6話 魔王城帰還
魔王城に帰ると決めた俺達だが、まず考えないといけない事がある。
これだけの数のコボルト屍兵を、何も言わずに連れて帰ると、魔王城のみんなもそうだが、犬人が怯えてしまうのは間違いない。何か、いい方法はないモノかと考えたのだが、特に思いつかなかった。
「勿体ないが、コボルト屍兵はここで廃棄するしかないのか……」
俺が残念そうに呟くと、カサドールが話しかけてくる。
「カイル殿。コボルト達を一度廃棄すると、もう二度と呼び出せぬものなのか?」
「ん? どういう事だ?」
「カイル殿も勇者だったのならば、死霊系の魔物、特にリッチ等の低級死霊系の魔物を使役する魔物と戦った事があると思うが、リッチが使う屍者蘇生の魔法は、死者を復活させるというよりは、ゴーレム生成に近いんじゃないかと思ってな」
「そうか!」
確かに、リッチが呼び出すゾンビやスケルトンは土で出来ている事が多い。そうでなければ、都合よく死体を用意できるわけがない。
俺はコボルト屍兵を全て『リオ・ベール』で土に還らせる。そして、任意の数をカダ―ベール・レスレクシオンで復活させる。
すると、カサドールの読み通り、土が盛り上がりコボルトの形に形成されていき、コボルト屍兵が復活していた。
ただ、遠く離れた魔王城で復活できるかどうかは分からない、そこは要実験でいいだろう。もし復活できなかったら、その時はその時で考えよう。
「助かったよ、カサドール」
「あぁ、役に立てて良かった。そうだ、カイル殿、魔王城に行く前にこれを渡しておこう」
「ん? さっきの笛か?」
「あぁ、これを持っていると、犬人に対して憎しみを持ってしまう気がしてな。今から兄者に会うというのに、それでは意味がない」
「ん? 元々、他の犬人を憎んでいたんじゃないのか?」
「族長の話を聞いたのだな? それを憎むのは筋違いだろう? わしが族長になれなかったのは、わし自身が未熟だったからだ」
カサドールは自分をちゃんと理解したうえで、犬人達と距離を置いていたらしい。
しかし、犬人達にコボルトを仕向けていたのも事実だ。という事はだ、この犬笛に何らかの感情を引き起こす細工でもしてあるのか? クソっ、こんな時にオズマがいれば、精神操作系の魔法の事を聞く事が出来たのにな。いや、アイツとは二度と会う事はないだろう。下らない事を考えたな。
どのみち、俺の仲間がコレを手にすれば負の感情が増幅されるかもしれん。これはベルに渡しておいた方が良いだろう。
俺達は転移魔法で魔王城へと帰って来た。
魔王城では、夜通しで修復の工事が行われていた。
俺達は工事の進み具合を見ながら、奥の地下室に進む。
夜である今の時間まで工事をしているのは、村人とファベルさんだけの様だ。
彼等は俺と同じ屍者だから疲れないのかもしれないが、出来れば今までと同じように生活はして欲しいと願う。
「よぅ!! 帰ってきてたのか!!」
ファベルさんが高い所から落ちてきた。降りてきたのではない、文字通り落ちてきたのである。しかも、落ちてはいけない落ち方でだ。
予想通り、大きな音をたてて地面に激突する。。
しかし、ファベルさんはすぐに立ち上がる。普通の人間ならば死んでいると思うのだが、ファベルさんも屍者、足があり得ない方向に曲がっているが、気にした様子もない。
「がはは!! この体は便利だな!! 落ちても死にやしねぇから、命綱も必要ねぇ。下まで降りるのにいちいち梯子を使う必要のねぇ!!」
「いや、今のは降りるでは無くて落ちるだろう? 死なないとはいえ無茶は止めてくれ」
「がはは!! 怒られちまったぜ!!」
これは反省していないな。
「ファベルさん、ベルの奴はどこだ? もう寝ているのか?」
「ん? 魔王ちゃんか? 魔王ちゃんなら、二階の魔王の間にいるはずだぞ?」
「魔王の間?」
「あぁ、エリアルちゃんに頼まれてな。彼女達からすれば、魔王である魔王ちゃんは希望の光だそうだ。少しでも威厳が出るようにして欲しいんだろ? まぁ、俺っち達がこうして生活できるきっかけになってくれたのは分かるんだが、あの見た目と子供っぽい言動だからなぁ。あぁ! それよりも、犬人達は本当に器用だな!! 工事が一気に進んでいるんだが、やはり人数が少なくてなぁ。もう少し、工事には時間がかかりそうだぜ」
「いや、別にそこまで焦る事はないよ。今日から彼等も工事を手伝ってくれる」
そう言って、カサドール達を紹介すると、ファベルさんや、いつの間にか集まってきていた他の村人の青年達が、犬人の戦士達やカサドールと握手をしていた。
「じゃあ、俺はベルがいる魔王の間へと行くが、カサドールとノービスは付いて来てくれ。他の五人は、工事をしている人達が安全なように魔物に警戒して見回りをしておいてくれ」
「「「「「はい!!」」」」」
俺達はベルのいる魔王の間へと歩き出した。するとカサドールが不思議そうに話しをしだす。
「先程のファベル殿も屍者なのか? とてもそうは見えなかったな。犬人だから顔色などがあまり変わらないと思っていたのだが、本当に人との見分けがつかない」
「あぁ、ベルが言うには俺は勇者だったから、勇者の力が変質したんじゃないか? と言っていたな。まぁ、良く分からんという事だ」
「聞いた事もない現象だな」
その後も談笑しながら、魔王の間へと歩く。
勇者時代も思ったが、魔王城は結構広いんだな。
「無駄に大きな扉、懐かしいな」
「懐かしい?」
「あぁ、この部屋でベルゼブブと戦ったんだ。思えば、今の俺にとっては、ここが始まりの地という訳だ」
俺は重い扉を開ける。
懐かしい。広い部屋に玉座だけがある光景、ここでベルと殺し合いをしていたんだな。
魔王が座っていた玉座にメリアが座っていた。逆座の横では村長と犬人の長老が座っていた。
「カイル、おかえり」
「ただいまメリア。ところでベルはどこだ?」
メリアは口に手を人差し指を当てる。そして自分の膝を指差す。
何か寝ているのか? ん? ベルが丸まって寝ている。こいつは猫か?
しかし、メリアの膝枕で寝るなんて、なんて羨ましい。
俺は静かに玉座に近付き、頬を引っ張るが起きやしない。
「こいつ、本当に魔王か? と疑いたくなるな。流石に寝ているこいつを起こすのは可哀想だから、後で話をするとしよう。カサドール、犬人の長老に挨拶をしておかなくていいのか?」
「あぁ、兄者も寝ておるからな。無理矢理起こすのも可哀想……とも思わぬな。すまんがコレを借りていく」
そう言って、長老を肩に担ぎ魔王の間から出て行ってしまう。
「あ、あの、カイル様。良いのですか?」
「ん? 大丈夫だろう。そもそも、自分の負の感情のせいで引き起こした事を話すのに、俺達がいたんじゃ本音は言えんだろう? まぁ、戦闘しようとした時点でなんとなく俺には分かるから、放っておいていいさ」
「カイル、その子は?」
「あぁ、ノービスと言ってな、犬人の戦士だ。こう見えても立派な雄だそうだ」
「ふふふっ、よろしくね、ノービス君」
「は、はい!!」
メリアに声をかけられて、緊張して答えるノービス。
しかし、そんな大声で返事したら……。
「なんじゃ? うるさいのぉ~」
ほら、うるさいのが起きた。




