11話 ベルの答え
ベルは頭を抱えて蹲り迷っているようだ。
……考えろ。
魔王であるお前の判断で精霊の森の今後が決まる。
グラーシアや長老の言い分も分かるが、俺は無実であり、俺の偽物のせいで裏切り者扱いされるのもいい迷惑だ。
しかし、元勇者として、勇者時代に世話になった精霊の森を守りたいというのもある。
そんな事よりも俺が許せないと思うのが……。
「何故、ベアトリーチェ様に判断を委ねたの?」
グラーシア、何故俺に話しかける?
何を勘違いしてるんだ?
「話し掛けるな。俺はお前達の味方じゃないんだ。それに、お前達にとっても俺は敵なのだろう? ベルが望むならこの森を今だけは助けてやるさ。だが、精霊の森を守る戦闘で、精霊やトレントがどれだけ死のうと、滅びようとも俺はどうでも良い。精霊の森を守れたらそれで良いんだ……」
「な!?」
何を驚くんだ? これがお前達の出した答えの結果だろう?
しかし、我ながら冷たい言い方だと思うが、こいつ等に勘違いはされたくない。
「お前達は俺の話をまるで聞かずに排除しようとしたんだ。もし、ベルが助けると判断しようが、いまさら対等に扱ってもらえると思うなよ」
「ぐっ……」
勇者だったころは、俺は守る者ではなく、倒す者だった。
だから魔王を倒しさえすればよかった。
倒すという役目を果たせば、守ってもらえると思っていた……。
しかし、守る者だったアレスが出した答えは、俺や村は守るべき対象じゃなかった。
じゃあ、俺が守る立場なら?
トレントや精霊と守るべき対象である魔王城にいる皆を天秤にかける? ふん、バカバカしい。比べるまでもない。
「お前達に待っているのは、ベルに蹴られ、アロガンシアとの戦闘で滅びるか、ベルがお前等を助けると言っても、戦闘後は俺達の下で隷属するかのどちらかしかない。ベルがどう言おうが、お前達に安寧は無い。それだけだ」
俺がグラーシアに背を向ける。
ノービスが俺を見て驚いている。何故だ?
「どうした?」
「ボクはなんとなく嘘をついている人の匂いがわかるんだ。どうしてカイル様は嘘をついているの?」
嘘か……。
確かに、俺はいくつか嘘を吐いた。
ベルが恩を売るために助けろと言った場合でも、俺はグラーシア達を縛るつもりは無い。だが、同盟を組む気もない。あくまで、今回だけ助けるだけだ。
「俺達としてもリスクが大きいからな、たやすく本音は言わんさ。しかし、決断するのは魔王であるベルだ」
俺はベルを見る。
すると、グラーシアがベルに話しかけようとしている。
俺は、ショートソードをグラーシアの足元に投げつける。
「な!!?」
「ベルが必死に考えているのに、余計な事を吹き込もうとするな。そもそも、お前とベルは見解の相違で決別してるんだろ? それなのに、お前等に都合のいい余計な入れ知恵をするつもりか?」
ベルが話してくれた内容が正しいのであれば、今のグラーシアと当時のベルは同じ気持ちだったんじゃないのか?
当時の魔王ベルゼブブは種族を守る為に、人間との和平を考えた。その結果は人間の裏切りだったわけだが、その時グラーシアはどういう事をベルに言ったんだ?
「グラーシア、これがお前達の望んだ事だ。どんな結果になろうとも受け入れろ」
「なんですって!!」
「ベルから、お前との話は聞いている。お前が、人間を信じた結果が今のこの状況だ。お前がベルと共に歩んでいたのならば、こんな結果になっていなかっただろう?」
俺がそう言い切ると、グラーシアが俺を攻撃して来た。俺は、黙ってこれを受ける。
痛みこそあるが、死にはしない。
例え毒の種を植えられたとしても、何も影響はない。
「どういうつもりだ?」
「あ、貴方だって人間でしょう!!」
「少し前まではな。今はリッチキングだから、どちらかと言うと魔物だな」
「な、ならば!!」
「黙れ!! どちらにしても俺はお前の仲間ではない。それに、お前は父親を失ったベルに何を言った!? 当時の事は知らんが、お前は綺麗事を並べたんじゃないのか!! そして、今は自分達が危機だから無条件に助ろと言っているのか!!」
「そ、それは……」
「分かったら、ベルの判断が出るまで黙って待ってろ!!」
俺は、いまだに蹲って考えているベルが答えを出すのを待つ。
ベル、ゆっくり考えればいい。
どっちの答えを出しても、俺はお前に従う。
待つ事一時間。
ついにベルが俺の前に立った。
「答えは出たか?」
「うむ……。か、カイル、納得はいかないだろうが、グラーシア達を助けてやってくれ」
やはり、その答えを出したか……。
「その前にお前に一つ聞きたい」
「なんじゃ?」
「グラーシアが言っているのは都合のいい話だ。お前が苦しんだ時には助けず、自分達がピンチになったら助けてくれと言っている。それはお前も知っているはずだ。更に、俺の顔をアロガンシアにバラすわけにはいかない。リスクが高すぎるのに何故助ける?」
