↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界人生譚〜二度目の人生、今度はちゃんと生きてみる〜  作者: 田中黒曜石
第二章 囚われの揺籃編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

第八話 帰れない日々、帰るべき場所

 一ヶ月が経ち、この研究所の生活にも慣れた。

 週に一回の定期検診以外は特にやることもないので、俺はエルシオンとの訓練に明け暮れている。

 強い相手との訓練はやはり、得るものが多くていいな。

 あ、いや別にこの研究所にずっと居たいって訳じゃないよ。

 出来ることならとっとと抜け出したい。

 そのために、一ヶ月間脱走の計画を練っていた。

 研究所の構造はもう完全に把握した。

 ヴァルディスたちの行動パターンも、大体は覚えた。

 だが、研究室に引きこもってるヴァルディス以外の三人はいつも研究所内を徘徊しているのでどうしようもない。

 あの三人のうちの誰かひとりにでも見つかったら詰みなのだ。

 そして肝心の脱出方法も見つからない。

 正面突破は論外。

 外に出ることはできるが、結界の突破する方法が分からないし。

 一度訓練のフリして結界の強度を確かめてみたが、俺の炎弾でもビクともしなかった。

 ……なんじゃこの無理ゲー。

 かといって助けを待つだけになるつもりはないぞ。

 今に見てろやヴァルディスめ。






「攻撃が単調になッてるぞォ、もッと色んな策略を練りやがれ」

「クッ……!」


 そんな俺が今何をしているかというと、もちろんエルシオンとの訓練だ。

 一ヶ月の成果としては、エルシオンに回避行動を取らせることができた。

 いやまぁ、あっちがそろそろ避けてやるかと提案してきたんだけど……。

 ともかく、攻撃はしてこないが俺の魔法を避ける相手が出来たわけだ。


 魔力制御の方は、なかなか進んだと思う。

 異物感はあまり感じなくなったし、狙った方向にもちゃんと魔法を放てる。

 そして、水属性の中級を使えるようになった!

 素晴らしい成長すぎる。



「ハァ、ハァ……」

「最初に比べれば、中々悪くねェ。だがまだまだゴミだな、てめェにも分かりやすく言うと……冒険者ランクで言うと、CかD、もしくはそれ以下だ。その歳にしちャァやる方だがな」

「えぇっ、そんなぁ……」


 嘘だろ。

 俺の実力って、そんなもんなのかよ。

 これじゃあ父さんや母さん、ドランさんの足元にも及ばないじゃないか。

 ……クソッ。

 こんなところで、立ち止まってられるかよ。


「もう一回!!」

「ヘッ、来い」


 そして、ぶっ倒れるまで訓練を続けた。





 訓練を終えた後、部屋に戻った。

 強くなるのは大事だが、それだけじゃダメだ。

 なんとかして脱走の目処を立てないといけない。

 かといって、この研究所でできることが限られる。

 うーん。

 ──待てよ。

 地下は、まともに探索したことはなかった。

 もしかしたら、何か手がかりがあるかもしれない。

 よし。

 そうと決まれば、即行動だ。

 三人の目を掻い潜り、地下へ侵入する。









 俺の部屋から地下まではなかなか遠い。

 まずこの二階から一階に降り、そしてさらに別の場所に地下に続く階段がある。

 さて、どうしたもんか。

 一階に降りるまでは難なく行けるだろう。

 だけどその先がなぁ……。

 まあいい。ものはためしだ。

 行ってみよう。





 よし、一階に降りるとこまではきた。

 問題はここからだな。

 足音をできるだけ立てず、気配もなるべく消して歩こう。

 シンと静まり返った一階の廊下に、ヴァルディスの研究室からカチャカチャと何かをいじる音だけが響いている。


 歩いていると、二メートル以上はあろうかという大男の影が見えた。

 おそらく……ラグナードとやらだ。

 ここは、何もしてない素振りでいこう。


「……何をしている」

「いやぁ〜、眠れなくて少し散歩をしているだけですよ」

「……」


 無言でこっちをみてくる。

 まずい、変なことを企んでると疑われたか?!

