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64話 非常に言い難いことなのですが、真実を伝えましょう。2



リルが残酷な問いをジュディアに投げかける。



「なぜ、後妻たちにだけ子供ができなかったのか、分かっていますか?」



「侯爵は最初の奥様を亡くされた時に、既に子を為せる体ではなくなったと聞いているわ。」



「と、侯爵は自称していますが…。

実際は、後妻たちの食事に『堕胎薬』を混入させていたようです。

信じるか信じないかは自由ですが…。

行為の後、一週間ほど吐き気が続くことはありませんでしたか?

それは、薬の副作用です。」



「…………っ!?そんな、まさか…!」



ジュディアの顔から血の気が引いていく。

思い当たることが、あったのだろう。



「心中お察しします。

このことについては、後妻の方々とご相談ください。

薬は侯爵の書斎に隠してあるので、証拠品として抑えたいなら早めに取っておくことをお勧めします。

そして、もう一つ…………。」



「まだ…、まだあるっていうの?!もう聞きたくないわ…!!」



「あなたに耳を塞ぐ権利はないですよー。」



私は冷たく言い放ち、リルの続きを促した。




「あなたの愛人には、本妻も子供もいます。

そもそも、その愛人は侯爵が雇っていました。

あなたに引き合わせ、恋仲になるよう仕向けたのも、すべては侯爵の差配です。

もちろん、彼には侯爵から堕胎薬が提供されていました。

万が一にも、()()()()()()()()()()()、あなたとの間に『自分(侯爵)の子だ』と主張されるリスクを、徹底的に排除するためです。」




リルの淡々とした声が、逃げ場のない真実を刻んでいく。




「他の後妻の方々に対しても、同じ手法をとっていたようですね。

予め偽物の愛まで用意して、あなた方に子を儲けさせなかった理由は、自分がコントロールしておきたかったから。

実のところ、侯爵は最初からあなたに自分の子を産ませる気など毛頭なかったのです。

それもこれも、亡き先妻との間にいる三人の子供たちのため。

余計な跡継ぎ争いの種を、一粒たりとも撒かせないという、親心からのようです。

醜聞を防ぐためにお金で愛人を雇い、あなたの孤独を偽りの熱情で埋めて、口封じまで完璧にこなしてくれていたのです。

これほどまでに計算し尽くされた配慮、ある意味では非常に『良い旦那様』ですね?」




ジュディアの顔から表情筋が消えた。

呆然自失。

絶望という言葉すら生温い、虚無がそこにあった。



「冗談でしょう…。」



「なぜ侯爵が、先妻を亡くしてから五人も後妻を娶ったか、お分かりですか?

理由は二つ。

一つは、お金が欲しかったから、です。

あなた方を娶る際、後妻の実家から多額の資金援助を受けるのが目的でした。

もちろん『当人には知らせない』という条件付きで、実家側と手を握っていたようですね。

そのお金があったからこそ、侯爵家は悠々自適に生活できているそうです。」



ジュディアは耳を塞げない代わりに、目を瞑っている。



「そしてもう一つ……。

侯爵は、自分の掌の上で何も知らない女たちが踊らされているのを見るのが趣味なようです。

自分の用意した偽物の愛に溺れ、体に毒を盛られているとも知らず、必死に『侯爵夫人』という空っぽな椅子にしがみつく…。

その滑稽な姿を、彼は特等席で観察し、楽しんでいたのですよ。

侯爵にとって大切なのは先妻と、その子供たちだけ。

あなたたちは、家を潤し、彼を楽しませるための『道具』でしかなかったのです」




(ジュディアはきっと、子供が欲しかったんだろうな。

それが侯爵の子だろうが愛人の子だろうが…。

でも侯爵にしてみれば、愛人の子を自分の子だと言い張られて、家督を汚されるのが一番の懸念だった。

だからジュディアに毒を盛り、確実に芽を摘んでいたわけね。

徹底してるわー。)




「それと、さらに酷なことをお伝えしますが。

その薬物を長期間、多量に摂取し続けたことで、不妊の症状が固定化されます。

…あなたは、きっともう……。」


ーーー二度と、子供を産めない体になっている。



「もうやめて!」


彼女の悲鳴が、密室に響き渡った。

理解してしまったのだ。

自分の人生が、誰かに用意され、消費されるだけの地獄だったということを。



「もう…分かったわ…。」



うなだれるジュディアの姿は、最初に来た時の傲慢な面影など微塵もなかった。



「報告は以上です、イザベル様。」



「ありがとう、リル。…さて、ラルーハ侯爵夫人。」



「その呼び方は…やめてちょうだい……。」



自分の人生を壊した男の姓で呼ばれることが、今の彼女には辛いことなのだろう。



「では…夫人。

今日はもう、お帰りになられてはいかが?

次回も続けるかどうかは、あなたが決めたらいいわ。

私はどちらでも構わないの。

一人で頭の中を整理したいでしょうから、私たちは先に失礼させていただくわ。」



茫然自失のジュディアを部屋に残し、私とリルは退室した。



(さあ、終わりの始まりね。

私が何もしなくとも、あなたはもう止まれない。

その手に握らされた真実が、あなた自身の手で、あなたに関わる全ての人間を破滅へと引きずり込んでいくんだから。)



真実を伝えることほど、残酷なことってないのかもしれないですね。


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