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「愛や多様性の犠牲者が誰になるか分かってんのか!」悪役顔の公爵令嬢イザベル、綺麗事で国を壊すバカどもを現実でボコす内政改革  作者: 猫目こね
アステリア王立貴族学院編(イザベル十二歳。初等部一年生)

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73話 学院の外で友人たちとお出かけ

珍しく(?)平和な話です。



来年度に向けての準備期間があるため、学院は現在、一ヶ月の長期休暇中。

…とはいえ、その間も私は容赦なく過酷な王妃教育を受けさせられていた。



だが、そんな地獄の日々の中。

事前に「この日はお休みにいたしましょう」と、教育係のクロエ・スペンサー先生から直々に提案があり、奇跡的に丸一日の休みが取れたのだ。



(よっしゃーーー!

久しぶりの完全オフ!!何しよう!?

まずは昼までベッドでゴロゴロしたい…。)



溢れんばかりの歓喜を胸に、とりあえず貴重な一日の使い道を考えてみる。

参考までに、自室にいたリルとノアに「何かおすすめはある?」と聞いてみた。



「でしたら、メリッサと王都を散策してみたらいかがですか?」



ノアからそんな健全な提案があった。



「いいですね!

もちろん私も同行いたします!」



すかさずリルが食い気味に挙手した。




(うっ…。丸一日ベッドでゴロゴロしたい気持ちも山々だけど…。

考えてみれば私、この国の王都について何も知らないんだよなぁ。

ゆくゆく国政をどうにかしようって時に、足元の街の現状を知らないのは致命的かも…。

ううううんんんん。

これは知識を深めるための良い機会…!…そうに違いない!)




私は心の中で必死にゴロゴロ欲を捩じ伏せ、笑顔で頷いた。




「そう…ね。

気分転換にもなりそうだし、そうしましょう。

ノア、メリッサに伝えてもらえる?」



「了解です。」



「あとは…ティア。

ティア・ミストレイ。彼女も誘おうかな…。」



ここ最近、学院ないでは一緒に行動していたのだ。

せっかくの機会だし、声をかけてあげても良いかなと思った。



「…。」



途端、二人が一瞬だけピタリと黙り込んだ。



「二人とも、どうかしたの?

何か不都合でもある?」



「いえ…現段階では、まだ素性を調査しきれていない者でしたので、どうしたものかと。」



ノアが静かに言うと、リルも真剣な顔で同調する。



「私も…あまり賛成はできません…。

イザベル様の安全が第一ですから。」



(相変わらず警戒心が強すぎるというか、プロ根性が凄い…。)



「そうねぇ…まぁ、今回はただの遊びだし、いいんじゃない?

ノア、メリッサにティアも一緒に誘っておいてって伝えてちょうだい。」



「…承知しました。」




 ◆




そして迎えた、遊ぶ約束の日当日。

待ち合わせ場所である王都の噴水広場に、私が到着した瞬間。



「イザベル様っ!今日は誘ってくれてありがとうでございますっ!」



遠くから、メリッサが元気いっぱいの笑顔でこちらに駆け寄ってきた。



「こちらこそ、せっかくの休日なのに付き合わせて悪いわね。

ティアも、来てくれてありがとう。」



「いいえ!

イザベル様とこうしてご一緒できて、とっても嬉しいです!」



隣にいたティア・ミストレイも、実にかわいらしい笑顔で返答をくれた。



結局リルは、「ティアさんがいるなら私が表にいない方が話がスムーズだと思いますので、今回は私は陰ながらイザベル様のことを見守らせていただきますね」と言って身を引いてくれた。



(申し訳ない…リル…。

けど今度時間取れた時には一緒に行こうと誘ったら、喜んでくれていたし…。

今回はごめんよリル〜〜!)




「実を言うと私、公爵邸に引きこもってばかりだったから、王都の流行りのお店について全然知らないの。

今日は色々教えてもらえたら嬉しいわ。」



「もちろんです!」

「任せてください!」



二人は快く応じてくれ、さっそくメリッサが私の手を引くように歩き出した。


「まずは、こっちのお店に行きましょう!」




 ◆



一通り王都の主要な通りを歩いて見て回った。

案内役のメリッサはまだまだ元気の塊だったが、運動不足が否めない私とティアが疲れてしまったので、休みがてらお昼休憩をとることにした。



メリッサが事前に、王都内で人気のご飯屋さんを確保しておいてくれたらしく、私たちは待つ事なくそこへ入ることができた。



(メリッサ…。恋人だったなら惚れてしまうほどの計画性の良さ…。

これを笑顔で遂行できるなんてスマート過ぎる…!

