7話 資材が足りない
ベルも起きたようだし、犬人の森での出来事を説明しようと思うのだが、こいつはまだ寝起きだ。話半分で聞かれても困るから、ちゃんと会話できるか確認を取っておく必要があるな。
「おい、頭は大丈夫か?」
俺がそう聞くと、なぜかベルが不機嫌になる。
「お前はわしを怒らせたいのか? 無自覚ならば、かなり失礼な事を言っておるぞ?」
「そうか? 寝ぼけていないかと聞いてるんだが、何が失礼なんだ?」
「おい、メリア。こんなのが恋人で良いのか? こいつ、無自覚に性格が最悪じゃぞ?」
メリアは微笑んでいるだけで何も言わない。そこは否定して欲しいのだが……。
しかし、メリアに余計な事を言わないでもらいたい。メリアの性格が、ベルの様に歪まれても困る。
「それよりもだ、犬人の問題は解決しておいたぞ。コボルトも俺の支配下に置いた」
とはいえ、魔王城で呼び出せるかの確認を取っていないから、まだ確定ではないが……。
「そうか。で? 黒幕はどうした? 殺したうえで屍者化したのか? 戦力になりそうか?」
「殺しはしていない。が、和解はしたさ。今は犬人の長老と兄弟水入らずで話をしているだろうな。まぁ、アイツ等の事はアイツ等で話をすればいいさ」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だろう。それよりもだ、ベル、これを渡しておく」
俺はベルに犬笛を放り投げる。
ベルは落としそうになるがなんとかキャッチした。何かぶつくさ言っているが気にする必要はないだろう。
「これはなんじゃ? 笛?」
「あぁ、カサドールはそれでコボルトを操っていたらしい。しかもだ、真偽は不明だが、その笛には精神を操る何かが施してあるらしい」
「何?」
「ここにいるノービスの話では、カサドールは族長候補から外されたみたいでな。その事を、本人は自身の未熟さと理解していたみたいだが、魔族にその笛を渡された時に何かされたみたいで、犬人に対して憎しみが出て来たそうだ。ちなみに今は、その笛を手放す事で元に戻っているみたいだが」
「そうか……その魔族というのが気になるが、まぁ、これはわしが調べておくとしよう。で? コボルト共を使役したと言っておったが、殺して復活させたのだな。どうなった?」
「どうなった……とは?」
「コボルトを復活させたんじゃろ? お前が人間や犬人を復活させると屍者になるじゃろ? 魔物はどうだったんじゃ? 本能だけで生きている魔物が屍者になったとしても意味がないじゃろ? 本能しかない屍者では、むしろ厄介かもしれん」
そういう事か。それならば問題はないな。
「コボルトは、普通の死霊系の魔物として復活したさ。それで相談なんだがな、向こうでコボルトに『リオ・ベール』をかけた。再度、呼び出す事が出来るのは確認したが、そいつらを遠く離れた魔王城で呼び出す事は出来るのか、聞こうと思ってな」
「ん? 問題ないじゃろう。お前も死霊系の魔物と戦った事があるじゃろ? アイツ等は上位の死霊系が呼び出しておるんじゃぞ?」
「そうなのか? しかし、それだとおかしくないか?」
「なにがじゃ?」
「俺が勇者をやっていた時に冒険者に聞いたんだが、新人冒険者が訓練場にしている、死霊系だけが出てくるダンジョンが存在した。そこでは低級のスケルトンだけが出てきていたそうだ。死霊系を呼び出す事が出来るのは最低でも中級のリッチ以上になるだろう? しかも、中級魔物のリッチでは、呼び出せる低級死霊系はせいぜい数体のはずだ。あのダンジョンには数百は呼び出されていたはずだ。もし、上級の魔物がいた場合、今まで新人冒険者が死んだという話を聞いた事が無いんのはおかしい。勝てるわけがないからな。それはどういう事だ?」
「まぁ、スケルトン共を呼び出した死霊系がその場を離れただけじゃろう」
「離れる? 離れても消えないのか?」
「消えぬな。元々、リッチなんかはそうやって場所を転々としておる事が多い。お前は、ある日突然スケルトンやゾンビなどが消えた、という話を聞いた事は無いか?」
確かに、そういう現象を何度か聞いた事がある。
大体が、俺達がリッチを倒した時……そういう事か。
「納得したようじゃな。で、コボルトを人間と戦わせるのか?」
「そのつもりだ。ベル頼みがあるんだが……」
これはベルにしか頼めない。
オズマが俺の側に立ってくれれば、アイツに頼むのだが、今のアイツの立ち位置がどちらかは分からない。もし、アレスと協力関係だった場合は戦う事になる。
