12話 勇者カイル
目の前の男の顔は間違いなく俺の顔だった。
しかし、現役で勇者をやっていた頃に比べれば、十年分老けているように見える。
そうか、俺がもし生きていれば、今はあんな顔をしていたんだな。
しかし、そこまでして俺の顔を再現する必要があったのか?
もし、そうだとするのならば、一体何の目的で?
しかし、このまま睨み合っていても仕方が無い。
出来るだけ、情報を引き出さねばな。
「これはこれは勇者カイル殿、ここは人間が手を加える事を、各国が禁止している精霊の森です。そのような騎士団を連れて一体、何の御用ですかな?」
そう、精霊の森は、各国間との条約で侵略行為、または開拓行為を全面的に禁止しているはずだ。
この森で引きこもっていたグラーシアや長老達は、人間同士が決めた事など知らなくて当然なのだが、アロガンシアに属する勇者様なら知っているはずだ。
知らなかったでは済まされない。
「何をぬかすかと思えば……この森はアロガンシア領に属している。ならばこの森の資源はアレス様の物だろう?」
アレスの物か……。
アレスの犬である勇者からすればそうかもしれないが、流石に他の国が関わっている以上、そうはいかないだろう。
まさかと思うが、こいつにはその知識がないのか?
「おかしいですね。この森の所有権を主張しない代わりに各国でのアレス様の違法行為は黙認されて来たと思うのですが、まさか反故するつもりですか?」
「ふははははは!! 今更何をぬかす!! 他の国など、勇者カイル様率いる《黄金の刃》部隊の敵ではない。あんな条約等、とっくにこの世から無くなっておるわ!!」
成る程……。
俺を使って好き放題やっているという事か。
アレスが俺の偽物を作った理由がわかって来たな。
しかし、今後の事を考えると、これは不味いな……。
俺達は、静かに暮らしたいだけなんだ。
それには、各国の協力は必要だ。
しかし、こいつが原因で俺は世界各国で忌み嫌われた存在になっているだろう。
これでは、協力は仰げない。
「しかし、噂では貴方様は十年前に処刑されたのでは?」
「なに?」
あの処刑は、民衆の前で行われたはずだ。
それをどう隠したんだ?
しかし、目の前の偽物は本当に分かっていないようだ。
こいつの反応、何かがおかしいな。
「お前は何者だ?」
ここで確信をついてみる。
恐らくだが、こいつは自分を勇者カイルというだろう。
「何? 勇者カイル様に向かってその口の利き方は、死んでもいいという事だな?」
勇者カイルが手を上げると、金色の鎧を着た騎士達が、俺に襲い掛かる。
どう返すが見たかったが、戦闘を開始するとはな。
「勇者カイル様に逆らう愚か者よ!! この剣の錆にしてくれるわ!!」
俺は、二人の剣を避け、鎧で守っていない部分を斬りつける。
黄金の鎧は、思っているよりも重く、動きづらいのだ。
だから、動きやすい様に、関節部分は鋼糸によって編み込まれたものを着こんでいる。
そのおかげで、こんな重い鎧を着ていても、動けるのだ。
だが、今はそれが仇となる。
いくら鉄で出来た糸で作っているとはいえ、鉄くらいなら斬る事は出来る。
しかし、あの黄金の鎧を斬る事は不可能だ。
金は柔らかいとよく聞くが、金は魔法で強化しやすく、鉄よりも強度を出すのが容易だ。
だから、今俺が持っている剣で鎧を斬ろうとしても斬れないだろう。
聖剣を使えば話は別なのだがな。
「ふん。なかなかやるようだが、その程度で私の兵を倒したつもりか?」
確かに関節を斬るくらいしかできないので、殺す事は不可能だろう。
しかし、両足の関節を斬りつけたのだから、戦意は喪失しているはずだ。
そう思っていたのだが、斬りつけられた騎士は、這いずりながらでも俺を殺そうと迫ってくる。
これは何かの魔法を使っている?
俺が確認を取ろうと思って偽物を睨みつけると、偽物は手を上げ残りの騎士に俺を襲わせる。
いくら何でも数が多いな。
相手の数は三十人ほどか……。
これは手加減なんてしている余裕はないな。
俺は、鎧の隙間を狙い騎士を殺害していく。
彼等は今は敵で、俺は魔物になっているとはいえ、人殺しをすれば罪悪感の一つでも感じると思っていたが、何も感じない。
これも魔物になった結果か?
とはいえ、今は好都合だ。俺は次々騎士を殺していく。
数は徐々に減っていき、最後の一人を殺し終えた。
「……この体は便利だな」
何度か致命傷になりかねない部分を斬られたが、この体には致命傷など関係ないらしく、すぐに再生までしていた。
それと、さっきの斬り合いで気付いたのだが、もしかすると勇者の力を失っていないかもいれない。
「さて、勇者カイル殿。後は貴方だけです。どうしますか? 俺としては尻尾を巻いて逃げてくれるとありがたいのですが?」
「ふざけるな!!」
偽物は、剣を抜く。
あの剣は聖剣だ。懐かしい。俺の持っていた聖剣だ。
「殺す!! お前を殺してやるぞ!!」
とてもじゃないが、勇者の言葉とは思えないな。
しかし、今の俺も勇者ではない。
そうだな。
その剣は返してもらおう!!
