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ある人物の思惑


深い闇と、甘く重苦しい香りが漂う王宮の一室。

第一王子・リュシアンは、縋り付くような視線を目の前の「女性」へと向けていた。



月の光さえ透過しそうなほど白い肌。

流れるような美しい長い髪。


リュシアンにとって彼女は、家庭教師であり、そして唯一の「理解者」であった。

彼が他の一切の婚約話を拒み続けているのは、ひとえにこの世のものとは思えぬ美しさを持つ、彼女の存在があるからに他ならない。



「聞いてほしい…。

王立植物園で、イザベルを学院へ通えない程度に痛めつけて、ベルドレッド公爵に揺さぶりをかけるはずだったのに…失敗した…!

それだけじゃない。

奴を…イザベルを標的にして学院に通えないように追い込めと命じていたのに、まったく効果がないとの報告があった。

そんなやついるか?!

こんなに神経の図太い奴、今まで見たことがないっ!」



取り乱す王子の頬を、女性は細い指先で優しく撫でた。

その仕草は慈愛に満ちているようでいて、どこか獲物を愛でるような冷徹さが透けて見える。



「落ち着いてください、リュシアン殿下。

確かに、そこまでの嫌がらせに動じないというのは、並々ならぬ図太さですわね…。

ですが、ベルドレッド公爵家の力がこれ以上強まることは、この国にとっても、次期国王であるあなたにとっても悲劇です。

彼らが勢力を強めれば、必ずや政権簒奪を企てるでしょう。」



彼女は王子の耳元に毒を注ぐ。



「彼らの横暴を止めることは正義であり、国を想うあなたの使命なのです。

あの末娘に特別な才能はないと思っていましたが、まさかそれほど強靭な精神の持ち主だったとは…。

ですが、案ずることはありません。

きっと末娘として甘やかされ、我を通すだけの図太い神経が育ってしまったのでしょう。

機会を伺えば、必ずや彼女を学院から排除できるはずです。

あなたはこの国の王子なのですから、できないことなど何一つありませんわ。」




穏やかな微笑みの裏で、女性は冷徹に思考を巡らせていた。






ーーーーー計画は完璧だったはず。

それなのに、最近はどういうわけか、ことごとく策が潰される。




(あぁ…。

思えば、ハム侯爵やケントール子爵といった小物が失脚した時から、何かが狂い始めているわね…。)




かつて、ベルドレッド公爵領の『虹の広場』を起点に領地の治安を不安定にさせ、公爵の目を中央から逸らそうとした計画も、いつの間にか霧散していた。



(報告では、長男のヴィンセントが防いだとなっていたわね。

あの秀才に見張りを付けていても、目立った動きはなかった…。

では、やはり公爵本人?

あるいは長女のエルザ…?

長女もなかなかの曲者だという話が革新派から聞こえてくるものね。)



だが、エルザは結婚後、表舞台には出ていない。

最近、学院の教師になったという話は耳にしたが、一連の事件に関わっている様子はなかった。


ならば…と、女性は記憶の隅にある「取るに足りない」名前を思い出す。



(…リュシアンと同じ学院にいる、イザベル・ベルドレッド。

ハレム・ハムとの婚約が立ち消えになった、あの末娘。)




しかし、上がってくる報告は「目つきが鋭いだけの、無能な娘」というものばかりだ。



(ふふ…。まさかね。

ヴィンセントやエルザのように、人望が厚いとか、特出した才があるとかいう噂すら聞かないもの。)




彼女は窓の外を眺め、自らの美貌で籠絡してきた男たちの顔を思い浮かべる。


宰相、騎士団長、財務大臣に法務大臣。

この国の枢軸にいる男たちは皆、彼女の「魅惑」の虜だ。



操れる男か否かは、見ただけでわかる。

自分にはそれだけの「選別眼」があると自負していた。



ただ懸念点が一つある。


最近、国王の自分に向ける視線に、かつてのような熱がない。

国王が冷静さを取り戻し、国の現状を見渡し始めるのは、彼女にとって不都合でしかなかった。



彼女はリュシアンに目線を戻す。


(一刻も早く国王には退位してもらい、私の虜であるリュシアンに王位を譲らせなくては。

私がベルドレッドなんかに構っている暇はないのだから、あの家(ベルドレッド公爵家)はリュシアンに任せてしまいましょう。)



彼女は、甘えるように縋るリュシアンへ視線を戻した。



「リュシアン殿下。

イザベル・ベルドレッドは取るに足らない存在ですが、なるべく早急に学院から追い出してください。

彼女のもとに旧体制派が集うことだけは避けたいのです。

どんな手を…使ってでも。

お願いしますね?」



毒を孕んだ蜜のような微笑を浮かべ、彼女は念を押した。



「ああ、分かっている。

私にできないことなどない。

公爵家が相手とはいえ、我儘な末娘ごとき、なんとでもなるはずだ。

私はどんな手を使ってでもイザベル・ベルドレッドを学院から…いや、貴族社会から消してみせよう!」



「ふふ。その調子です。」





彼らはまだ知らない。


自分たちが「取るに足りない存在」だと判断した、その少女こそが、この腐りきった盤上を覆す唯一のイレギュラーであることに。





来週からは、また20:10に更新できると思います。


お手数をおかけいたします。

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