 冷や汗がダラダラと全身から出てくる。


「……そうか」


 そう言って立ち去って行った。

 ふぅ〜〜。

 よかったぁ。

 危ないところだった。

 バレたらどうしようかと思ったぜ。

 ともかく、さらに他の人にバレないうちに早く行こう。





 そして、地下への階段まで辿り着けた。

 厳重に鍵が掛けられており、入るのは難しい──のだと思っていたのだがそんなことはなく、他の場所の階段とはなんら変わりはなく、なんの変哲もない普通の階段だった。

 立ち入り禁止とか言っている割に、こんなゴミセキュリティでいいのか……。

 

 足を踏み入れる。

 ……ッッ!!!

 なんだ、この異様な雰囲気。

 階段に足を踏み入れた瞬間、一気に溢れ出してきた。

 最初に来たときはこんなの感じていなかったのに……!!

 クソ。ここまできたら、突き進んでやるよ。

 そうして一歩、また一歩と階段を降りていく。



 やがて、ドラゴンの死体が見えてきた。

 前回見たときとはあまり姿形は変わっていない。

 だけど、なぜだろうか。

 前回よりも、こいつに向ける感情が少しだけ違う。

 前はただ恐怖や畏怖を抱いていたのが、なぜか今は悲壮感のようなものを感じる。

 無性に、胸が締め付けられる。

 ──こいつの血が入っているからだろうか。

 ……。

 

 近づいて見ることにしよう。

 実際に触ってもみたいし。

 俺は、こいつに──


「アルディオス=エストリア!!!」


 うわぁああああ?!!!

 何?!!

 轟音をたて、天井に穴が空いた。

 そしてそこから一つの影が降ってきた。


「ラグナード……?!なぜここが!!」


 まずい、コソコソしていたのがバレたか。

 仕方ない、ずらかるしかないか。


「こちらのセリフだ。なぜ貴様がここに入れる?」

「なぜ、とは?」

「地下(ここ)に続く階段には特殊な結界がかけられていたはずだ。それをどうやって破った?」

「どうやってって……どうするも何も結界なんてなかった」

「なんだと……?」


 結界?

 いや、確かになかったよな、うんうん。

 俺は間違ってない。

 そっちの不備です、俺は悪くない。


「だが……だとしても勝手な行動をする貴様を放ってはいけない。ヴァルディス様に変わって吾輩が処理する」


 それは、うん。

 ここ立ち入り禁止の場所だしね。

 それは俺が悪いわ。

 って、ヴァルディス様に代わって……ってことは、こいつの独断か。

 なら話がわかりやすく見えてきたな。

 ここから切り抜けて、全ての責任をこいつに押し付ける!!


「水球!火球!」


 水蒸気を作って視界を遮る。

 俺の常套手段だ。


「甘いわ」


 ブオン。

 ラグナードが手に持つハンマーで軽く一振りすると、一気に水蒸気の煙幕が吹き飛ばされた。

 嘘だろ?!!

 まずい!!

 ハンマーが目の前に──!!

 

「フン!!」

「グァ……アッ!」


 痛ってぇ!!

 思いっきりハンマーで殴りやがって……。

 そのまま壁にめり込んで前も後ろも痛ぇし。

 魔力循環がなきゃ死んでた。絶対に。

 ……なんか俺、いっつも吹き飛ばされてんな。

 でも簡単に折れる俺じゃねぇぞ。


「……っ、いってぇ……!」


 壁から身体を引き剥がし、なんとか立ち上がる。

 正面からじゃ無理だ。

 こいつ、ハンマーを軽く振っただけだぞ。

 まともにやり合ったら、あと何発も耐えられない。

 なら、逃げ切ることだけに全力を注ぐ!!


「土壁!!」

「む」


 ラグナードの目の前に土壁を三つ生成する。


「こんなもの……」


 まぁ、すぐに破壊するだろう。

 だが──


「初級風属性魔法『突風』!」

「むぅ?!」


 ハンマーを振り切った隙を狙い、突風で加速させることで瞬時にラグナードの懐に飛び込む!!

 そして!!!


「中級水属性魔法『水槍』!!」


 水でできた槍を発現し──

 狙うのは、ラグナードの足元!!


「?!」


 土埃と破片が舞い、ラグナードの足元が陥没した。

 攻撃する気なんて最初からない。

 逃げ切るためなら格好なんてつけてられるか!!


 体勢が崩れたラグナードを横目に、風属性魔法で加速しながら全速力で階段に向かう。

 よし、あと少しだ。


 ドクン。


 ……?

