裏話〜アニエスの苦労〜
今週休んでしまった分…、短編ですが置いておきます…。
私の名前はアニエス・テルーサ。
この人間の国の第一王子、リュシアン殿下の家庭教師をしている。
(―――さて、どうしたものかしら。)
この王子は、正直に言って救いようのないバカである。
本当に、全く使い物にならない。
私は一応、将来の『王』としての体裁を整えるため、必要最低限の教養だけは叩き込もうと手を尽くしていた。
王子としての振る舞いだって教えた。
言葉遣いや礼節だって当然、教えた。
だが、こちらの予想を遥かに下回る理解力のなさなのだ。
それだけではない。
私の美貌のせいではあるのだろうが、授業中も私の体を舐め回すような卑しい視線を向けてくるばかりで、まともに集中すらしていない。
第一王子はまだ十四歳。
学院の中等部一年生だ。
本来なら飲み込みが早い時期なはず…。
せめて最低限の教養だけでも身につけてもらわねば、表舞台に立たせることすらできず私が困る。
現国王は、無駄に教養が必要以上に身についてしまっているせいで、完全に我が物として傀儡化することはできなかった。
だからこそ、今度こそ私のためだけに動く「完全な傀儡」を作り上げようと、自ら第一王子の家庭教師を申し出たというのに…。
「国王も王妃も比較的優秀だというのに…、どうして殿下だけがあぁもバカなのでしょう。
物覚えが悪いにもほどがあるわ。」
ため息混じりに呟く。
ちなみに、この国にはもう一人王子がいる。
第二王子のノクス殿下。
彼は今、十歳くらいになった頃だろうか。
ノクス殿下は側妃から生まれた子供だ。
そのため、正妃の血を引き、第一王子である自分こそが次期国王になると、リュシアン殿下は微塵も疑っていない。
そしてそれは、私にとっても好都合だった。
何より第二王子は病弱ということで、ずっと側妃の元で引きこもるように暮らしており、王宮内で見かけることは全くない。
そんな使えなさそうな第二王子を擁立するよりは、どれだけ物覚えが悪く、どれだけ性格が歪んでいようとも、私の言うことなら鼻の下を伸ばして何でも聞く第一王子の方が、傀儡として扱いやすい。
そして仮に、第二王子側が何か不穏な動きを見せるようであれば、こちらはいつだって暗殺できる体制を整えている。
問題はない。
逆に、私の所有物である第一王子を誰かが狙おうとしたところで、そちらの暗殺対策も万全に施してある。どちらにせよ、私の計画に問題など生じるはずがないのだ。
そう踏んでいた。
「けれど…あぁ、もう少し王子としての最低限の振る舞いというものはして欲しいものね。」
今のリュシアンには、人の上に立つ者としての品格が決定的に欠けている。
これでは、教育係である私の立場がないではないか。
「あぁ、こんな国…さっさと私たちの国の餌食となれば良いのに。」
アニエスは夜空に浮かぶ月を見上げ、その妖艶な瞳を細めながら、酷く物騒な言葉を甘く呟くのだった。
実はいました第二王子・ノクス。
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