10話 疑う者と疑わられる者
この女がグラーシア。
確かに、精霊独特の威厳のようなモノを感じる……が、こいつも俺に対して、明らかな敵意を向けているのは何故だ?
いや、同じように敵意をベルにも向けている?
「ぐ、グラーシア、話を聞くのじゃ」
「はい。聞きましょう」
ん?
話し合いには応じてくれるのか?
「まずは、貴方達の用件を聞きましょう。話はそれからです」
『『ぐ、グラーシア様!!』』
用件を聞こうとしただけで、トレント達全員から明確な敵意を俺達に向けてくる。いつでも俺達を攻撃できるように、地中に根でも張り巡らせているかもしれない。
俺は地中を警戒する。
「用件を話しなさい。堕ちた勇者カイル!!」
堕ちた勇者ね。
確かに今の俺は勇者ではなくリッチキングだ。
勇者が魔物に近いモノになったのならば、堕ちたと言われてもおかしくは無いか?
しかし、俺達の目的は、仲間達と静かに暮らす事。
今の俺の状況を知られていたとしても、精霊達やトレント達に、堕ちたとか、裏切り者などと言われる筋合いはないのだが、どうも話が食い違っている気がするな。
しかし、ここは正直に用件だけ言っておいた方がいいかもしれないな。
言い訳をしたり、反論して木材を貰いに来たという目的すら聞いて貰えないのは困る。
「そうだな。俺達も頼み事だけ聞いて貰えれば、この森から手を引かせてもらう。ベル、理由は分からないが、和解は不可能なようだ。俺が原因のようだが、俺に心当たりはない。済まないな」
「残念だが、仕方あるまい。わし等はここにいてはいかんようじゃ」
「あぁ。グラーシア、俺達がここに来た目的は、この森の上質な木材を分けて貰いたい。それだけだ」
本当は、ベルとの和解を受け入れてもらい、木材の常時提供を求めるつもりだったが、こうも敵対されているのでは、和解は無理だろう。
運よく手に入れられるのならば、手に入れられる分だけ手に入れて別の方法を考えた方が効率がいい。
「ちょっと待ちなさい。貴方達の目的は本当に木材だけなのですか?」
「あぁ、俺達は魔王城の再建に必要な木材を求めてきただけだ。精霊の森に来たのは、ベルがお前と和解がしたいと言ったからだ。だが、お前達が話を聞こうともせずに、ましてやそちらが望もうとも思っていないのに。和解など夢のまた夢だ。今回は俺が原因のようなので、ベルには悪いが俺は素直に退かせてもらう。ただ、用件を言えと言われたから、この森に来た目的を話しているだけだ」
俺の言葉にトレント達が困惑しているようだ。
何故かは知らないが、俺が精霊の森を侵略でもしようとしていると思ったのか?
生憎だが、俺に支配欲などというモノはない。そんな事はやりたい奴がやればいい。俺はあくまで静かに暮らしたいだけだからな。
「そ、そうやって油断させようとしているのね……」
あぁ、やはり話を聞く気がないのか。
まぁ、なんとなくそんな気がしたのだがな。
ここまで疑われるのならば、これ以上話しても仕方が無い。
俺は帰ろうとしたのだが、カロンが俺達の前に立つ。
『カイル。ここは私が説明しよう』
「カロン……もういい。これ以上話をするだけ無駄だ」
カロンはオレを一睨みした後、グラーシアと向き合う。
『グラーシア、ここはカイルの話を詳しく聞く必要があるんじゃないのか? どうやら、こいつは俺達が知っているカイルとは別人かもしれない』
今なんて言った?
カロン達の知る俺とは別人だと?
もしかして、俺は偽物だと思われているのか?
「カロン、結局、お前も俺を信用していないという事か?」
『今の言葉では、そう取られてもおかしくはないな。しかし、私達にもお前を本物と断定できない理由があるのだ。実は、先程のお前との会話で私は一つだけ嘘を吐いた』
「嘘だと?」
『あぁ、事情を知らないと言ったのが嘘だ。私があそこ守護している理由は、お前がアロガンシア兵を率いて精霊の森を奪おうと攻めてきたからだ』
「俺が……だと?」
どういう事だ?
アロガンシアには俺がもう一人いる?
「おい、ベル。どういう事だ? これも、お前が俺にかけた呪いなのか?」
「い、いや。わしがお前にかけた呪いは『死霊系の魔物』として復活させるという呪いのみだ。そもそも、お前に意識があるのも予想外の出来事じゃった。しかも、お前の復活と共にわしも復活するように仕向けていたからな。わしが復活したあの時が、お前が復活した時のはずじゃ」
今の話は俺も初めて聞いたが、ベルの言う事が本当ならば、俺とベルは同じ日の同じ時間に復活した事になる。
それならば、グラーシア達が見た、俺は一体何者なんだ?