 なんだ?

 今、“体”が鼓動をしたような──


「何を突っ立っておる、間抜けめ!」


 !!しまった!!

 クソッ、もうダメだ──


「面白そうな音がしたから見にきたがァ……てめェ、少しおいたが過ぎねェか?」

「万技……!」

「エッ、エエッ、エルシオン?!!!」

「驚きすぎだろうがァ」


 彼は、あの重いハンマーを片手で軽々と止めている。

 本当に、なんでここに?!!

 てか、なんで俺の肩を持つの?!!


「貴様……何をしているのかわかっているのか!」

「こッちのセリフだァ剛砕。独断でこんなことしやがッて」

「なんだと?貴様は立ち入り禁止の地下に入り込むこの小僧の勝手を許すというのか?」

「黙れ。ヴァルディス様がお怒りだ」

「ッ?!」


 カツン、カツン。

 そう音を立てて階段から降りてきたのは、ヴァルディスとゼルヴァスだった。

 

「ラグナード。一応、言い訳を聞きましょうか」

「!!ヴァルディス……様っ!!どうかお慈悲を……!」

「言い訳を聞く、と言っているのですよ。……まぁアルディオス=エストリアが地下室へ侵入、それを止めようと思って地下室の真上の地面を壊してそのまま戦闘になった、というところでしょうか」


 一気に部屋の空気が冷える。

 俺の見立てではヴァルディス自体に戦闘能力はあまり無いと思っていたのだが……


「騒音で、集中できませんでした。あなたは私の、研究を邪魔したのですよ」


 ……そんなことは、全くなさそうだ。

 エルシオンとゼルヴァスまで、緊張で顔が強張っている。


「それと、アルディオス=エストリア」

「……!あ、あぁ……」

「勝手な行動はしないでください……と言いたいところですが、発想は素晴らしい。龍族の血を注入した後にあの死体と対面させるとどうなるのか……考えもしませんでした。実に良い、最高です」


 そのままずっとブツブツとなんか言ってる……怖。

 なんか勘違いもされたし。

 まあ俺としてもその方が都合がいいから別に構わないが。


「対面した感想はまた後日伺います。あなたは自室に戻っていてください」

「えっ、あぁ……あんたはどうするんだ」

「フフ」


 軽く笑って、ラグナードに向き直した。

 こいつ怖すぎるだろ。

 これ以上一緒の空間にいたくないし……早く戻ろう。

 じゃあ三人の部下さんたちは、頑張ってくれ。









 翌日。

 ヴァルディスが昨日のことについて聞きに来た。


「まずは対面した感想を聞く前に、結界はどうやって破ったんですか?」

「結界なんてなかったぞ。簡単に入ることができた」


 本当だ。

 ガチで本当のこと。

 隠してる訳とかじゃなくて。

 そんな「昨日チェックしたが異常はなかったはずだ」みたいな目で見られても困るんだって。


「やはりこれも血の影響……わかりました。では、あの死体と対面したときはどうでしたか?」

「変な感じだった。悲壮感を感じるような。別に大した変化では無い」

「なるほど感じ方が異なると……他には?」

「鼓動をしたような?」

「鼓動?それは?」


 そしてヴァルディスに体の鼓動のことを話した。

 確かに心臓ではなく、体全体が鼓動したのだ、と。


「興味深い現象ですね。適応率が上がっているのか……?いや……これは……あ、もう大丈夫です。ありがとうございました」


 またブツブツ何かを呟きながら、そのままどっかへ行った。

 ……よし。

 俺もウダウダしてられない。

 エルシオンに昨日の礼をいって、訓練して、また脱走の計画を練る。






「エルシオン、昨日は助かった」

「あ゛?あァ……ラグナードのことか。気にすんじャねェ。それより今日は、俺様からも攻撃する」

「え」


 これは。

 思わぬ幸運。

 どんな心情の変化か知らないが、まさか訓練とはいえエルシオンと戦えるなんて。


「昨日の戦闘を見ていたが、てめェはよく頭が切れる」

「……褒めるなんて、珍しいな」

「うるせェ、早くやるぞ」

「あぁ」



 

