20.ニギルベアーの特殊個体
森の中を歩きながら、危険察知のスキルを使う。すると、森の気配が良く分かり、どっちの方向にどんな強さの魔物がいるか分かる。
その気配を探りながら森の中を進んでいった。その時、鼻を掠める焦げた匂いがした。これは、一体?
「メル、どうしたのじゃ?」
「なんか、焦げた匂いがして……」
「えっ、火事とかでしょうか?」
「いや、もう消火されてある匂いだよ。あっちから匂う」
指を差しが方向に進んでいく。すると、どんどん匂いが強くなり、近づいているのが分かる。
そうして、森の中を進むと――木々が倒れ、その木々が燃えていた様子が広がっていた。
「これは、酷い……。何かの魔物が暴れていたみたい」
「ふむ。かなり強い魔物ということじゃな」
「も、もしかして……特殊個体でしょうか?」
それはあり得る話だ。
「じゃあ、特殊個体は木々をなぎ倒す力があり、火を使うってことだね」
「確か、普通のニギルベアーには、火の力はなかったはずじゃな」
「火を使う……。もし、サリサが燃やされたら!」
「縁起でもないことを言うでない! そんなの、わらわの力で吹き飛ばしてくれる!」
ティナは怯えるが、サリサは戦う気満々だ。本当は心配で堪らないけれど、ここはサリサを信じることにしよう。
「じゃあ、ここを荒らした後を追っていけばいいね。えーっと、ここにいた魔物の匂いは……」
くんくん、と匂いを嗅ぐと、獣の匂いが残っていた。その匂いを頼りに周囲の匂いを嗅ぐ。すると、その匂いを見つけた。
「あっちにいるみたい」
「よし、行くのじゃ!」
「ほ、本当に行くんですか? だ、大丈夫ですか?」
サリサが率先して歩き出すと、おどおどとしながらティナが後ろをついていく。
匂いがした方向に歩いて行くと、嫌な気配が強くなっているのが分かった。とても強い気配だ。やはり、これはニギルベアーの特殊個体で間違いなさそうだ。
進むごとに空気が重くなっていく。それでも、先へと進むと――赤い毛皮が見えた。三メートルを超える背丈に、鋭い爪と牙。凶悪な魔物がそこにいた。
「ふっはっはっ! 見つけたのじゃ!」
すると、サリサが警戒もなしに飛び込んでいった。
「あわわっ! サリサ、危ないですよ!」
「きっと、サリサなら大丈夫だよ」
「は、はい……」
怯えるティナを宥めて、サリサを信じる。サリサは特殊個体の前に出ると、腕組をして不敵に笑う。
「なるほど、それなりには出来そうじゃな。じゃが、わらわの方が上じゃのう!」
サリサが口元を吊り上げた、その瞬間。
「グルルルッ……ガァァッ!!」
咆哮が森を震わせた。次の刹那――ボッ、と空気が爆ぜる。
特殊個体の周囲に、無数の火球が生まれた。揺らめくどころではない。圧縮された炎が、獲物を狙う矢のように収束していく。
そして、放たれた。轟音。
一直線に、サリサへと殺到する炎の弾幕。地面が焼け、空気が歪む。
「ふん……!」
サリサは一歩も引かない。拳を握る。空気が軋む。
「そんなちょろ火、効かんわ!」
踏み込み――ドンッ!!
拳が振り抜かれた瞬間、衝撃が空気を叩き潰した。見えない壁が生まれたかのように、迫り来る火球が――弾け飛ぶ。
ボボボボッ!!
爆ぜ、霧散し、炎が一瞬でかき消えた。
「ほ、本当に拳で……火を……!?」
「む、無理です無理です! 怖くて見てられませんー!」
だが、炎は止まらない。次々と、連続して放たれる火球。
そのすべてをサリサは拳で、打ち砕く。殴るたびに空気が爆ぜ、炎が裂ける。まるで嵐の中に立つ絶対の壁。流石は魔王候補だけだったことはある。
「グガァァァッ!!」
特殊個体は苛立ちの咆哮を上げた。炎が通じないと悟った特殊個体は、巨腕を振り上げた。筋肉が軋み、骨が鳴る。
振り下ろし――ビシィィィッ!!
空間そのものを裂くような一撃。爪の軌跡から、目に見える衝撃が飛ぶ。大地を削り、木々を薙ぎ倒しながら、一直線にサリサへ迫る斬撃波。
「ほほう……! そんな芸当も出来るのか!」
迫る破壊の奔流を前にして、サリサは笑った。
「じゃが――」
一歩、踏み込む。地面が砕けた。
「よわよわの威力では、わらわには届かんぞ!!」
脚がしなる。そして、振り上げた。
ドォォォンッ!!
蹴り上げた瞬間、空気が爆発した。衝撃波と正面から激突し――次の瞬間、敵の斬撃は粉々に砕け散った。
余波が森を吹き飛ばす。木々が揺れ、砂塵が舞い上がる。その中心でサリサは、微動だにせず立っていた。
「ふん、どうじゃ! わらわは強かろう!」
「グルゥ……グガァァッ!」
全て防ぎきって見せたサリサを見て、特殊個体は一番の雄たけびを上げた。すると、魔力の気配が高まった。
次の瞬間――特殊個体の姿が消えた。そして、一瞬でサリサの背後を取る。
「グラァァッ!」
巨腕がサリサを襲う。
「甘いわ!」
だが、その巨腕を掴むと、力を入れて引っ張り――巨体が中に浮く。
「うりゃーっ!」
宙に浮いた巨体は力いっぱいに地面に叩きつけられ、その衝撃で地面が割れた。辺りに凄まじい衝撃が広がり、砂埃が舞った。
そして、訪れる静寂。私たちは木々の後ろから顔を覗かせた。
「ど、どうなったんだろう……」
「サリサは大丈夫ですか?」
砂埃が消えると、そこにはサリサが威風堂々と立っていた。そして、こちらを向き――ピースサインをする。
「どうじゃ! やっつけてやったぞ!」
サリサの足元には白目を向いて、絶命している特殊個体がいた。




