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「愛や多様性の犠牲者が誰になるか分かってんのか!」悪役顔の公爵令嬢イザベル、綺麗事で国を壊すバカどもを現実でボコす内政改革  作者: 猫目こね
アステリア王立貴族学院編(イザベル十二歳。初等部一年生)

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クレス・アルケイデスの変革

今日も更新遅くなりすみませんでした…。





『あなたはアルケイデス伯爵家を継ぐ身でしょう?

独り身を貫くなんて許されるはずがないわ。

厳しいことを言うようだけど、現実を見て。

イザベル様を追いかけるのはもうやめて、自分の立場に相応しい婚約者を探すべきよ。』




少し前、ミリィから言われたその言葉が、私の頭から消えない。




(私が…イザベル様に自分の想いを、正しく伝えてさえいれば…。)


あんな、彼女を虐げるような男に奪われてしまうことなど、なかったはずなのに。





イザベル・ベルドレッド公爵令嬢。



私と彼女は、ほんの一時期だけ、婚約者という間柄にあった。

その短い期間の中で、彼女の底知れぬ聡明さや、凛とした堂々たる立ち振る舞いに、私は気付けば深く心を奪われていたのだ。


婚約が解消された後も、諦めきれずに手紙を送り、彼女が学院に入学してからは機会を見つけては話しかけ、お茶に誘うなど、不器用ながらアプローチを重ねたつもりだった。

けれど、彼女の心に私の熱が響くことは…伝わることすらなかった。




(一度は婚約を結びながら、円満とはいえ…それを手放してしまった身。

あの時、意地でも解消などせずにイザベル様の手を握りしめていればと、何度悔やんだか分からない…。)




それほどまでにイザベル様を深く想う私にとって、彼女と第一王子リュシアン殿下との婚約は、あまりに受け入れがたい絶望だった。



ましてや、耳に届くリュシアン殿下の噂は、どれも惨憺たるものばかり。


身なりに気を遣うわけでもなく、人望があるわけでもない。

彼の周囲に群がるのは、王子の権力に寄ってくる有象無象ばかりだ。

成績が頭抜けて優秀というわけでも、剣術の才に恵まれているわけでもない。

あろうことか、家庭教師に熱を上げているという、王族として耳を疑うような醜聞まで流れている始末。




(あのような男が、イザベル様の隣に相応しいはずがない。)





―――リュシアン殿下を引き摺り下ろそう。



 


始まりは、そんなあまりにも個人的で、独占欲に塗れた打算だった。




王族という巨大な権力に抗うために、自分にできることは何かないか。


思案の末に行き着いたのが、生徒たちの囲い込みだった。

リュシアン殿下は「革新派」の支持を受けている。

ならば、現体制に反発を覚えている「旧体制派」の家系の生徒であれば、容易にこちらへ引き込めるはずだ。



我がアルケイデス伯爵家は領地の地政学的な都合上、表向きは「中立派」を掲げている。

だが、父も私も、その思想の根底は旧体制派に近かったため、彼らを糾合する旗頭になることに何ら障壁はなかった。



そうして私は、放課後の教室に一人、また一人と生徒を集め始めた。

目的は、旧体制派の若き力を結集し、自分たちが家督を継いだ瞬間に一大勢力となる地盤を築くこと。



そのために、貴族だけでなく平民の生徒たちにも積極的に声をかけた。



この学院の門を潜れるほどの能力もしくは財力を有している彼らだ。

卒業すれば、ゆくゆくはどのような形であれ、この国を支える重要な人材となるのは間違いない。


何より彼らは憤っていた。

口を開けば『多様性』や『民の救済』を綺麗事で謳いながら、その実、腹の底では平民を都合のいい駒として見下している革新派の連中に、彼らの我慢はとっくに限界を迎えていたのだ。