 そして、魔力が枯渇する寸前まで訓練をしたのだった。





「今日は一割も出してねェからな。明日は二割にする」

「えぇ……」


 まあ結果はそりゃボコボコにされた。

 途中途中反撃することはできたが、基本的には拳でめったうちにされていた。

 まぁ、そりゃああのハンマーを簡単に止めることができたんだ、弱いわけはないもんなぁ……。


 それはそれとして。

 脱走の方だが、もしかしたら結界を突破できるかもしれない。

 地下への結界に対する反応を見ていると、もしかしたら俺だけが結界をすり抜けることができるかもしれないと結論付けた。

 よし、早速やってみよう。









 ダメでした。

 普通に額に思いっきり見えない壁みたいなのにぶつかって痛かったです。

 地下のときが特別なだけでした……。

 脱走成功はまだまだ遠そうだ。


 脱走が成功したらまず何しようか。

 研究所の犬の餌みたいな飯にも飽きたし、美味しいものが食べたいな。

 そうだな、風車煮込みが良い。

 あれはたまらなく美味かったからなぁ。戻ってきたらたらふく食ってやる。

 あとあの母さんが作った塩で味付けしただけの肉も、意外と恋しかったり。

 あれが恋しく感じるなんて、転生したばっかのときじゃ考えられなかったけどね。


 ……。

 はぁ。

 家族が、恋しい。

 どうしようもなく、寂しい。

 内面をどれだけ取り繕っても。

 魔法の技術がどれだけ上達しても。

 いくら精神年齢が高かったとしても。

 龍族の血を取り込んだとしても。

 俺はただ、家族が大好きな七歳児にすぎないのだ。


 ……帰りたいなぁ……。


 ……いや、感傷的になっても仕方がない。

 できることをやっていかないと、来るはずのチャンスも来ない。

 前向きに頑張っていこう。










「ん?あれって……」


 自室に戻ろうと一階の廊下を歩いていると、見覚えのある仮面とハンマーが見えた。

 ラグナードだ。

 ……大丈夫かな。

 昨日俺が自室に戻った後何があったか知らないんだよな。


「……」


 こ、怖い。

 なんか、昨日よりも怖くなってる。

 なんというか、圧がすごい。

 押しつぶされそう。


「……アルディオス=エストリア」

「え、あ、ひゃい!!」


 おわ。

 声が裏返ってしまった。

 急に声をかけるなよびっくりするなぁ。


「貴様は、自分が正しいと思ってやったことが間違っていて怒られたことはあるか」


 ……昨日のこと、気にしてるんだろうか。

 そしたらもしかして、俺への復讐?!

 まずい、逃げないと。


「吾輩はヴァルディス様が全てなのだ。なのに……」


 お?

 意外としんみりとした話が始まりそうだぞ?

 聞いてやるか、せっかくだし。


「吾輩の誤った価値観でヴァルディス様の感情を推しはかり、ヴァルディス様の顔に泥を塗ってしまった」

「……でも、それが間違いだなんて、言えない」


 俺だって前世で、良かれと思って勝手な行動をして怒られたことはよくある。

 主に学生の頃だが。

 でも、後になって間違いだと気づけたのなら上出来だ、と思うがな。


「人なんだから誰でも間違いはある。後の祭りだってなんだっていい、後悔できるなら立派なことじゃねぇか」

「吾輩達は、ヴァルディス様に造られた存在だから人とは呼べない」

「え゛」


 うっそ。

 まじかよ。

 なんか偉そうに言った俺が恥ずかしいよ。

 そういうのは先に言えよ、馬鹿野郎。


「でも、少なくとも感情はあるだろ。感情があるなら、心がある。なら人じゃなかろうがなんだろうが関係ねぇよ」

「……」

「後悔したなら、反省して次に進めればいいさ。どうせ一生ヴァルディスにこき使われ続けるんだろ?」

「……!そうか……そうだよな。吾輩は何をしているのだろうか、七歳児にこんなこと言ってな。感謝する、アルディオス=エストリア」

「あぁ、頑張れよ」


 そう言ってラグナードと別れた。

 なーんか敵に塩を送っちゃった気がするなぁ……。

 まぁ、いいか。

 敵も敵で、大変なんだし。

 でも造られた存在、かぁ……。

 ヴァルディスの技術力が怖いわ。

 感情まで作り出せるとか……。

 俺、本当に脱走できるのかなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。