8話 先代魔王
「和解ね……。詳しく話してもらおうか」
この話は元四天王との確執だ。ベルからすれば話したくないかもしれんが、話してもらわないと何が原因かも分からないからな。それに、今と昔では状況も環境も変わってきている。もしかしたら、話せば分かってもらえるかもしれない。
「……うむ」
ベルもそのことは分かっている様で、素直に頷く。
ベル自身も、和解したいという気持ちが強いのだろう。
元、四天王グラーシアは、精霊の森にいるそうだ。
精霊の森か……という事は、俺もグラーシアに会っているかもしれないな。
実は勇者時代に、試練という形で精霊の森に訪れた。そこで、トレントの長老に会った事がある。ただ、長老の見た目は物凄く大きく荘厳な大樹だった。
彼が四天王というのなら、納得だ。ただ、疑問も残る。
トレントは基本動く事はない。亜人に区別されたりもするが、トレント自身が木に宿る精霊のようなモノだと俺は思う。女性型にドライアドというのもいるそうだが、精霊の森では見かけなかった。
「カイル、お前は彼女に会った事はないはずじゃ。もし、出会っていたのなら、アイツはわしの話をしたはずじゃからな」
彼女?
もしかして、グラーシアという四天王は女性なのか? という事は、ドライアド?
俺の知っている精霊の森とは違うのか? と思い、ベルに精霊の森の場所を聞いてみたが、やはり以前に行った場所で間違いない。
考えられるのは、魔族に与しているから、勇者という存在を避けていたという事か?
いや、それは考えにくい。元々、精霊というのは人間と密接な関係があり、魔族を倒す事に協力していたはずだ。
「グラーシアは精霊の中でも裏切り者だったのか?」
俺がそう聞くと、ベルは溜息を吐く。
「何故そう思う?」
「精霊は人間の味方だろう? その精霊が魔王四天王だったという事は、他の精霊達を裏切ったという事だろう?」
少なくとも、精霊は人間の味方だと俺は教わった。これは勇者になってからではなく、小さい頃からの教育や絵本でだ。メリアも同じ教育を受けているので、頷いていた。
俺達二人を見て、ベルはもう一度溜息を吐く。
「その考えが、人間達の傲慢であり、魔族との争いを激化させた原因なんじゃよ。精霊は、どちらかと言えば中立の立場じゃ。グラーシアは、元々魔族側の精霊じゃった、というだけじゃよ。精霊だって、お前達人間と同じじゃからな」
同じか……。
確かに人間にだって悪人はいる。精霊にだって選ぶ権利はあるという事だろう。
「平和主義者の彼女は、魔族と人間の和解を望んでおった」
「つまりは、人間を滅ぼそうとしたお前と、人間と和平を求めたグラーシアは衝突し、決別したという事だな」
「そうじゃ。彼女の言い分も分かるのじゃがな、わしには人間を信じるなんて事は出来なんだ」
「何故だ?」
「父上を……先代ベルゼブブを殺した勇者が原因じゃ」
「先代ベルゼブブ? お前の名は世襲制なのか?」
「そうじゃ」
魔王ベルゼブブというのは、魔族の頂点に立つ者が名乗る名だそうだ。
その名を受け継いだものは、ある変身能力を使い、能力を数百倍に引き上げる事が出来る。それがあの蠅の姿だそうだ。
更に言うならば、第一形態だったあの姿も魔力で成長させた姿だったらしい。つまりは今の姿が本当の姿だそうだ。
エリアルさん達が、ベルを見て魔王と言ったのは、普段はこの姿でいたからという事みたいだな。
ベルが言う先代の勇者というのは、恐らく三百年前に活躍したという勇者だろう。
人間の間では、魔王ベルゼブブを封印し、世界を救ったと言い伝えられている。
例え封印が間違いで、殺していたとしても、それを人間だけの非にするのはおかしいというモノだ。俺とベルの戦いでも、俺が勝っただけで、負けていたら、死んでいたのは俺だ。