その歪んだ欺瞞を突くことで、彼らをこちら側へ引き込んだのだった。



集めた若き血を束ね、やがては宰相をはじめとする中央の腐った権力者たちを一掃して国政の主導権を握る。

そして最終的には、リュシアン殿下の権威を失墜させてイザベル様との婚約を破棄させる。




―――それが自分の目的となった。




二人の婚姻が成立するのは、イザベル様が学院を卒業する時。

猶予は五年程。



仮に結婚まで進んでしまったとしても、家庭教師に執心している殿下と、聡明な彼女のことだ。

形だけの「白い結婚」になることは火を見るより明らかだった。


一度婚姻を結んだとて、私が国政の頂点に立ち、絶対的な権力を握りさえすれば、彼女をその檻から奪い返す手段などいくらでもある。



いつか必ず、チャンスは来る。

そう盲信し、私は旧体制派の筆頭として、不純な野心を隠して動き出したのだ。







だが…。


気付けば私のもとには、五十人を超える生徒たちが集まっていた。




放課後の秘密の教室。

そこで交わされるのは、私の独占欲を満たすための権力闘争の話などではなかった。

集まった彼らは皆、真剣にこの国の現状を憂い、重税に苦しむ領民を想い、崩壊へと向かう祖国の未来をどうにかして変えようと、血を吐くような思いで議論を重ねていたのだ。




彼らの濁りのない熱意と結束の深さに触れるたび、私の胸にじりじりと罪悪感が燻り始めた。

自分の傲慢な私欲のためだけに、この者たちの命がけの信念と情熱を利用していいはずがない…と。




そんな中、生徒たちとの話し合いの中で、「旧体制派の筆頭であるベルドレッド公爵家の令嬢――イザベル・ベルドレッド様を迎え入れた方が良い」という提案が出た。

公爵令嬢の彼女が加われば、勢力の拡大は目に見えている、と。




正直に言えば、最初は躊躇いがあった。

私の知る彼女は、このような大勢をまとめる役割を好むタイプではないと感じていた。

真に信頼に足る者しか、自身の側に置きたがらない気高き人だと感じていたからだ。



しかし、私の心の奥底にある欲望が、その警告を掻き消した。

(イザベル様に関わってほしい、私の側にいてほしい)という私欲が、理性を追い抜いてしまったのだ。



ともに旧体制派の勢力を強めていくという大義名分があれば、この集会を躍進させられるだけでなく、何より、イザベル様と同じ時間を過ごすことができる。




そんな、あまりにも甘く、浅はかな邪念を抱いていた。




だからこそ今日、この場に招き入れたイザベル様と対話したことで、私のそんな欺瞞は木端微塵に打ち砕かれたのだ。





『私は私にできる方法で、微力ながらこの傾きかけた国に抗うつもりです。』




彼女は、自分が置かれた極めて危うい状況を、どこまでも客観的に、そして冷静に見つめていた。

自分の浅ましさが、嫌悪感を覚えるほどに恥ずかしくなる。

彼女がこの場所に足を運んでくれた、ただそれだけの事実に、私は都合よく舞い上がっていただけだったのだと思い知らされた。




(…私は、どこまで愚かなのだ。)



私の不純な動機が、彼女の澄んだ瞳に見透かされ、白日の下に晒されたような心地がした。

だが、同時に救いでもあった。



彼女を奪うという私欲のためだけに、このまま仲間を騙して突き進めるほど、私はまだ腐りきってはいなかった。




進む道は違えど、イザベル様がこの国を正しい方へ導こうと命を懸けているのなら、私はその想いに、決して背を向けてはならない。


これからは、この私を信じて集まってくれた彼らと共に、真にこの国の未来を考え、変革を起こさねばならない。

その果てにしか、イザベル様の視界に入る資格など、最初から得られるはずもないのだと、ようやく自分を納得させることができた。






「私は、私にできることをする。…そして、」





誰もいなくなった教室で、私は拳を強く握りしめた。





「いつか必ず、彼女の隣に立つに相応しい男になってみせる。」




夕闇の迫る教室に響いたクレスの誓いは、最早かつての独占欲に満ちたものではない。

一人の高潔な男として、そしてこの国を背負う一人の貴族としての、真実の覚醒だった。




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