第2話 暗殺者の目覚めー2
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美しい女性だった。
トオルと同世代ぐらい—20代前半だろうか?
きめ細かい肌は透けるように白く光輝いて見える。
その肌にに対比するような色合いの吸い込まれてしまうかのような深みのある漆黒の長髪を頭の後ろで結んでいる。大体だが髪の長さは縛っている髪を解けば腰にまで届くほどの長さではないだろうか。
何よりも印象的だったのは眼だった。
過去に数多あった要人暗殺の依頼をこなす時に、標的が妻や夫として娶った人々、標的との間に生まれた子供、側室として囲われた生活を送る哀れな人々などを飽きるほど見てきた。
こういう権力者は自身の力を他人に誇示するためか、見た目を一番大事にするので性格は暗殺の対象となっている標的よりも下種な輩が大半なのだが、それでも権力者に目をつけられるだけあって絶世の美男美女が多かった。
最悪に近い両親を持って生まれてきた子供に至っては、間引きを行っていたりもしていた。
複数人の妾で大量に子供を産ませ、その中で美しく育った子供だけを残し残りは廃棄処分もとい殺害していた。
そんな、人のことを物としか見ることのできないような人物だから、暗殺の依頼がやってくる。
こちらも、厳選されているだけあって将来有望だと思われる少年少女だった。
兎に角、そのような依頼が多かったせいもあって、美男美女を見飽きていた俺が思わず見入ってしまうほどに綺麗で、美しく鮮やかな深紅の瞳だった。
簡単に持ち上げられた。
そう俺が理解した瞬間、単純にさらに驚いただけなのだが、すっかり今までが絶頂だと思い込んでいた俺の混乱は更なる頂へと誘った。
ギシッギシッ、ギシッギシッ、ギシッギシッ
「(は?持ち上げられた!?嘘だろ?いくら俺が一ヶ月間、病魔に蝕まれていたせいでやせ細っていたとはいえ、身長は180cmは越えていたんだぞ。こんなにも細い腕で俺のことをこんな簡単に持ち上げられるわけがないだろ!)」
確かに力がほとんどない人物であったとしても、『状態強化系統』や『状態援助系統』に分類される『木属性』中級魔法の【筋力増加・通常】や、『火属性』中級魔法【攻撃強化・通常】、『水属性』中級魔法【負担軽減・通常】などの支援系の魔法を使っていれば可能かもしれない。
だが、この女性からは魔法を使用した気配が全く感じられなかった。
それは俺が魔力の揺らぎを全く知覚できなかったからだ。
魔法を唱えることによって体内の残余剰魔力を消費、放出するので、空気中に満ちている魔力を動かして揺らがせる。
魔力をなるべく揺らがせないように魔法を唱えることは、個人の技術や資質に大きく左右されるため、詠唱者にとって必要不可欠な才能の一つともいわれている。
例えば、魔法を覚えたばかりの新人詠唱者や年齢が2桁にもなっていないような年端もいかない貴族の息子娘(貴族に取り立てられるためには最低でも魔法を使えるようにならなければいけない)などは魔力を大きく揺らしてしまい不安定にしやすい。
それに対して、10年以上魔法の鍛錬を重ね己を磨き続けてきたような熟練の詠唱者になると魔力を大きく揺らすことがなくなり、安定して魔法を使用することができる。
ギシッギシッ、キィィ
魔力を揺らしてしまうことによる弊害は大量にある。
その数多き弊害の中で俺にとって最も厄介だったのは、詠唱者だったら誰でも魔力の揺らぎを感じることができてしまうということだ。
つまり、魔法を唱えてしまったら最後ほとんどの場合で他の詠唱者に発見されてしまうため、詠唱者相手に魔法での不意打ちは効かないということだ。
魔法はとても便利だがこれでは暗殺者の長所である隠密性が失われてしまう。
しかも、魔法には不審人物を探知するようなものも当然存在し、魔法を使わずに素のまま隠れ続けようとしても簡単に見つけられてしまう。
対処するには基本的に、魔法を使うわけではないために魔力の揺らぎがほとんど存在しない魔法具を使うしかない。
しかし、それも一般に出回っているものは低品質で高価格。裏世界でも低品質のものならば一般よりも数割安く買えるが、それでもけっこう高めで一個買うだけで平民の平均月給の半分は確実に吹き飛ぶ。
高品質のものならば、一つだけで平民の十年間分くらいの年給が吹き飛ぶぐらいに高い。
さらに言うならば、世に出回っている大半の魔法具は一回限りの使い捨てのものである。
永続的な効果をもたらす魔法具は魔法宝具と呼ばれて、高値で売買されている。
この魔法宝具は一般的には、過去に存在した超技術によって作られた魔法具で同じようなものを作ることができる人物は世界に数えられるほどしかいないという設定である。
これは世界規模での立派な詐欺だから、誰も言わないことだが魔法具を作れる人がちょっと努力すれば永続的に使える魔法具は割と簡単に作れる。
一般には絶対に出回らないし、誰も口外しないだけで結構な数が存在している。
確かに魔法宝具は存在している。だが、性能が普通の魔法具とは段違いに高いだけのものだ。
永続的効果をつけるだけなら、少しばかりの細工技術が必要だが普通にできる。
では、何故作らないのかというと儲かるからだ。
しょうもないことなのだが、俺も最初は知らなかったから驚いた。
