63話 非常に言い難いことなのですが、真実を伝えましょう。1
「あなた、顔が真っ赤だけど、怒っているのかしら?
それとも、土下座している自分が恥ずかしいのかしら?」
きっと、そのどちらもだろう。
ジュディアを見下ろし、私は口角を上げて言った。
「ふふっ。残念に育ってしまった自分の性格を恨みなさい。
そのせいで、あなたも、あなたの周りも、これから大変な目に遭うのだから…。」
「何言ってるの?!私は謝ったわ!
あなたなんかに、ましてや公爵家にだって何ができるっていうのよ!
笑わせないでちょうだい!」
土下座をしておきながら、その口調にはまだ歪なプライドが混ざっている。
喉元を過ぎれば熱さを忘れる、典型的なタイプだ。
「リル。
ノアと家庭教師について調べていたのでしょう?
この方に教えてあげて?」
「かしこまりました。」
リルが一歩前に出る。
その瞳には、人間を見るような温かみは一切なかった。
「まず訂正から入らせていただきます。
あなたは『王妃と殿下によって選ばれた』と主張していましたが、事実は異なります。」
ジュディアの眉がぴくりと動く。
「家庭教師の候補者は五人。
王妃様は別の方を推薦されていました。
ですが、リュシアン殿下がイザベル様に対し『厳しく、時には体罰も辞さない者』を重視した結果、あなたをねじ込んだのです。
王妃様が推薦された方とあなた、どちらにするかという話し合いの際、宰相がアニエス様の意向を尊重する形であなたが選ばれた…。
これが真相です。
王妃様があなたに信頼を置いている事実も、ましてや王妃の代弁者としての権限を与えた事実も、一切存在しません。」
(アニエスが関わってるだろうなーとは予想していたけれど…宰相まで手籠にしていたのか…。)
ジュディアは驚愕に目を見開いた。
自分が選ばれた理由までは知らなかったのだろう。
彼女が拠り所としていた「王妃様からの信頼」という盾が、最初から幻だったと突きつけられたのだ。
「次に、あなたの家族についてです。
実家は男爵家。
より高位の貴族に嫁げるよう、あなたは幼少期から過酷な教育を受けた。
仲の悪いお兄様も同様ですね。
結果、他人に合わせられない歪な性格が形成され、学生時代の友人はゼロ。
ですが、その『厳しさ』が功を奏して、あなたはラルーハ侯爵家の後妻として嫁ぐことになった。」
「良かったわね、嫁げて。」
私の皮肉に、リルがさらに淡々と追撃を加える。
「それが、そうでもなさそうです。
ラルーハ侯爵は先妻を亡くされてから、五人の後妻を娶っています。
あなたは三番目。
侯爵には先妻との間に三人の子がいますが、後妻たちとの間には一人も子がいない。
後妻たちは皆、寂しさを埋めるように愛人を作っていますが、あなたも例外ではありません。
あと、あなたは愛人への貢ぎ癖があるようですね。」
「っ!なぜ、それを…!ええ、そうよ!
私たちには子供ができなかった…。
だから他で気持ちを埋めて何が悪いのよ!」
ジュディアは必死に自分を肯定しようと叫ぶ。
その姿は、もはや哀れですらあった。
「別に否定はしていませんよ。
まとめますと、あなたにとって実家は縁が切れたも同然。
縋れるのは『侯爵夫人』という肩書きと…今、最も大切にしている『愛人』だけ、ということです。」
「へぇー。
教育に携わる者なら、『大切なのは、今まで育ててきた教え子たち!』なんて綺麗事を言ってもいい場面だけれど…。
実際のところ、どうなの?
あなたを慕っている『可愛い生徒』とやらは、一人でも残っているのかしら?」
「もちろん…!
私にとって、教え子たちは何物にも代えがたい大切な存在よ!」
ジュディアは、今更ながら縋り付くように言い放った。
あまりに今更すぎて、乾いた笑いすら出ない。
リルが報告を続ける。
「それについても調査済みです。
彼女が指導にあたっていたのは、主に貴族の子息子女たちですが…。
彼らの中に、彼女を慕う者はただの一人も存在しませんでした。
聞き取りを行っても、『二度とその名前を出さないでほしい』『思い出しただけで吐き気がする』といった、拒絶反応にも似た言葉ばかりが返ってきました。」
「あはは!まぁそうでしょうね。
生徒の言い分も聞かず、自分の無能を棚に上げて体罰を振りかざす教師なんて、忘れたくて仕方ないはず。
当然の結果ね。」
私は堪えきれず、声を上げて笑った。
ジュディアは『そんなはずはない』と言いたげに絶望の表情を浮かべている。
(ファ?!まさか、自分は教え子たちと信頼関係を築けているという自負でもあったの?
いやー、イタすぎるわー。
恐怖で支配した空間に、信頼なんて芽生えるはずがないのに。)
「あと…これは、非常に言い難いことなのですが…。」
リルが珍しく、一瞬だけ言葉を濁した。
「何よ…。もう好きにしなさいよ。」
投げやりなジュディアに、リルが残酷な問いを投げかけた。
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