『私も一度、奴と対峙した事があるが、見た目も魔力も戦った感じも当時のお前と変わらなかった。だから、長老が間違えるのも無理はないかもしれない』
「そこまでソックリだったのか?」
『あぁ。もし、お前が勇者として私の前に立っていたのなら、私はお前を信じられずに、お前と戦っていただろう』
そこまで似ていたのか。
「どちらにしても、俺の話を聞いてくれるか?」
グラーシアと長老も渋々話を聞いてくれる事になった。
俺は自分が処刑されてからこうやって復活するまでの話をした。これで信じてくれないのならば、本当にこれ以上話しても無駄のようだ。
その証拠に、長老はそれでも納得いっていなかった。
『では聞くが、お前自身はワシ等に危害を加えるつもりは無いのだな? むしろ、アロガンシアに恨みがあるのだな?』
「何度も言わせないでくれ。俺は静かに暮らす為に精霊の森に木材を取りに来ただけだ。アロガンシアに恨みがあるか? と聞かれても正直無いから、どうでもよく、争うのならば勝手にやってくれとすら思っている」
精霊やトレント達がアロガンシアと争うならば、勝手にやってくれという事だ。
「それならば、あの偽物を放置するんですか!?」
「あぁ、放置するな。何故なら、俺には関係ないからだ。自分達に振りかかった火の粉を払うのならば戦うが、俺の話を聞いた後も疑うお前達の為に、何故俺がお前達に協力する必要がある?」
俺の言い分に二人は言葉を失う。
本音で言えば、俺の偽物を放置するつもりもないし、アロガンシアが魔王城を攻め込んでくるのならば、俺は戦う。
しかしだ、このままトレントや精霊達の味方をしてしまうというのも癪に障る。
「しかもだ。カロンがこう仲裁に入った今でも、お前達二人……いや、カロン以外の全員が、俺を疑っている。互いを信頼できないのに、なぜ共闘が出来ると思うんだ?」
相手が疑っているのなら、背中から刺される危険性もある。
以前の俺ならば、愚直に己の正義の為に信じただろう。
しかし、今の俺は信じていた仲間達に裏切られて、俺一人が死ぬならまだしも、俺が原因で故郷の皆まで殺されるという経験をした。そんな俺が、信頼していない、ましては俺を疑っている者に背中を預けるわけがないだろう。
「ベル、お前には悪いと思うが、俺はこいつ等を助けてやろうという気にはならない。お前はどうなんだ?」
俺はこいつ等よりもベルの方が信用できる。
確かに、ベルとは以前殺し合いをした。
しかし、リッチキングになった後に接したベルは、放っておけない存在になりつつある。エリアルさん達がベルを信頼しているのも、なんとなく頷けるようになった。
メリア達、村の人達もベルを受け入れている。
それは何故か?
単純に話が通じるし、こいつはいつでも本音で話をしているのがわかるからだ。
こいつは自分の力を取り戻す為に、屍者にアロガンシアに復讐をしろと言った。今だって諦めていないのかもしれない、けれど、こいつは復讐を俺達に強要しようとしない。それどころか、今は俺達の話を聞いて、魔王城の復興に力を入れている。
もしかしたら、今回のグラーシアとの和解の話も、魔族が平和に暮らす為に選んだのかもしれない。
「俺としては、ここの木材を諦めてでも魔王城に帰りたいくらいだ。今は、カサドールが守ってくれているだろうが、魔王城の方にも、いつアロガンシア兵が攻めてくるか分からない。だから、こいつ等とは、交渉はする必要すら無いと思っている」
俺はそう言って、ベルに転移魔法を使うように頼むが、ベルは首を縦に振らない。
やはり、魔王としても精霊の森を失う事は避けたいのか、まだ迷っているようだ。
もし、ベルがこの森を守れというならば、その時はこの森を守るとしよう。
しかし、ベルが見捨てると判断すれば、その時は……。
この森を見捨てる。
「ベル、お前はどうするんだ?」
ベルは物凄く頭を捻りながら考えている。
俺自身、こんな事をベルに決めさせるというこの行為に嫌悪すら感じるが、守るモノに優先順位をつける必要がある。
そもそも、ここで精霊の森を守っても、こいつ等が俺に疑念を持っている以上、俺達だけが苦労する戦闘になる可能性だってある。
いや、場合によってはアレス達に俺の存在がバレてしまう危険性すらある。
もし俺が復活している事に気付いたのならば、俺達は再びアレス達に狙われるだろう。
本来ならば、それは避けたいのだ。
だが、俺はベルの出す答えをなんとなくだが、予想できてしまう。
そして、俺もそれに従う事にする。
さぁ、ベル。
お前の答えを聞かせてくれ。
「わ、わしは……」