恐ろしい子……!(褒めてる))



美味しい料理を堪能し、食後の紅茶が運ばれてきたところで、私たちは少し腰を落ち着けてゆっくりと話をすることにした。




「今日はいろいろ見て回れて、本当に楽しかったわ。

二人とも、案内してくれてありがとう。」



私が素直にそうお礼を言うと、二人は顔を見合わせて嬉しそうに微笑んだ。



「いえいえ!私もお二人とこうして出歩けて、すっごく楽しかったです!」



「私もです!イザベル様とご一緒できて、本当に光栄でした。」



メリッサもティアも、それぞれ弾んだ声で返してくれる。

すると、運ばれてきた食後のタルトを一口含んだティアが、「そういえば…」と何かを思い出したように口を開いた。



「幼い頃に、リュシアン殿下と一度だけ、こうして王都散策に付き合わされたことがありまして…。

あの時は、殿下に延々と連れ回されて、本当に大変だったんですよ〜!」



ティアが可笑しそうにそんな昔話を披露してくれた。

その話をふむふむと聞いていたメリッサが、生クリームのついたフォークを片手に、さも何気ない風を装って鋭い一撃をぶち込んだ。



「前からちょっと気になってたんですけど、ティアって殿下のこと好きなんですか?」



(ぶっふぉっ……!)



危うく上品に紅茶を吹き出すところだった。



(おいおいメリッサ。

さっきまでのスマートな対応どこに行ったの。

なんてド直球な質問を投げるんだ…。)



と、心の中で激しく突っ込みつつ、私は優雅に紅茶を啜る体のまま平然を装ってティアの反応を盗み見た。



「あはははは!そんなわけないじゃないですか〜!」



ティアは顔をクシャッとさせて、お腹を抱えるようにして大笑いした。

その笑顔に嘘はなさそうで、本当に心の底から「あり得ない」と言わんばかりの清々しさだった。



二人のそんな微笑ましい会話を見ながら、私は静かに喉を潤す。



(私もちょっと気になっていたことだったから、聞けて良かった。

ただ、バカ王子の婚約者候補として過ごしてきた時間が多かったから、話題が殿下ばかりになってしまうのかな。

可哀想に…、ある種の職業病みたいなものか…。)



ティアの豪快な否定に満足したのか、メリッサが自然に話題を切り替えた。



「そういえば、最近、王都も何かと物騒になってきてるんですよねー。

このお店がある中心街のあたりはまだ大丈夫ですけど、下町の方なんかは『もう夜中に女性と子供は絶対に出すな』って噂になってきてますもん。

近頃は成人男性でも、一人歩きはやめた方が身のためっぽいですよ。」



「えーっ!そんなに最近の治安って悪いの?

全然知らなかったわ…!」



ティアが驚いたように目を丸くする。

私も紅茶のカップをソーサーに戻し、メリッサに向き直った。



「前は、夜出歩いていてもそれなりに安全だったの?」



「うーーーん、私もまた聞きになっちゃうんですけど、まぁ昔から『安全』ってほどではなかったみたいですよ?

ただ、前は小競り合いの暴行や盗難が主だったのが、今は『誘拐からの人身売買』らしくて。

捕まったら最後、二度と戻ってこれないっていう悪質な組織が幅を利かせてるっぽいんです。

…って、せっかくの休みなのに、こんな物騒な話はやめましょうやめましょう!

すみませんでした、あははは〜!」




メリッサは努めて明るく振る舞いながら、自分の失言を誤魔化すように慌ててまた別の楽しい話題へと変えた。



―――人身売買、か。



クレスの集会に出ていた生徒たちが憤っていた、国の歪み。

異種族ばかりを優遇し、人間を冷遇した結果、司法だけでなく治安の根幹まで腐り始めている証拠が、こんなところにも現れている。



(…まぁ、今日のところはこれ以上考えるのは野暮かな。

ノアに任せていることもあるし、今は目の前の時間を楽しまなくちゃね。

それにしても―――)



ふと、窓の外の賑やかな通りに目を向ける。

雑踏に紛れて、一瞬だけ…実に見事な「一般人」の格好をして完全に周囲に溶け込んでいるリルの姿が見えた気がした。

目が合うと、彼女は完璧な無表情のまま、すっと路地裏の影へと消えていった。




(…わぁ……、本当に陰ながら見守ってくれているんだ…。

忠犬ハ◯公並の忠義の高さに脱帽だよ…。)




その後も、くだらない話や学院での噂話など、他愛のないお喋りは続いた。



一歩学院に入れば、私は常に気を張っていなければならないし、周囲の目もある。

けれど、こうして友人?と街ブラをして、美味しいご飯を食べて、お茶をしながらどうでもいい会話を交わす。



前世では当たり前だったはずの、けれどイザベルとして生まれてからは一度も経験してこなかったこの「普通の女の子の休日」が、今の私には酷く新鮮に感じられた。



(うん…。今日一日、思い切って外に出てみて、本当に良かった。)



心の中にじんわりと広がる温かな満足感に浸りながら、私は楽しそうに笑う二人の顔を見つめていた。




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