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「愛や多様性の犠牲者が誰になるか分かってんのか!」悪役顔の公爵令嬢イザベル、綺麗事で国を壊すバカどもを現実でボコす内政改革  作者: 猫目こね
アステリア王立貴族学院編(イザベル十二歳。初等部一年生)

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75話 リュシアン殿下との茶会…? 2




彼女(ティア)とは、とても仲が良かったようですね。

なぜ、さっさと彼女と…ゴホン。

なぜ、彼女と婚約しなかったのですか?」



私は紅茶のカップを傾けながら、リュシアン殿下にティアとの関係について探りを入れてみた。




「別に。理由などない。」




ふいっと、ぶっきらぼうに視線を逸らす殿下。

その不機嫌な態度に、私の頭の血管が静かに『ミチミチィ……』と音を立てて千切れかけた。



「…殿下。

会話を続ける気はあります?ないですよね?」



私は怒りを通り越して完全に呆れ果てた。



「年下の令嬢相手に、会話のリードすら出来ないなんて…。

これだから、殿下のアニエス様への恋は、いつまで経っても実りませんのよ。」




「うるさいっ!お前に何が分かるというのだ!」



アニエスの名前を出した途端、殿下は急に激昂してガタァン! とテーブルを叩いた。



「何も分からないから、こうして質問しているのではないですか。

私はこれでも、あなたと『対話』をしようと試みているのです。

そうやって何かあればすぐに怒り、大声を出すだけで、全てが済むと思っていらっしゃるのですか?」




「な、何だと…!?」




「あなたは自分に進言してくる臣下に対しても、そうやって怒って突き放すのですか?

そのような態度を続けていて、いずれ国王になるというあなたは、この国を『守る』ことができるとお思いですか?

仮に突き放すにしたって、理由を説明しなければいけません。

そうやって怒っているだけでは、不要な反発心を相手に与えるだけですわ。」




「っ…黙れ!!」




リュシアン殿下は、完全に図星を突かれたような顔をした。




「現在、国王陛下が革新派の旗を振っていらっしゃるという事実を抜きにしても、殿下は自ら革新派に属されていますよね?

革新派を謳うのであれば、それこそ『多様性』や『異種族との共生』を重視していらっしゃるはずです。

ですが、自分が気に食わないだけですぐに激昂するような狭い器の人間が、本当にそれらを叶えられると、本気で思っていらっしゃいますの?」




空気が、凍りついたように静まり返る。

リュシアン殿下は屈辱と焦燥で顔を真っ赤に染め、私を睨みつけながら、ついに幼児退行したかのような怒鳴り声をあげた。




「じゃあお前は何か?!

怒らずに、何でもかんでも、全てを受け入れろって言うのか?!

お前はヴァァァアカ(バカ)だな!

そもそも、私はこの国の第一王子、未来の国王なんだぞ!

私の考えがこの国の方針になるのに、なぜ他者の意見なんて聞く必要があるんだ!」




「いいえ、殿下。

私は『全てを受け入れろ』だなんて一言も言っておりませんわ。」




私はやれやれと頭を振ってみせた。




「『全て』受け入れるか、それとも受け入れないかという極端な二択に分断してしまったのは、殿下ご自身です。

勝手に私の言葉を歪曲しないでいただけます?

それに、国王陛下だって宰相様や他の貴族の皆様からの声を聞かれているではありませんか。

殿下は、陛下が一人だけで政治をなさっているとお思いなのですか?」




スッと冷徹な眼光を向け、さらに言葉を重ねる。




「物事というものは、『するか、しないか』『0か、100か』といった極端な二択では解決できないことがほとんどなのです。

ですが、世の中には殿下のように、極端にしか考えられない方が多くいるのも事実。

…ただ、そういった白黒つけたがる方々は、社会においてとても生きにくいでしょうね。

殿下はこれまで『王子』として蝶よ花よと育てられてきたから、その性格のままでも生きてこられただけですわ。」




私は哀れみのこもった目を殿下に向けた。




「貴様ァァア!どこまで私を愚弄するのだ!このブゥゥウス!

お前は私の婚約者(奴隷)なんだから、もっと私を敬って、黙って平伏していれば良いんだ!!」




中身のない暴論と、王子とも思えない容赦のない暴言が飛んでくる。

私はその言葉を冷ややかにスルーしながら、ふと、思考が別の方向へと逸れた。






(…いや、待てよ。

確かに国王陛下の周りにいるのは革新派の貴族ばかりだし、アニエスも権力の中枢に食い込んでいる。

旧体制派から見れば、現政権は『独裁者』とも思えなくはない。

あの『虹の広場』みたいな愚策を強行して、費用はすべて各領地持ちにするなんて横暴もいいところだし。

…でも、これって本当に国王陛下自身の案なのか?)




