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50話 【断罪】イザベルに怪我をさせようとした伯爵子息の末路

少しグロ…?注意でお願いします。苦手な方は飛ばしてください。




騒ぎを聞きつけて、エルザ姉様が取り巻きの生徒たちを引き連れてやってきた。



「あら? どういう状況かしら。イザベル、怪我はない?」



「ええ、お姉様。それより、この植物園の惨状、思ったより深刻かもしれません。」



私は、職員に扮したノアに捕まった王子派の生徒と、それを見て顔を青くしている植物園の責任者を見据えた。



そもそも、この王立植物園は植物園であると同時に植物の研究機関でもある。

植物は人を助ける薬にも、人を殺める毒にもなる。


この薬にも毒にもなる植物を扱う場所に、「魔力を活性化させる粉」などという危険物が持ち込める管理体制そのものが、控えめに言って正気の沙汰ではない。


王立である以上、設備費や人件費には国からの多額の補助金が投入され、運営コストは抑えられているはずだ。

それなのに、この惨憺たるクオリティ。

…中抜きを疑わずにはいられない。


また、剪定作業などの実務に関しては、貴族出身者でなくとも平民の専門職で十分に事足りる。

それなのに、なぜ職を求める平民を差し置いて、あえて異種族である獣人を採用しているのか?


あの『魔喰い蔦(イーター・アイビー)』にしても、定期的に剪定さえしておけば、たとえ暴走したところで蔦が客に届くはずなどないのだ。



(一通り見たけれど、違和感のトロピカルパレードね。

管理者責任者が言うように剪定が難しい植物なのであれば、尚更専門職として相応の人間を雇用し、厳重に管理すべきなんだけど…。)



獣人はその強靭な体格や身体能力こそ優れているが、繊細な魔植物の管理には向かない。

彼らの特性上、剪定作業は大雑把になりがちで、管理も杜撰にならざるを得ない。


一言で言えば『大雑把』な種族なのだ。

これはもう種族の生まれ持った性質なので、どうにもならない。


そして何より、彼らを束ねる管理職が、異種族に対して的確な指示を出し、統制できているとは到底思えなかった。




「お姉様。この植物園、一度根っこから植え替える必要がありそうですわね。」



「えぇ。同感だわ。」



「とりあえず、私はまだ問題がないか、色々見て回って来ます。

エルザ姉様は管理責任者に話を聞いてみてください。じゃっ。」



「え、ちょっ、イザベル!まだ話は…!

まったくも〜、置いていかないでよ〜!…って、もういないし…!」




 ◆



私は場所を変え、人目を避けて植物園の最奥へとやってきた。

ノアに引きずられ、生まれたての小鹿のように震える王子派の生徒も一緒だ。


彼の手には、まだ証拠となる「粉」がある。


「この件、リュシアン殿下はどう説明してくださるのかしら?

いえ、きっと何も仰らないわね。

あなたが失敗した時点でトカゲの尻尾のように切り捨てて、知らぬ存ぜぬで終わりでしょうから。」



私の言葉に思い当たる節があるのだろう。

犯人の生徒は、さらに顔を青ざめた。



「ねぇ、あなた。お名前を伺ってもよろしくて?」


「はっ…!お前なんかに教えるわけ…!」


「こいつは革新派で王子の金魚の糞、レタソク伯爵家の嫡男です。」



メリッサが「お前のことはすべて調査済みだ」と言わんばかりの冷徹な目でレタソクを射抜く。



「レタソク伯爵のご子息ね。

正直、この植物園の杜撰な管理問題に比べれば、あなたに構ってあげる暇なんてないの。

だから、もう二度と私を煩わせないように、今たっぷりと『可愛がって』あげるわね。」



私はノアとメリッサ、そして暗殺部隊の面々を従え、さらに深く、陽の光も届かない湿った奥地へと彼を連れて行く。

迷いのない足取りにレタソク伯爵令息が怪訝そうに見つめてくる。



「ふふ。事前にこの植物園のことは調べていたの。

あなたたちの企みも知っていたわ。

でも、どんなことをしてくるのかは知らなかった。

だから、あなたが何をするかによって、どんな処罰を与えようか考えていたの。

けれど、思ったより大したことはしてこなかったから、これくらいで勘弁してあげる。」



私が足を止め、指をパチンと鳴らすと、メリッサが巨大な魔植物を運んできた。



「これはね、内部に無数の蟲を飼っている植物なんですって。

私も見るのは初めて!

ここに入ってる蟲は少し特殊でね、この植物に入ってきた対象に強烈な『快感』を与える毒を出すのよ。

一度味わえば、もう外の世界のことなんて考えられなくなるほどに。

植物はこの蟲を使って獲物を蕩けさせ、ゆっくりと時間をかけて溶かして捕食するんですって。

あ〜想像しただけでも気持ち悪い!!あはははははは!!」



「や…! やめろ…!

さすがの公爵家でも、やっていいことと悪いことがあるだろう…!

それに、私の家が黙っていないぞ!」



「大丈夫よ。変装が大得意な私の仲間がいるもの。」



私は口角を吊り上げ、ニタァと笑みを深める。



「あなた、素行も悪ければ人望もない。

成績も振るわず、王子からの信頼も…別にないでしょう?

私の仲間なら、あなたよりもずっと上手く『レタソク伯爵子息』を演じられるわ。」



ガクガクと膝を震わせ、レタソク伯爵令息はついにその場に泣き崩れた。



「な…なんでもする!だから…やめてくれ…!」



「別に、あなたに望むことなんて…ないのだけれど…?」



「あなたに…忠誠を誓う!誓わせてください!

王子派もやめる! 旧体制派になる! 親孝行もする!

成績も上げるし品行方正に生きる! だから…!」



「それだけ?」



「わ…私の命を懸けて…!何でもします! だから、それだけは…!」



私は、その滑稽な命乞いを見て小さく鼻で笑った。



「ははは。傑作ね。…ええ、いいわ。」


「……っ!」


彼が「助かった」と安堵の息を漏らした、その瞬間だった。




バクッ。




巨大な植物の口が、レタソク伯爵令息を丸呑みにした。



「とりあえず中に入って、堪能してご覧なさい。

あなたをどうするのかは、その後考えるわ。

ふふ。メリッサ、あとはお願いね。」



「はーいっ! かしこまりました〜!」



自分の命が惜しくて派閥を裏切る者は、どうせまたすぐに裏切る。

ならば、快楽という名の鎖で魂を縛り、抗えないように作り替えてしまった方が効率的だ。



(ハニートラップがあるように、快楽漬けの忠誠もきっと有効だよね?)



私は満足げに頷くと、静まり返った植物園の闇を後にした。




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