魔王と人間は血で血を洗う関係だ。どちらが殺されたとしてもそれはお互い様なはずだからな。
俺はベルにその事を聞いたみたのだが、ベル自身も、俺との戦いと結末事態には不満はないらしい。
「わし等の戦いは、アレが正しかったといえるじゃろう。しかし、父上の場合は違う。あれは勇者の所業じゃない」
ベルの語った先代魔王の最期は胸糞の悪い話だった。
ベルの父親は、魔王でありながら魔族と人間の和平、協力関係を結ぼうと尽力していたそうだ。
それこそ、一年二年ではなく、数十年かけて地道に基盤を整えていった。
魔族というのは、基本争いを好まない種族だから説得は容易だった。しかし、人間はそうじゃなく、時間が必要だったのだ。
そして、ついに人間の王との話し合いが実現されたのだが、それは人間側が仕掛けた罠だった。
人間の王は、「民を怖がらせない為に魔王一人で会談に臨んで欲しい」と頼んできたそうだ。魔王としても警戒される事は望んでいなかったので、その話を了承し、一人で人間の国へと向かった。
魔族の誰もが、魔王が帰ってきた時には、長かった人間との争いに終止符が打たれると思っていた。
しかし、生きて魔王が帰る事は無かった。
当時の勇者達は、一人で現れた魔王に戦いを挑んだ。
いや、魔王討伐は勇者の責務であり、運命だ。それを責める事は出来ないのだが、これが人間の国の策略ならば話は別だ。
勇者の周りには、虚ろな目をした騎士達が立っていた。その数は百を超えていた。
ベルの父親は魔王だ。
たとえ数が多くとも、勇者ではないただの騎士が何人いようと問題はなかった。それどころか、殺さずに騎士達を無力化する事すら可能だった。
魔王は、この事を含めて人間の王に理由を聞こうとした。しかし、勇者達がそれを許さなかった。
仲間の魔法使いが、宮廷魔導士を操り魔王の周りに魔法を使えなくする結界を張った。
魔王にとっては何の事もない結界だったはずだが、この結界を破ってしまうと宮廷魔導士達が死んでしまう事に気付いた魔王は、力だけで勇者達を撃退しようとしていた。
しかし、それをも封じる為に、もう一人の魔法使いが騎士達を操り、魔王にまとわりつかせた。
これも、騎士達の命を軽く見れば、簡単に振り切れたが、せっかく掴んだ和平交渉の場をこんな形で潰されまいと、魔王は考えた。
魔王がそう考えていたのには理由があった。その戦いを国王も高みで見ていたのだ。
この時、魔王は罠に嵌められたかもしれないと思ったが、それは無いと思い込んでしまった。
魔王が答えを出すよりも先に、勇者が魔王に斬りかかっていた。
勇者は騎士ごと魔王を斬り刻み、そして殺した。
魔王が居なくなった後、人間による魔族狩りが始まった。
今の魔族が少ない理由は、それが原因らしい。
「胸糞の悪い話だな。ベルが人間を許せない気持ちも分かる」
「あぁ。だからこそ、グラーシアとは意見が合わなかった。もし、父上の話し相手が、お前やメリアのような人間だったのならば、違う未来もあったのだろうな」
「いや、メリアはともかく、俺は違う。俺は魔族を憎んでいたさ。魔族、魔王がいなければ俺は勇者などに選ばれなかったと逆恨みしていたさ。その結果が今の俺だ」
ベルの気持ちも理解したが、大事なのはこれからの話だ。
「ベル、今のお前がどういう考えかはわからないが、グラーシアとの話は俺に任せてくれないか?」
「何故じゃ?」
「グラーシアは、人間との和平を望んでいるんだろ? ならば、人間と魔族の間の俺が話した方が良いと思ってな」
「そうか?」
なんとなく納得いってなさそうなベルを連れて、俺とメリアとノービスの四人で精霊の森へと転移した。