聖剣と俺の今の剣がぶつかり合わない様に、剣を避け偽物に斬りかかる。
すると、偽物は俺の剣技を真似ているのか、俺の斬撃を避ける。
ふーん。
勇者を名乗るだけあって、そこそこ強いみたいだな。
いや、今の表現は間違っているな。
こいつの強さは勇者時代の俺とあまり変わらない。
だけど、今の俺は不死系の魔物だ。
斬られる事に恐怖もないし、死ぬ事にも恐怖は無い。
そんな相手に、その強さで勝てると思うなよ?
俺は自分の腕で、相手の剣を受け止め、逆の手で偽物の剣を持った腕を斬り落とす。
すると偽物が転げまわり、俺を睨みつける。
普通ならば、俺自身にも痛みがあるはずだが、今の俺には痛みは感じない。
「キサマ!! 私を誰だと思っている!!」
「偽物の勇者だろ?」
「何!?」
いや、あの民衆の前で処刑があったにも関わらず、よく勇者を名乗れるな。
そもそも、もしお前が本物だったとして、どの面下げて民衆はお前に助けを請うんだ?
あの時の民衆は俺を罪人と見ていただろう?
「キサマ、何を言っている? 処刑? 何の話だ!!」
「なんだと?」
「お前に処刑の事を聞いても無駄なようだな。お前が勇者カイルならば、なぜお前の故郷が滅ぼされたのに、その元凶であるアレスに従っている?」
「ふざけるな!! 奴等は私の地位を悪用していた連中だ!! アレス様はあの村を滅ぼす前日に私に確認を取りに来た!! 私に気を使い、説得するように言われたんだ。しかし、奴等は説得に応じなかった!!」
ほぅ……。
こいつは面白い情報を持っているな。
ここらでネタバラシでもしてやるか。
「ノービス!! グラーシアに絶対切れない蔓を持ってこさせろ!!」
「あ、はい!!」
俺の突然の大声にノービスも驚いただろうが、こいつは生かしておく必要がある。
出来るだけ多くの情報を得たうえで、アロガンシアに戻し、スパイ活動をしてもらわねばならんな。
さて、こいつとの話に戻させてもらうか。
「お前にはまだまだ聞きたい事がある。悪いが俺と共に来てもらうぞ?」
「な、なに!!」
偽物は立ち上がり、魔法の詠唱を始める。
この魔法は勇者魔法か?
勇者魔法とは、俺達勇者だけが使える魔法だ。
この詠唱は、セイントランスの魔法か?
こいつは魔法に関してだけは俺よりも優秀だな。俺は魔法が全く使えなかった。
だから、勇者魔法に関しても、始めて見る事になる。
一応、詠唱は覚えているから、何を使おうとしているかは分かる。
しかし、感じる魔力量を考えると、たいした威力ではなさそうだ。
ただ、一抹の不安ある。
今の俺は不死系の魔物、勇者魔法は光属性。勇者魔法は俺の弱点じゃないのか?
そう考えれば、避けた方が賢そうだな。
偽物は、俺の隙を狙って魔法を放つ。
まぁ、その隙はわざと作ったものだがな。
「どう飛んでくるか分かれば、避けるのもたやすいな」
しかし、ここでとある興味が沸き上がる。
俺は光属性が弱点なのか?
今、俺は聖剣を持っている。この聖剣は光属性だ。
もしかして光属性が効かないんじゃないのか?
そう思って、避けるのを止めた。
俺の背中にセイントランスが刺さる。
しかし、痛みも何も感じない。
体に異常があるか? とも思ったが、どうも無いようだ。
「ふむ。やはり、俺に光魔法は効かないか」
しかし、セイントランスは一部物質化しているので、俺に刺さりはしている。しかし、俺は不死系の魔物だ。こんな傷では死にはしない。
だからこそ、偽物驚愕の顔をしている。
俺は仮面を外す。
そして偽物を睨みつけた。
「ば、馬鹿な……お前のその顔は私の顔? ど、どういう事だ?」
ん?
もしかして、こいつも真実を知らないのか?
その時、偽物に蔓が巻き付いて、偽物を捕らえた。
「遅れました」
「いや、お前達にきつく言って済まないな。こいつの顔を見れば、お前達が俺を敵と認定するのも分かる」
「……そうですね。こうやって、目の前で見ると瓜二つね。あちらの方が、歳を重ねているという感じですけど……」
「あぁ」
俺達は、偽物を連れてメリアとベルが待つトレントの集落へと戻った。