本音で言えば、出来ればオズマとイグニスの二人とは戦いたくないな。強さはもとより、アイツ等とは、馬が合った。だから、戦いたくはない。
「なんじゃ?」
「ベル、カサドールにコボルトを指揮させたい。そのためにはその笛が必要だ。だから「なぜじゃ?」」
「何故、この笛が必要なのじゃ?」
「い、いや、コボルトを操ってもらわないと」
「問題ないじゃろうて、お前が、カサドールの命令を聞くようにと命令すればいい」
「そんな事が可能なのか?」
「可能じゃ、お前が思っているよりもリッチの能力は強力じゃ。いや、お前の屍者蘇生能力はリッチのそれを遥かに超えておる。そのくらいは可能じゃ」
それならば、当面はアロガンシアとの戦いも問題はなさそうだな。
「でだ、そのカサドールというのは信用できそうなのか?」
「さぁな。まだ出会ったばかりだから何とも言えんが、犬笛を手放した後のアイツの目は腐っている様には見えなかったからな、大丈夫だろう」
「そうか、この笛なんじゃがな。軽く魔力を流して調べてみると、高位の精神操作魔法が施されとる事が分かった。どんな系統の魔法かまでは、詳しく調べねば分からんが、適当な調べ方で検出するくらいじゃからな。これはアレじゃろう」
「ん? 簡単な魔法という事か?」
「違う。精神操作系の魔法はカモフラージュという事じゃ。お前は本当に魔法の事に関しては疎いな。こういう場合は、簡単に見つかるものをカモフラージュに置き、重要な魔法は深部に埋め込む事が多いのじゃ。だから、この犬笛には、精神操作の他に、別の強力な魔法がかけられておる可能性がある。こんなものを作れるのは、高位の魔法使いしかいぬだろうな」
高位の魔法使いか。
もしかして、オズマが亜人を滅ぼす為に? いや、それはない。アイツは亜人を研究対象として考えていた。むやみに殺す事はしないはずだ。それにあいつは魔族ではない。
カサドール達が仲間に加わってから三日ほど経った。ベルは笛を調べる為にメリアと魔王の間に引きこもっている。まさか、ベルがあれ程メリアに懐くとは……。
暇になった俺は、犬人の戦士や村の若者を鍛えていた。しかし、屍者を鍛えるのは予想以上に難しい事も分かった。
当たり前の話なのだが、屍者は死んでいるので肉体的にも精神的にも成長する事はない。という事は筋組織も成長しないので肉体を改造する事が出来ない。
だが、逆にメリットもある。死なない事も十分にメリットなのだが、魔力が増幅されているのが分かった。確かに人である以上、最低限の魔力を持っている。それが、数倍から十倍に上がるのだ。
魔力が高いという事は、身体能力強化の魔法を覚えて貰えばいい。そこは、優秀な魔導士である、エリアルさんに教えてもらう事になった。
俺も、自分の力を上げる為に一緒に習っている。俺が死ななければ、皆が死ぬ事もないからな。
次いで重要なのが戦闘技術を高める事だ。しかし、技術は短期間で習得できる物でもない。これに関しては長い目で見るしかない。
俺が、いろいろ考えながら歩いていると、ファベルさんが駆け寄ってくる。
「カイル、困った事になっちまった」
「ん? どうかしたか?」
「資材が足りねぇんだ。何とか仮の居住区は出来たんだが、それ以外は何も手を付けられていねぇ。ある程度は、魔王城にあるモノを使えば何とかなるが、それを考えても木材等が圧倒的に足りない。かといって、この辺りには森はない。何とかならねぇか?」
「そうか、分かった。資材は俺が何とかするよ。他に必要なものをリストアップしておいてくれ」
「頼むぜ、カイル」
暫くして、ファベルさんから足りない資材を書いた紙を渡された。
木材・鉄・金・巨大な石……いろいろあるな。
石か何かは魔法で代用できるか……土魔法を使える奴がいてくれると安心なのだが……。
今は、順番に考えよう。とりあえず木材からだな。
「ベル、木材が足りないらしいんだが、何処か良い森は無いか?」
「突然じゃな。そうじゃのぉ、先代の四天王『グラーシア』が治める森の木が上質と聞いた事がある」
先代の四天王? 俺達が戦ったアイツ等じゃないのか?
「へぇ、そりゃいいじゃないか。そいつに頼めないのか?」
「むぅ、難しいかもしれぬが……今回はわしも行くぞ」
「なんでだ?」
「あぁ、そろそろわしもアイツと和解したいからな」
和解か……厄介そうな気がするな……。




