5話 犬の狂人 カサドール
カサドールと呼ばれた犬人……。
こいつの見た目と威圧感、とてもじゃないが犬人には見えない。こいつは本当に犬人なのか?
俺が知る限りなのだが、犬人の平均伸長は一メートルくらいで、大きくても百二十センチくらいだ。しかし、目の前にいるカサドールと呼ばれた犬人は、人間である俺よりも大きい。
筋肉も肥大化しているので、何かの強化魔法でも使っているのか? とも思ったが、カサドールから特別な魔力を感じない。
「か、カサドール様が何故コボルトの巣にいるのですか!!」
「答えてやる必要性を感じぬな。ただ一つ、コボルト共はわしの命令を聞くとだけ言っておこうか」
やはり、こいつがコボルトを操っていたのか。
しかし、どういった方法で魔物を操っていたんだ?
その辺りも詳しく聞く必要がありそうだな。
俺はあのカサドールという犬人のことをよく知らない。ノービスなら知っているだろうか?
「ノービス。アイツはどういった犬人なんだ?」
「はい。あの方はカサドール様。長老であるペロドール様の弟様です。あの勇ましい姿で力もあったので、族長候補に選ばれていたのですが、粗暴の悪さから逆に追放されたのです」
成る程ね。
要するに、自分の普段の行いの結果が、今の自分を作ったということに気付いていない愚か者なのか。
「で? アイツにはコボルトを操る力があったのか?」
「いえ、あの方は身体能力もそうですが、犬人の特別な力を身体の強化に使われているので、そのような力は持っていなかったはずです」
ノービスの奴、随分と詳しいんだな。
どのみち、こいつにはコボルトをどうやって操っているか、口を割らせるために生かしておく必要があるな。
「で? その族長崩れがなんだってコボルトを使役しているんだ? コボルトなど低級の魔物だ。それを使ってお山の大将にでもなったつもりだったか?」
俺は、カサドールの意識をこちらに向ける為に、わざとらしい挑発をする。
「人間か。人間が犬人の問題に口を出すな。喰い殺すぞ?」
「へぇ、出来るモノならやってみろよ。逃げ出しただけの糞犬が偉そうな口を聞くんじゃねーよ」
「か、カイル様!!」
「どうかしたか? こいつは敵だぞ? こいつのせいで犬人はあんな目に遭ったし、お前達も死なずに済んだんじゃないのか?」
俺の言葉に、犬人達が困惑している。
こいつらにとって、カサドールは怖いのだろう。
犬人は、基本大人しいし、強いモノに尻尾を振るのは、弱肉強食の世界ではおかしなことはない。
だが、今は俺がいる。
「おい、ノービスに他の奴も。お前達は俺の仲間だ。こんな奴に屈することはないぞ。俺とこの老犬のどちらが怖い? どちらの方が強そうだ?」
「「「「「カイル様です!!」」」」」
むず痒いが、これでいい。
こいつが犬人を恐怖のどん底に落としたのは間違いないのだ。遠慮なんてする必要も、同情してやる必要すらない。
ノービス達が槍を構える。
犬人達が戦う意思を見せたことにカサドールは驚いている様だ。
「グハハハハハ。貴様等の様な貧弱な犬っころがわしに逆らうのか? 良かろう。人間共々ここで殺してやろう!!」
カサドールは笛を取り出し、一気に吹く。
すると、ノービスたちが膝をついた。どうしたんだ?
「大丈夫か?」
「はい。カサドール様が吹いた笛の音に耳をやられました。僕達はすぐに再生するみたいで一瞬だけでしたが……」
「じゃあ、問題は無いんだな? キツかったら言えよ」
「はい」
しかし、今の笛は犬笛か何かなのか? 俺には何も聞こえなかった。
犬人だけに聞こえる笛ということか?
いや、違うな。
もしかして、アレがコボルトを操っていた道具か?
「グハハハハハ!! わしの配下がここにいたコボルトだけだと思ったか!! この森全てのコボルトを操ることも可能なのだ!! 今その全てをここに集結させた!!」
そうか。
こいつが余裕ぶっていたのは、コボルトの増援があったからなのか。
今集まっているだけでも数百、もしかしたら千を超えるかもしれんな。
こちらは俺を入れても七人。数だけは圧倒的に不利だ。
さすがの俺でも千を超える低級魔物に勝てるとは思えない。どうする?
いや、手頃な兵士がいるじゃないか。
俺の力を使うと思わなかったが、アロガンシアの軍と戦うのならば実験はしておいた方がよさそうだな。
しかし、以前の俺ならばこんな考えはしなかった。これも屍者になったからなのかもな。
「カダーベール・レスレクシオン!!」
俺は足下で死んでいるコボルトに屍者蘇生の魔法をかけた。
すると、死んでいたはずのコボルトが復活する。しかも、俺の命令に従う死なない屍兵だ。
ノービス達は少し驚いていたが、お前達も似たようなモノだろう?
「ノービス!! ここはコボルト屍兵に戦わせる!! お前達は俺の所に集まっておけ!!」
「「「「「はい!」」」」」
ノービス達を下らせ、コボルト屍兵に命令を下す。
「コボルト共を殲滅しろ!!」
「「「「「ぎゃぎゃぎゃーーーーーー!!」」」」」
コボルト屍兵達が、散り散りになってコボルトを殺しに行く。
戦力の差は明白だ。
元は同じ強さかもしれないが、片方は洗脳されているだけの低級魔物、こちらは死を恐れない、死なない低級魔物。
どちらが強いかなど考える必要すらない。
戦闘はあっという間に終わった。
千を超えたコボルトが、全滅した。
俺は、再び屍者蘇生の魔法を唱える。これで千を超えるコボルトも復活した。
これで、俺の屍兵は千を越えた。
後は、カサドールただ一人だ。
カサドールは既にコボルト屍兵に捕らえられている。
「さて、大人しく話をするか、それとも勇敢に俺に挑み死ぬか選べよ」
カサドールはアッサリと笛を手に入れた経緯を話し始めた。
笛は、餌を狩っている時に魔族から貰ったそうだ。
その時「これで犬人に復讐しろ」と言われたらしいが、カサドールは普段から犬人と関わりを持つ気にならなかったらしく、これを断ったそうだ。
しかし、その直後に魔族に何かをされたらしく、犬人への復讐心が芽生えていったらしい。
復讐か。ということはその魔族は、こいつらの過去を知っていたということになるな。
「で? そいつの顔や匂いに心当たりは?」
「いや、ない」
知り合いでもないか。
どちらにしても魔族が関わっているのなら、一度ベルに相談した方が良いだろうな。
「俺達は魔王城へ帰るが、お前はどうするんだ?」
「わしは処刑だろう?」
「いや、もし俺達に協力するというのなら、命までは取らない。ただし、俺の配下になってもらう」
カサドールは少し考えた後、「忠誠を誓います」跪いた。
俺達はコボルト屍兵千以上を連れて、魔王城へと帰った。
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『どうか命だけはお助け下さい!! 勇者様!!』
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