ミリィ・ケントールの成長
GWなので、特別編をアップします!
恋愛系の話なので、苦手な方は飛ばしてください。
現在、私はアステリア王立学院の高等部に所属している。
学院生活を送る中、ふと思い出すのは、まだ幼さが目一杯残る中等部の頃のことだ。
当時の私は、恋に盲目だった。
隣領であるアルケイデス伯爵家の嫡男、クレス・アルケイデス。
彼はとにかく格好よくて、私の理想そのものだった。
だが、父であるケントール子爵は、私たちの婚約を頑なに許してはくれなかった。
私は彼を諦めきれず、彼の婚約話を幾度となく邪魔し続けた。
相手の令嬢たちは皆、「こんなに距離の近い幼馴染がいる男なんて御免だわ」と去っていった。
クレス自身も婚約に本気ではなく、何より彼は優柔不断だった。
ほぼ幼馴染の私と、初対面の婚約者候補。
どちらを優先すべきか、決められない彼に甘んじていたのだと思う。
だが、イザベル・ベルドレッドは違った。
彼女が現れてから、クレスは変わった。
そして何より…………私自身が、劇的に変わった。
最初、私はクレスが変わってしまうことが怖かった。
そして、自分自身が今の場所から動かされることが嫌だった。
あの頃の私たちは、二人揃って現実を見ることができない、ただの子供だったのだ。
彼女は、私たちが今後なすべきことを指し示してくれた。
自領と向き合い、発展させ、安定させること。
それらは全て自分自身に返ってくる価値であることを知った。
自領の経営に目を向け、実際に足を運ぶ機会が増えてから、私はようやく気づいた。
そこにいるのは「税を納めるだけの家畜」ではなく、「血の通った人間」なのだと。
向き合う機会をくれたイザベル様には、感謝してもしきれないほどの恩があると思っている。
(父に関しては、少し複雑な気持ちがないわけではないけれど。)
それでも、今の私は、胸を張ってケントール子爵家の娘だと言える。
あの嵐のような日々を経て、私はようやく、本当の意味で高等部になれたと思える。
◆
「ちょっと! ミリィ・ケントール! あんた、私の婚約者を誑かしたわね!」
「…?何のことでしょう?」
高等部の中庭、人気のない時間帯。
私は見知らぬ女生徒に鋭い声をかけられた。
どうやら話はこうだ。
彼女の婚約者が私に告白しようとしている計画を、陰で聞いてしまったらしい。
だが、そんなの私の知ったことではないし、告白されたところで断るに決まっている。
「あなたの婚約者の気持ちを、私がどうこうすることはできません。
それに、お相手がどなたかも存じ上げないわ。
言っておきますが、私は告白されても今は誰かと婚約する気はありません。
ましてや婚約者のいる方なんて論外です。
私のせいにするのはお門違いなのでは?」
「うるさい…!うるさいうるさい!あんたのせいなのよ!!」
逆上した女生徒が私に飛びかかってきた。
パシッ。
振り上げられた手を、誰かが横から止めてくれた。
「あら、クレス…。ありがとう。」
「あぁ。…これは、どういう状況だ?」
高等部でも人気の高いクレス。
彼に暴挙の現場を見られ、腕を掴まれてしまった女生徒は、顔を真っ赤にして逃げるように走り去っていった。
「…と、いうことだったのよ。」
私はクレスにことの顛末を話した。
「はぁ。なるほど、ミリィも大変なんだな。」
「ふっ、そうね。モテる女は辛いのよ。」
いつの間にか、私たちは互いに敬語を無くし、軽口まで叩き合うほど距離が近くなった。
もちろん、時と場合によって敬語を使うこともある。
「はは。そうだな。」
クレスが笑みをこぼした。
実際、私たちはそれなりにモテている。
だが、私もクレスも未だに婚約者はいない。
クレスは今でもイザベル様のことを想っているのだろう。
そして私は、そんな彼の横顔を眺めながら、未だに捨てきれない初恋を引きずっている。
(一生、叶わないことは分かっているのだけれど…。)
この国では女性が領地を治めることも認められている。
私はケントール子爵家を継ぐ決意をしたし、クレスも跡取りだ。
互いに領主となる以上、私たちの結婚は不可能。
それぞれに、別の婚約者を見つけなければならない。
頭では理解していても、長年の恋はそう簡単に風化してはくれない。
(というか、イザベル様がクレスに微塵も興味なさそうなのが一番の問題なのよね。
クレスがさっさと誰かとくっついてくれたら、私だって諦めがつくかもしれないのに…。)
勝手な思考を巡らせながら、二人で廊下を歩く。
「あら。ミリィ様とクレス様。お久しぶりです。」
目の前から現れたのは、イザベル様だった。
「ご機嫌よう、イザベル様!」
私はにこやかに微笑み、彼女に歩み寄る。
クレスも小さな声で挨拶をしている。
照れ屋な彼は、きっと不意の遭遇に心臓を鳴らしているのだろう。
たわいもない会話を二言三言交わし、イザベル様は風のように去っていった。
「クレス。良かったわね、会えて。」
「…うるさいぞ。」
「ふふ、照れてる照れてる。」
この距離が、苦しい。
けれど、手放したくない。
きっとこの気持ちは、誰かと婚約しても、あるいは結婚したとしても、心の片隅に残り続けるのかもしれない。
でも、私はもう、クレスの邪魔をしたりはしない。
私は私がすべきことを。
自領を守ることをする。
そのために、最善の相手と手を取り合うことの方が、今の私にはずっと大事だと思えるから。
そう、中等部の頃から、私はやはり変わったのだ。
もう、恋に盲目なだけの子供ではいられない。
ーーーこれは、大人になっていく過程を生きる、一人の少女の話。
ミリィはクレスと同じ立場(跡継ぎ)になったのもあって、タメ口になったのかなと思ってます。
クレスと対等な立場であり、友人にもなれたってことなんでしょうね。
けど、心の距離が近くなったからといって、ミリィは手放しでは喜べない状況なんですよね。
ちなみに、この話はイザベルが婚約する少し前くらいの出来事です。
更新が今日みたいに二回になる日も、今後あるかもしれないので、
是非、ブックマークをお願いいたします。
良きGWをお過ごしください。