背筋に冷たいものが走る。




(もし、あの愚策の数々が、革新派の貴族たちやアニエスからの入れ知恵だったとしたら…。

現国王は独裁者なんかじゃなくて、ただの『傀儡(かいらい)』ってことになる。

もし、そうだとしたら、革新派は一体いつから動いていたのよ…。

目の前のこのバカ王子も、将来的に扱いやすい傀儡にするために、わざとこんな風に中身をスッカラカンに育てられたのだとしたら…。)




この国の王が『傀儡』である可能性を、考えていなかったわけではない。

だが、現実味を帯びてくると、自分が傀儡国家の住民になりつつあるという事実がにわかには信じられなかった。

心のどこかで、この国の王は自分で考えて国を動かしているだろうと思い込んでいたし、信じていた。




しかし、王妃教育の家庭教師選考におけるアニエスの発言力の強さ、そして目の前のリュシアン殿下の、あえて無能に誘導されたかのようなバカっぷり。




(家庭教師がついているとは到底思えない、王子としての振る舞い…。

きっとアニエスは何も教えていないんだ…。)





点と点が一つの線で繋がっていく。





―――傀儡国家。





もしそれが事実なら、糸を引いているのはアニエス個人だけのはずがない。

彼女の背後にいる『エルフの国』が、この人間の国を裏から支配しようと動いているのだ。



自分がまさか、他国に蝕まれつつある植民地同然の国にいるなんて。

前世の歴史や知識に照らし合わせても、傀儡国家が辿る末路は悲惨の一言だ。




支配国の利益が最優先され、この国における国民の人権や自由は奪われ、不満を言えば弾圧される。

資源や富は合法的に搾取され、生活水準は底まで落ちるだろう。



それだけじゃない。

他国とのいざこざが起きれば、この国が真っ先に盾として戦場にされ、使い捨ての代理戦争に巻き込まれるリスクだってある。




そしていつか、エルフの力が衰えて政権がひっくり返る時が来れば、この国だってただでは済まない。

国内は血みどろの権力闘争と報復の嵐の戦場となる可能性が高い。




(あまりにハイリスク…!

このままコイツ(リュシアン)が国を継いだら、確実に国が滅ぶ―――!

国はいつか滅ぶものだけど、今じゃないでしょ…!

やめてよせっかく私頑張ってきたのに…!

私の超穏やかスローライフ計画が消え去る…!

う”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ーーーーー!!!!!!!)



家族や仲間を捨てて逃げるという選択肢は、今の私にはなかった。

だからこそ、リュシアン殿下をどうにかしなければいけない。


殿下だけではない。

この国を動かす権力者たちを、どうにかしていかなければならないのだ。




「…殿下。」



私は、脳内で最悪の国家滅亡シミュレーションを繰り広げていたことなど微塵も表に出さず、穏やかに、けれど冷然とリュシアン殿下に向けて話を再開した。





「ご自分の気持ちだけでなく、周りの…国民の気持ちも柔軟に取り入れてみてください。

そうして他者の声を柔軟に聞き入れることができれば、きっと『するか、しないか』といった極端な二元論で二極化することもなくなると思います。」




そこで私は一度言葉を区切り、殿下の瞳をじっと見据えた。

ずっと疑問だった、この男の歪みの根源。

それを引きずり出すために、あえて核心を突く直球を投げかける。




「そもそも、殿下はなぜ『革新派』を支持していらっしゃるのですか?

それは、他ならぬ殿下ご自身の『本当の気持ち』なのですか?」




(アニエスに良い格好をしたいから。

あるいは彼女にただ流されているだけって可能性が一番高いけれど。)




そんな私の心の声が、無言の圧力となって伝わったのだろうか。

リュシアン殿下は、まるで目に見えない弾丸を撃ち込まれたかのように、ガタッと激しい音を立てて勢いよく立ち上がった。




「…ッ、うるさい…!私に…、私に指図をするな!

もう知らん!もうお前とは話さん!!」




そう捨て台詞を残すと、殿下は私の返事を待つこともなく、背中を向けてサロンを飛び出していった。




控えていた王妃様の付き人が、気の毒そうに、そしてどこか感銘を受けたような目で私を見ていたけれど、気づかないフリをしておいた。




「…さすがにちょっと、言いすぎちゃったかな?」




静かになったサロンで、私はぽつりと呟いた。




(でも、今までまともに話す機会がなかったし、少しでも大人になって欲しかったんだよね。

まぁ、今回は一方的に説教しちゃった感じだから、今度また機会があれば、あのお子ちゃま王子の話を聞いてあげよう。)




殿下のあの様子だと、ただの我が儘というよりは、何か別の要因で思考がガチガチに凝り固まっている可能性が高い。





(あーーー。

これで親睦…深められたのだろうか…。

逆効果だった気がしなくもない…。)




私はフゥ、と小さく息を吐き出すと、誰もいなくなったテーブルでまだ温かい紅茶を静かに啜り、残ったお菓子をぱくりとつまんだ。

殿下が逃げ出してくれたおかげで、ここからは一人だけで「優雅なお茶会」を堪能できる。




(それにしても…。

お子ちゃま王子やアニエス、宰相をどうにかするだけではダメなのかもしれないわね。

この国の王でさえもダメかもってなると…。

っはー。

話が大きくなってきてしまって…もうどうしたらいいのか分からんっ!)




私はこの国のあまりに暗い未来を憂いながら、本日の王妃教育を終了するのであった。




もう少しで第二章は終わります。


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