくもやもやが晴れないまま、俺達は魔王城へと戻った。
「はい、どうにか解けました」
エリアルにレックスの精神操作系の魔法を解いてもらう事に成功した俺達は、レックスに話を聞く事にした。
「レックス、俺がわかるか?」
「……くっ……頭が……、か、カイルか!? お前は一週間前に処刑されたんじゃ!!」
一週間前か……。
こいつの中では、あの日から一週間しか経っていないのか。
俺はレックスに、処刑から十年経った事、魔王の呪いで死霊系の魔物に生まれ変わった事、今は魔王城再建のために動いている事をせつめいする。
そして、グラーシアが精霊の森での出来事や、先程、レックス自身が言っていた内容を話す。
レックスはこの話に困惑している様だったが、この十年の記憶が何もないのかを聞いてみる。
「あ、あぁ。何か記憶に靄がかかっているみたいだ。長く夢を見ていた気分なのだが、オレがカイルを名乗っていた事はなんとなく覚えている。そうだ……お前が処刑されるのを見た後、オレはアレスに抗議に行ったんだ。しかし、アレスはオレを逆賊として捕らえた。そして、魔導王のオズマが俺の前に来て……」
「オズマが!?」
俺の嫌な予感が的中した。
やはり、二人のうちどちらかが、今回はオズマが敵に回ったという事だ……。
「そうか……。お前はこれからどうするんだ?」
元の姿と、記憶が戻った今、アロガンシアには戻れないだろう。
俺としては、このまま一緒に魔王城を守って欲しいと思った。
しかし、レックスは人間だ。どういう答えを出そうと、俺はそれを止めたくないと思っていた。
「オレは……お前について行きたい。オレにとってお前が勇者であり、憧れなんだ」
その言葉は、嬉しい反面、今の俺を考えれば重いとも言える。
「今の俺は勇者じゃない。今の俺は魔物だ」
「オレもお前達のように屍者にしてくれないか? お前達が話していた事を考えると、オレは罪人だ。どこに行っても生きてはいられないだろう。だから、せめて勇者カイルに仕えたい」
俺は迷った。
今を生きているレックスをここで殺していいモノかと……。
しかし、ベルが「カダ―ベール・レスレクシオンは、生者にも有効じゃぞ? わざわざ殺す必要はない」と教えてくれた。
俺はレックスに「もしかしたら自我を保てないかもしれないがいいのか?」と聞くと「その時は、オレを有効に使ってくれ」と真剣な目をして言われた。
そこまでの覚悟を持って言われれば、半端な事は出来ない。
レックスに、カダ―ベール・レスレクシオンを使い、そして、レックスは屍者へと生まれ変わった。
レックスは自我を保ってくれており、俺に忠誠を誓ってくれた。