答えにくい質問だという事は分かっている。
だが、お前の言葉で俺を納得させてくれ。
「わ、わしは……お前やミリア達と過ごして、こうやってみんなで笑いあえるのが良いと思っただけじゃ……それじゃあ、ダメか?」
それじゃあ、納得いく答えとは言えないが、まぁいい。
俺は、ベルの頭を撫でて「それでいい。汚れ役は俺が引き受けてやる」と一人で歩き出す。
「待つのじゃ、お前一人で行くつもりか?」
「そうだな……さっき言ったが、俺はこいつ等と共闘はしない。何故なら、信用できないからだ」
「信用か?」
ベルの言葉をも信じる事の出来ないこいつ等に背中を預けるのは危険すぎる。
正直な話、今回助ける事が出来ても、あくまで今回だけだ。
「グラーシア、今回だけは俺が戦ってやる。これが済んだら、俺は魔王城へと帰らせてもらう。その時はベルも一緒に帰る。後はお前等で勝手に考えろ」
「わ、分かりましたわ……」
俺は一人で、森から出ようとする。
その前にベルに魔力を与えておく。
「ベル、俺が戦闘している間に、こいつ等が変な真似をしたら、メリアと二人で魔王城へ帰れ」
「お前はどうするのじゃ?」
「もし、そうなった時は責任をもって、こいつ等は生かしておかない」
ベルの心使いを無駄にする奴は許さない。
あぁ、こんな考えをするのは、俺の心が魔物に近くなっているからか?
「カイル。お前も自分の立場を考えるのじゃ。お前が死んだら、屍者全員が死ぬのだぞ!! ここにいるメリアもノービスもじゃ!!」
こいつは俺を……いや、俺達を心配してくれているんだな。
しかし、俺が説明するよりも……。
「ミリア……」
「うん。ベルちゃん、私達は元々死んでいた人間なの。今回はベルちゃんのおかげでこうやって生前と同じ姿で、依然と同じ暮らしが出来ているんだよ。もし、カイルが負けて私達が死んじゃってもそれは元の状態に戻るだけ……でも、一つだけ信用できることがあるの」
「な、なんじゃ?」
「カイルの強さかな? カイルは昔から、出来ない事をできるとは言わないの。いま、この森を守れると言っているのならば、カイルは間違いなくそれが出来る、そう信じているの」
「ミリア……」
俺はベルの頭を撫で、不敵に笑う。
「ベル、安心しろ。俺は特別な魔物なんだろ?」
「う、うむ……」
「なら、俺を信じろ。ノービス、お前はついてこい」
「は、はい!!」
俺とノービスは森の外へと戻ってくる。
「ネクロマンシー!!」
これは普通の不死系魔物を呼び出す魔法だ。
これは、俺の思い描いた姿の死霊系の魔物を生み出す事が出来る。
俺が魔法を唱えると、コボルト屍兵が一匹現れる。
「一匹だけですか?」
「あぁ、こいつの役目は偵察だ」
そう、いつ来るか分からないアロガンシアをいつまでもだらだらと待つつもりもない。
コボルト屍兵には、アロガンシア兵を刺激してもらう。
今日、襲いかかってくるようにな。
俺が命令すると、コボルト屍兵が元気よく? 走っていく。
「カイル様、僕達はどうするんですか?」
「俺達は今のコボルト屍兵が帰ってくるまでは、ここで待機だ」
「はい」
俺は、仮面をつけ、ローブを蔽い被る。これなら、俺の正体も分からないだろう。
「ノービス、お前はこの戦いを見届けろ」
「一緒に戦わなくていいんですか? それにカイル様、まるで死ぬみたいだよ?」
「ん? 死ぬ気なんてないさ……。今の俺がどこまで戦えるか気になってな」
「どこまでって? カイル様強いじゃないか」
「ありがとうな」
ノービスは強いというが、勇者だったころは光属性の上に勇者特有のスキルというモノがあったから、今以上に強かった……と思う。
しかし、屍者となった今、勇者としてのスキルは使えない……と思っていた。
今までは、俺は勇者じゃなくなった結果、使えないと思い込んでいた。
事実、使用できるかを試していないのだ。
だが、なんとなく思うんだ……。
俺は以前のスキルを使えるんじゃないか……と。
今回のこの戦いは、俺にとって必要な戦いかもしれないな。
コボルト屍兵が傷だらけで帰ってくる。
どうやら、無事役目を果たしてくれたようだ。
「ノービス、隠れていろよ」
「はい!!」
俺は、コボルト屍兵を土に帰してから、森に被害が出ない場所へと移動する。
前方には、黄金の鎧に身を固めた……アロガンシア兵が進軍してくる。
来たな……。
奴等も俺の姿を見つけたらしく兵士を何人か俺に向けさせる。
「さて、始めようかな」
俺は剣を抜く。
戦闘が始まるか? と思っていたが、指揮官が俺の前に現れて、兜を外す。
成る程……。
これは長老達を責められないかもしれないな。
そいつの顔は、俺ソックリだった。




