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51話 私一人でできることには、限界がある

1万PVのお祝いエピソードを今夜22時に更新予定です。



校外学習の帰り道、馬車の中。

エルザ姉様は管理責任者から引き出した「証言」を私に共有してくれた。



「信じられる? イザベル。

あの管理責任者、魔食い蔦(イーター・アイビー)が伸び切っていたことを指摘したら、『獣人がやってなかったんだ!私に責任はない!』と言って逃げたのよ!?

たとえ獣人が仕事をしていなかったとしても、それを監督するのが責任者の仕事でしょうに!

今回の件は、学校から正式に抗議するつもりよ!」



「ふふ。エルザ姉様、なんだか楽しそう。

昔を思い出しますわね。」



「そうかしら?でも、そうね。イザベルといたら私は退屈しないわ。」



「私もです。エルザ姉様がいてくださると、心強いです。」



姉妹の和やかな一時。

だが、その裏で私の「仕掛け」は既に牙を剥き始めていた。



(エルザ姉様には言えないよなぁ…。

巨大魔植物に生徒をぶち込んだこと…。

これからやることも…。)



 ◆



翌朝。

王都に激震が走った。


近年、平民層を中心に急速に支持を広げている新進気鋭の新聞『インダクシア新聞』。

その一面に、衝撃的な見出しが躍ったからだ。



記事の内容はこうだ。





ー【特報】王立植物園に「禁忌の華」か? 違法薬物の温床と化した国家機関ー



『ファシネフルール』 ーーー 別名、魅了の花。


強烈な幻覚作用と中毒性を持ち、かつて多くの家庭を崩壊させたことで、国が栽培と流通を厳禁した禁断の魔植物である。

研究目的として王立植物園にのみ特例的な管理が許されていたはずのそれが、実は裏で不正に持ち出されているという。



この花は「虹の広場」で密かに流通しており、実際に重度の中毒症状を引き起こしている患者が複数確認された。



この件について、我々が王立植物園に取材をしたところ…

「管理は厳正であり、職員に不審な点はなかった」と回答している。

だが、事実は明白である。



皆様、この「ファシネフルール」とこの王立植物園の管理問題についてどう思いますか?

責任の所在はどこにあると思いますか?

ぜひ、皆様もこの件について考えてみてください。



【注意喚起】


ファシネフルールの特徴は鮮血のような赤い花です。

粉にしても赤さは消えません。


これを目撃した人は速やかに警備隊に通報するようにしてください。

また、周囲の人間にも注意喚起をお願いします。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「誰よ!こんなデマカセ記事を書いたのは!

今すぐ責任者をここに引きずり出しなさい!」



新聞を握りしめ、顔を真っ赤にして激怒しているのは、王立植物園の統括責任者・伯爵家出身のトミーシャだ。

彼女はこの植物園を実質的に支配している、いわゆるクソババa……もとい、権力欲の塊のような女性である。




彼女がここまで怒り狂うのは、この記事が「デマではない」からに他ならない。

トミーシャはこのファシネフルールを密造・販売することで巨額の富を築き、その効能を利用して権力者たちを籠絡し、今の地位を築き上げてきたのだ。



まさに「図星を突かれた人間の、醜い逆ギレ」そのものである。



「すみません……。この新聞社、足取りがまったく掴めず…。

窓口の商会も『委託されているだけなので詳細は知らない』の一点張りで…。」



昨日エルザ姉様に詰め寄られていた管理責任者が、おずおずと答える。



「はぁぁあ!?そんなの新聞社怪しすぎるわ!

こんな捏造記事、認められるわけないじゃない!!」



トミーシャの怒号が温室に響き渡る。

だが、彼女はまだ気づいていない。

この新聞記事は単なる「告発」ではなく、彼女の首を確実に刈り取るために用意された「処刑宣告」であることに。



 ◆



この問題は、わずか一日にして国中の話題となった。

もちろん、仕組んだのは私。




何を隠そう。

この「インダクシア新聞」は、アンリとマユによる平民向けの全国紙なのだ!




