1.捨てられて嬉しい!
強い力で突き飛ばされ、道に倒れ込んだ。頭を強く打ち、知らない記憶が頭に流れ込んでくる。……いや、知っている。これは、私の前世の記憶。
ということは、私は異世界転生したってこと?
記憶を整理しようとすると、怒声が響く。
「死んだ姉の子だから、居候させてやったのに、使えないゴミスキル持ちになって! これじゃあ、全く使えない子じゃないか!」
「スキルに期待して今まで育ててやったのに、そのスキルが使い物にならないなんてな。メルはもういらないな!」
「さっさと出ておゆき! もう、あんたに食わせる飯はないよ!」
「もう二度とウチには入れさせんからな!」
混乱する中で罵倒され、強く扉を閉じられた。そして、入れないように鍵をかけられた。
ようやく、静かになった。私は立ち上がり、状況を整理する。
十歳になったら行う、神の祝福の儀式。それは、特有のスキルが貰える儀式で、私は今日それを受けてきた。
それで得られたスキルは『ネットショッピング』。その意味が分からず、スキルの使い方も分からず、私はスキルを発動出来なかった。
そのせいで、私を養ってくれた親戚の義両親たちが激怒。使えない子になり下がった私はこうして捨てられてしまった。
普通なら狼狽するんだけど、ついさっきの衝撃で私は日本で社畜として生きてきた前世の記憶が蘇った。そのお陰で冷静に状況を整理することが出来た。
「まさか、捨てられるとは思わなかった……。まぁ、親戚の家に居候する子供というか、ほとんどが召使いだったんだけどね」
私の本当の両親は五歳の頃に死んだ。それから、母親の妹の家で居候していたのだが……召使いのような生活だった。
誰よりも早く起きて、朝食の用意をし、掃除や洗濯を押し付けられた。休む暇ものなく、他の家の掃除や洗濯をやらされて、小銭稼ぎをやらされる。もちろん、働いたお金は私には入ってこなかった。
そうして、誰よりも長く働き、誰よりも遅く寝る。そんな、奴隷のような生活だった。
それは、きっと私が獣人だからという差別も含まれていると思う。猫の耳にふさふさなしっぽ。これがついているから、人間よりも体が強いから、奴隷のように働かせられたんだと思う。
だから、その生活からおさらば出来たのが嬉しい。もう、私は良いように使われる奴隷じゃない。自分の意思で生きていける自由を手に入れた。
「それに、今ならスキルの使い方が分かる!」
そう、前世の記憶が戻ってきて、スキルの意味が分かった。私は人目のない路地に入ると、深呼吸をした。
「ネットショッピング、出てきて」
そういうと、私の目の前に画面が出てきた。そこには色んな項目があり、ズラリと商品が並ぶ。前世で見た、ネットショッピングそのものだ。
「ほとんど一緒だね。注文したらどうなるんだろう?」
試しに500mlの水をタップして、すぐに買うボタンを押す。すると、別に画面が出てきた。『残金が不足しています』と。
「お金ってどうやって入れればいいんだろう?」
首を傾げていると、また画面が出てきた。『お金を画面に近づけてください』と。それで、何かが起こるらしい。
「そういえば、昨日働いたお金をまだ渡していなかったな……」
スキルの事で頭がいっぱいでお金の徴収を忘れていたみたいだ。ポケットを漁ると、硬貨が出てくる。全部で1050コルトだ。
それを画面に近づかせると、シュンッと硬貨が消えた。そして、アカウントの項目が赤く光る。その項目をタップすると、私の情報が色々と載っており、そこに残金が表示されていた。
「あっ、1050円に変わってる! へぇ、こうやって入金をするんだ」
どうやら、1コルト=1円らしい。これならば、色々と購入できそうだ。
「これが私の全財産。どうやって、増やしていくか……」
これからは自分の力で生きていかなければならない。だから、初動が肝心だ。
一番に考えられるのは、ネットショッピングで買った商品をこの世界で売るということ。希少な物を売れば、きっと高値で売れてくれる。
「この世界で高い物って言えば……砂糖かな」
砂糖は高いもので、庶民では口にするのが難しい。だったら、その砂糖を売れば高い利益が得られるんじゃないだろうか?
試しに砂糖を検索すると、いつも使っていた砂糖が売っていた。
「上白糖は1kgで248円か……。だったら、これを四つ買おう」
画面を操作して、四つ分を購入した。すると、目の前に光りが現れて収束する。その後に見慣れた上白糖が入った袋が四つ置かれていた。
「本当に出てきた……。なるほど、こんな風に手に入れられるんだ」
これで売るものが手に入った。上白糖を持つと、私はお店を目指して駆け出していった。
◇
「らっしゃい! 今日はどういう商品をお求めで?」
「今日は商品を売りに来たよ!」
「へぇ、どんな商品だい?」
お店に行くと、店番をしていたおっちゃんが迎え入れてくれた。すぐさま、上白糖をカウンターに置く。
「……これはなんだい?」
「砂糖だよ」
「さ、さ、さ、砂糖!? そ、それは本当かい!? 確認してもいいかい!?」
「うん、大丈夫!」
おっちゃんは驚きながら、袋の角を少しハサミで切った。中に入っていた砂糖を少しだけカウンターに出すと、手に付けて舐める。
「んっ! 甘い! 本当に砂糖だ!」
「ほら、言ったでしょう?」
「ぜひ、ウチで売ってくれ! 高く買い取るぞ!」
「いくらになるの?」
そう聞くと、おっちゃんは腕組をして悩んだ。
「一袋、1万コルトでどうだ?」
「じゃあ、別の所で売るね」
「ま、待った! じゃ、じゃあ……3万コルトでどうだ!」
「よし、売った!」
ふふふ、断ろうとして良かった。まさか、ここまで値段が上がるとは。
おっちゃんは急いでお金を用意して、渡してくれた。貰った硬貨は銀貨。ちなみにこの国、いや大陸の硬貨の価値はこんな感じだ。
1コルト=小銅貨
10コルト=銅貨
100コルト=大銅貨
1000コルト=小銀貨
1万コルト=銀貨
10万コルト=大銀貨
100万コルト=小金貨
1000万コルト=金貨
「しかし、どうしてこんな物があったんだ? どこから、仕入れてきた」
「それは秘密。あっ、盗んだものじゃないから安心して」
「……そうか。出来れば、もう少し欲しいんだが、手に入れられるか?」
「もちろん、大丈夫だよ」
「じゃあ、明日持ってきてくれ」
「明日? うん、分かった」
どうして、明日なのか分からないけれど、そうしたほうが良さそうだ。その約束をすると私は外に出た。
992コルトで砂糖を買ったら、12万コルトになって戻ってきた。ネットショッピング、凄い! これで路頭に迷うことはない!
捨てられたけれど、なんとか生きていけそう!