暗殺者になったばかりのかつての俺は、高い金を払って魔法具を買い、確実とはいえないものの確率を高くして暗殺をするか、自分の実力を信じて魔法具を使わずに殺しに行くかよく迷ったものだ。
また自分が魔法具や魔法を使われることを考えた結果、魔力に対する感知能力を鍛えたものだ。
魔力を感知する研鑽は大人となった今でも止めることはなかったので、かなりのものとなっている。
よって、絶対に俺が魔力が揺らいだことに気が付けないはずがないのだ。
だから、考えられる可能性はただ一つだけ。この美しい女性が自分の腕力だけで俺を持ち上げているという到底信じられない答えしか俺には考え付くことができなかった。
「(これは一体どういうことだ!)」
俺は、自分を持ち上げた女性にそう問いただすつもりだった。
俺はそうしゃべったと思った。
だから、自分自身に驚いた。
そう、実際に出てきたのは、
「おぎゃぁ、おぎゃぁぁあおぎゃおぎゃあぁぁぁ」
そんな声だった。
「(は!?)」
「1!9!1!9!、14’1%3#4!5’」
ふふふと、女性が少しおかしそうに笑う。しかし、それは決して嫌味な笑い方ではなくやはり愛情に満ちていた。
「(おぎゃあ?今俺は泣き声を上げたのか………?泣き声を上げるなんて一体何か月ぶりのことだろうか………ってそうじゃなくて、身体がうまく動かないから口も動かなくてきっとうまく言語を話せないだけだよな………まさかな………普通有り得ないしな………)」
ある、予感めいた懸念が俺の頭の中に閃くように浮かんだが認めたくない俺はその想像を否定する。
俺が心の中で少し戸惑っている間に、女性は何かに気が付いたようで、女性が入ってきた扉の方向へとおいでおいでと手招きをする。
そして、なぜか照れくさそうにして部屋に入ってきたのはその女性と同年代位の若い男性だった。
男性は一言でいうとイケメンだった。
髪は独特の光沢をもつ、太陽の光を反射し光り輝く雪原にも似た色合いのプラチナヘアー。髪の長さは肩口で切りそろえられ、男性でも長髪が珍しくもないため比較的に短い方だろう。
一般的に女性に好まれそうな、虫をも殺せない優男のような顔立ち。
目元は優しげに緩められ、その奥の空のように深く青い色の虹彩を持った眼球も優しそうな視線をしている。
見た目だけならば、優しそうな雰囲気と男性としては細めの身体のためか自営業をしている店の従業員員や店主などと間違われてしまいそうだ。
下手したら、貴族とも間違ってしまいそうだが、貴族特有の気品を感じないため女性とは違って男性のほうは平民か、平民に限りなく近いほどに身分の低い貴族であると考えられる。
だが服の下にはしっかりと鍛え上げられ、研ぎ澄まされた鋼の肉体が潜んでいることが俺には分かった。
普通はこんなにも鍛えることはないので、確実にただの一般人というわけではないだろう。
その男性も愛しいものを慈しむかのように、今までもさらに優しい眼差しで俺と女性を見ている。
「(やっぱり、あれは赤子のような泣き声だった………。はあ、もう受け入れて、認めるしかないのかな?)」
自分の頭の中でだんだんと形を掘られ明確になっていく疑念を確かめるために、俺は内心あわてながらもゆっくりとした動作という小器用さを見せながら少しづつ頭を動かして行き、あるものを探す。
彼を抱き上げている女性と、彼女らを見守っている男性はもちろん俺が寝ていたベッドの近くにいた。
だからなのかは分からないが、俺の探していたそれは以外にベッドの近くにあって気が付くまでに時間がかかった。
だが、俺の抱かれている位置からでは見ることができない。状況を理解するためにもなるべく近づかなくてはいけない。
「7’1#2!1’1!9!1#6!3%7!3&4!5’2!1!?」
「1!l4#、10!3%9&4&1”4!6!。1#7!2!9!1!9!1#10!5&」
そう彼女らの中で話し合い、女性が俺を抱えたまま俺の目的物のほうへと体の向きを変えた。
それは水桶だった。なみなみと透き通っていて透明な水が入っている。
きっと俺の顔を洗うために運んできたのだろう。
俺は顔をあらわれる関係上、桶の中をのぞき込む形になる。
身体が部屋に入り込んでくる光を受けて作り出した影が、水桶を覆い隠し中の水に一時的に鏡と似たような性質を持たせる。
だから、必然的に俺は鏡もどきに映り込む。
そして、俺の疑念は確信に変わる。
そこには、黒髪の女性に抱かれるようにして、まだ生まれてから3か月たったか経っていないか分からない程幼い黒髪の赤子が映っていた。
その赤子こそが俺だったのだ。
身体はまだうまく動かすことができなさそうなので、少し頭を動かしてみることにした。
まだ生まれて年端もいかない赤子は首が座っていないと聞くから、無茶して動かしたりはしない。くだらない死に方はしたくないしね。
頭を少し右に傾ける。そうすると水に映っている俺は俺と同じ分だけ首を左に傾ける。
今度は左に少し傾けてみる。すると水の方の俺もほぼ同時に右に首を傾けていた。
本当に俺は赤ん坊の姿になってしまっているらしい。
「(………やはりそういうことだったのか。しかし、ある程度覚悟していたとはいえ、実際に見てみると衝撃的だな)」
俺は思わずため息をつきそうになった。
「(ああ、これからどうしよう)」
詠唱者は魔法騎士や魔法兵などの魔法を使える人物たちの総称です。るびはかっこいいものが思いつかなかったので保留にしています。