昨日の「私が襲われかけた事件」を記事に含めなかったのは、レタソク伯爵令息のその後を追及されると面倒だと思ったから。



彼はその後、例の巨大魔植物から引き摺り出したが、案の定、快楽漬けにされてまともな会話もままならない状態になっていた。



レタソク伯爵令息(ゴミ)を放置して教員たちに「発見」させたのは良いものの、側から見ればこれも植物園の管理不足が生んだ悲劇だ。

けれど、掘り返されすぎて私の関与がバレるのも不都合極まりない。



(学院の生徒を廃人にして処分しちゃうのは、私のなけなしの良心が痛む…。)



だからこそ、アンリとマユのインダクシア新聞には、あえて「王立植物園の管理問題」そのものに焦点を絞り、世間の話題をそちらで埋め尽くしてもらったのだ。


この『管理体制への不信感』という土壌を作っておけば、生徒が魔植物の犠牲になった件が仮に明るみになっても、自然と『すべて植物園のせい』として大衆には伝わるだろう。



(実際、管理ができていなかったからあんなに巨大化したわけだし!

管理が杜撰だったから、メリッサたちが楽々と証拠品を持ち出せたわけだし!

そもそも、あんな物騒なものを平然と展示しているのが間違いなのよ。)



心の中で自己正当化をしつつ、私はちゃんとレタソク伯爵子息に「特効薬」を仕込んでおいた。


それはジンバイ経由でリルが入手してくれた、裏社会で有名な「服用すると性格が激変する」という、人格に異常をきたすレベルの代物だ。



(うーん…。ちゃんと飲ませておいたってメリッサが言っていたけど…。

果たして人格は良い感じになってるかなぁ?

人格破綻者になってしまうかもしれないよなぁ〜。

吉と出るか凶と出るか。

明日以降の彼の変貌ぶりが楽しみだなぁー。)




さて、王立植物園の問題に戻るとしよう。


事態を重く見た国が、ついに植物園の監査に乗り出すことになった。

けれど、正直なところ監査員と運営側の癒着も考えられるため、手放しには信じられない。

だからこそ、国民に情報を開示し、自主的な自衛を促すしかなかったのだ。



(植物園ごと焼き払うのも、責任者を暗殺するのも簡単だけれど、植物に罪はないし、責任者だけをすげ替えたところで、本質的な腐敗が治らなければ永遠に同じことの繰り返しなんだよね。)



ハム侯爵やケントール子爵の時は、彼らの跡継ぎにまだ「見込み」があったからこそ、家を存続させる形での解決ができた。

リルやノアが関わっていた件についても、彼らの積年の恨みを晴らすための「処分」は、必要不可欠なプロセスだったと言える。



けれど、植物園の一般職員たちは違う。

彼らは直接的な実害を私に加えたわけではないし、何より彼らは代替の利きにくい専門職だ。

この国の未来を支える貴重な研究者としての側面も持っている。



(とにかく、責任ある立場の者が不正を働けば、社会がそれを許さないという「前例」を作らなきゃいけないのよね。

社会的制裁すら権力で捻じ伏せてしまうケントール子爵のような手合いなら、物理的な攻撃で社会からほぼ消えてもらうのが一番手っ取り早いけれど…。)



暗殺という「点」の解決ではなく、社会の常識を塗り替える「面」の解決。

だからこそ、今回はあえて物理的な攻撃を控えた。



これからはアンリとマユの新聞社を通じて「責任者の追及」という形で揺さぶりをかけ、統括責任者であるトミーシャの闇を少しずつ剥ぎ取っていく予定だ。





ただし、この記事では一点だけ、あえて触れていないことがある。

「流通させていた職員が異種族(獣人)であること」だ。



アンリとマユが手探りで国の情報統制を精査した結果、「異種族に関する事件」を公にすると、即座に目をつけられる可能性が高いことが判明した。

虹の広場への言及ですらギリギリのラインなのだ。



そのため、今は異種族が関わっている事実は伏せている。

だが、虹の広場に対する不信の芽は、着実に国民の間に根を張りつつあるはずだ。



私一人でできることには、限界がある。


けれど、一人一人が正しい情報を得る姿勢を持ち、意識を変えていくことこそが、自分や家族、そして周囲を守る盾になる。



(情報戦は、真実と嘘がいつだって入り混じってしまうもの。

でも、今からでも国民皆が考える力を伸ばして『情報』を正しく理解し受け止める力を養ってくれたら良いな…。)



私ができることなんて、実際はこれくらい、ちっぽけなことなのだから。



(さてと。

王立植物園はこのままアンリとマユに社会的制裁を続けてもらって、必要とあらばノアたちと協力してもらうっと。

レタソク伯爵令息は、しばらく様子見ね。

次はリュシアン殿下…そろそろ面と向かってお話しする時ですかね。)



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