80.フロストドラゴンのステーキ
「ふっふっふっ、良い物を貰ったのう! あの布地はいくらになるか楽しみじゃ!」
キャンピングカーに戻った私たちはお茶を飲みながら依頼で貰った布地の事を話し合っていた。
「遠くに行けば行くほど価値が高くなるって夢がありますよね。どれだけ、お金を稼げるのか自分たち次第っていうところがドキドキします」
「まさに、私たちに打ってつけのお金稼ぎだね。でも、商売が上手く出来るのかが不安だけど」
たくさんの物を早く届けられる。それはサリサとティナがいるからこそ、出来る芸当だ。
「この町は布地が有名らしいから、他で布地を買っておくのもいいかもね」
「なるほど。売る物を増やすっていうことか。それなら、もっと稼げるかもしれないのじゃ!」
「売る場所も大切ですよ。どこで売るかで値段が違いますから」
布地を売るのに考えることが多い。考えることは大切だけど、それよりももっと重要なことがある。
「そろそろ、夕食の時間だね。じゃあ、フロストドラゴンの肉を食べようか」
「来たな!? どれだけ美味しいのか気になるのう!」
「それに、どんな能力が手に入るかも気になりますね」
ようやく手に入れたフロストドラゴンの肉。極上の美味しさに加え、ドラゴン種の能力が貰える。それを思うと、とてもワクワクした。
すでにステーキとソース以外は用意してある。だから、あとは焼いて、ソースを作るだけだ。
「じゃあ、作るよ」
サリサはアイテムボックスからフロストドラゴンの大きな肉の塊を取り出し、まな板の上へどんと置いた。
「今日は三人分だけ切り分けよう」
包丁をゆっくりと入れる。
肉は見た目以上にきめ細かく、刃が驚くほど滑らかに入っていく。赤身の中には美しい霜が均等に入り、切り口は宝石のように艶やかだった。
「わぁ……すごく綺麗です」
「見ているだけで腹が減ってくるのう」
三枚分を厚めに切り分けると、軽く塩と胡椒を振って下味を付ける。少しだけ室温に置いて肉の温度を均一にし、それから表面の水分を丁寧に拭き取った。
「高級なお肉だからね。焼き加減を失敗したくないし」
「メルなら大丈夫じゃ!」
サリサの期待に苦笑しながら、私はフライパンを火にかける。じっくりと熱し、十分に温まったところで油を薄く引く。そこへステーキをそっと置いた。
――ジュゥゥゥッ。
心地良い音がキッチンにいっぱいに響き、香ばしい香りが一気に広がっていく。
「いい匂いです!」
ティナがお腹を押さえながら声を漏らす。私は焦らず火加減を調整しながら焼き色を確認する。高級な肉だからこそ、焼きすぎは禁物だ。
表面にこんがりと美しい焼き色が付き始めると、静かに裏返し、反対側も同じように焼き上げる。
「うん、いい感じ」
焼き終えたステーキはすぐには切らず、網の上へ移して休ませる。肉汁を落ち着かせることで、中までしっとりと仕上がるのだ。
「すぐ食べられないんですか?」
「もう少しだけ我慢。これをするともっと美味しくなるんだよ」
「美味しくなるなら待つのじゃ!」
その間に、肉を焼いたフライパンへバターを落とす。じゅわりと溶けたところへ、用意していた調味料を加え、木べらで旨味をこそげ落としながら手早く混ぜ合わせる。
香り豊かなソースがあっという間に出来上がった。
「これで完成」
皿にあらかじめ用意していた色鮮やかなサラダを盛り付け、その隣へ焼き上がったフロストドラゴンのステーキを乗せる。
最後に、熱々のソースを上からたっぷりとかける。じゅわっと音を立てながらソースが肉に絡み、香ばしい匂いがさらに際立った。
「……できたよ。フロストドラゴンのステーキ」
「おおおぉぉぉっ!」
「すごく美味しそうです!」
二人の目が輝き、期待に満ちた笑顔がパッと咲いた。ライスを皿に盛り、ナイフとフォークを持ってテーブルに移動して、席に着く。
「じゃあ、食べようか。いただきます」
「「いただきます!」」
私はナイフをゆっくりと入れる。すると、表面は香ばしく焼き上がっているのに、中はほんのりと桜色を残した絶妙な焼き加減だった。切り口からは透明な肉汁がじんわりと溢れ出し、湯気と共に濃厚な香りが立ち昇る。
「すごい……」
思わず呟きながら、一口大に切り分けて口へ運ぶ。
――その瞬間だった。
「……っ!」
肉を噛んだ途端、凝縮された旨味が一気に口いっぱいへ広がる。柔らかな肉は歯を立てるだけでほろりとほどけ、噛むたびに甘い脂と濃厚な肉汁が次々と溢れ出してきた。
芳醇な香りと特製ソースのコクが絶妙に絡み合い、思わず全身が震える。
「~~~~っ!」
美味しすぎる。今まで食べてきたどんな肉よりも圧倒的だった。体の芯から幸福感が湧き上がり、自然と頬が緩んでしまう。
「こ、これは……!」
隣ではサリサが肩を震わせながら目を見開いていた。
「う、うまぁぁぁぁぁぁいっ! なんじゃこの肉は! 噛めば噛むほど旨味が溢れてくるのじゃ!」
ティナも目を潤ませながら何度も頷く。
「こんなに美味しいお肉、生まれて初めて食べました! 幸せです……!」
二人とも夢中になってナイフとフォークを動かしていく。私も負けじと二口、三口と口へ運んだ。肉だけでも十分に美味しい。そこへソースを絡めれば、さらに旨味が何倍にも膨らむ。
サラダの爽やかな味わいが口の中を整え、またすぐにステーキへと手が伸びる。
「ライスとも最高に合うね」
「止まらぬのじゃ!」
「本当ですね!」
三人とも自然と笑みがこぼれ、会話よりも食べる手の方が忙しくなっていた。気付けば皿の上にあった大きなステーキはどんどん小さくなり、最後の一切れになっていた。
それすら惜しむようにゆっくりと味わい、口へ運ぶ。
「……ごちそうさまでした」
「ごちそうさまなのじゃ!」
「ごちそうさまでした!」
三人揃って手を合わせる。皿の上には一切れの肉も残っていない。
あれほど分厚かったフロストドラゴンのステーキは、あまりの美味しさに夢中で食べ進めてしまい、気付けばあっという間になくなっていた。
しばらく、ボーッとして余韻に浸る。だけど、すぐに思い出した。
「そうだ! どんな能力が貰えたんだろう!」
肝心の能力を見てみよう!
新連載一つ、投稿させていただきました。
「 魔法で遊んでいた世間知らずな田舎者、都会に出たら怪物扱いされました」
もし、興味が沸きましたら、ご覧くださると嬉しいです!
リンクは広告の下に置いておきましたので、ご活用くださいませ。
よろしくお願いします!




