49話 校外学習で植物園に来た
今日は、待ちに待っ…!ていたわけではない、初等部の校外学習。
行き先は、世界中の珍しい植物が集まるという「王立植物園」だ。
(王立…前世で言えば国営ね。
働いている職員も知識が豊富で、アステリア王立学院の中でも成績優秀な者が就職できるっていう、平民出身者憧れの狭き門。
実際はコネがモノを言う世界で、平民が採用されることなんてまずないんだけど。)
待遇も良く、選ばれた貴族ばかりが職に就けるという裏事情はあるものの、「王立」の名を冠する以上、その管理体制は完璧なはずだ。
私は今世で初めて訪れる植物園に、それなりに胸をときめかせていた。
(本で読んだことのある「魔植物」が気になるんだよな〜。
危険なものが多いから王立植物園でしか栽培が許可されていない代物。
今世はせっかく魔法のある世界なのに、これまであまりファンタジー要素に触れてこなかったから…。
ちょっとした非日常が見られそうで楽しみ!)
しかし。
植物園に到着し、馬車から降りた瞬間。
その幻想は、無惨にも音を立てて崩れ去った。
(…え? 何これ。荒れてる…?…え…?)
目の前に広がるのは、植物の管理が行き届いているとは到底思えない、雑草が生い茂る荒れ地だった。
「雑草にしか見えないんだけど…。これ、本当に入場料を取るレベル?」
公爵邸の庭の方が比にならないくらい立派だ。
これが本当に、国一番と謳われる植物園なのだろうか。
呆然とする私の視界に、植物の手入れをする人影が映った。
――尻尾と耳。
彼らが獣人族であることが、すぐに分かった。
すると、慌てて彼らを取りまとめているらしい人間の職員が飛び出してきて、獣人たちを隠すように奥へと下げさせた。
(旧体制派がいるから、下げさせたんでしょうね。)
そこに植物園の管理責任者が現れた。
「アステリア王立学院の皆様! ようこそおいでくださいました!
ここは国一番の植物園です。
管理が非常に難しく、一見荒れているように見えますが、無闇にハサミを入れてはいけないのです!」
職員の言い分に、周囲の生徒たちは「そうなんだ」「管理が難しいのか」と納得していた。
「イザベル。騙されないでね。
私が校外学習に来た時は、こんなに荒れていなかったわ。」
エルザ姉様が、隣でそっと小声で囁いた。
「…だっ騙されてませんよ!私も、おかしいな〜?と怪しんでいたところですっ。」
エルザ姉様が「本当かしら?」と言いたげな疑いの目でジッとこちらを見てくる。
(ほ…本当だし。ちょっとだけ、そうなのか…?って思っただけだし!)
「まぁ、とりあえず見てみましょうか。
ここの管理が行き届いていないのは想定外だったけれど、今更取りやめるわけにもいかないもの。」
エルザ姉様が溜息混じりに提案した。
「そうですね。荒れていようが、私のお目当てである魔植物さえ見られれば文句はありませんし。」
こうして私たちは園内を回ることになった。
「各自好きなように観察して、帰ってからレポートを提出してもらう」という引率教師の指示で、自由行動が始まった。
◆
エルザ姉様は相変わらずの人気で、生徒たちに囲まれながら移動している。
私は人混みが苦手なので、メリッサと二人で少し離れて回ることにした。
「ねぇ、メリッサ。この植物…なんか見たことあるわね…。」
「え? そうですか? 私植物のこと全然知らなくって〜。」
「確か、あれは本で読んだ魔植物よ!あ、あっちにも…!やっと見れた本物〜!
大きい〜!本で見たものよりも、毒々しい色なのね!」
ようやくお目にかかれたファンタジー要素に、私は内心で胸を躍らせる。
…が、観察を続けていくうちに、ある違和感に気づいた。
「……これ…確か、ちゃんと剪定しておかないと危険なやつだったような……わっ! っわあぁ!」
地面から這い出た黒い蔓が、獲物を見つけた蛇のように私の足首に絡みつこうとした。
――その瞬間。
パシィィィィンッ!
空気を切り裂く鋭い音が響き、私の足元に迫っていた蔓が、塵一つ残さず消し飛んだ。
「おっと。お嬢様、危ないですよ。
この『魔喰い蔦』は、動くものなら何でも絞め殺してしまいますからね。」
いつの間にか私の隣に立っていたのは、植物園の作業服をこれ以上ないほど着崩したノアだった。
その手には、剪定バサミ…ではなく、魔力を帯びた小刀が握られている。
「あら。ノアじゃないの。 なんで植物園に…?」
「たまたま職員募集があったので、副業です。
あ、もちろん私の部下たちも『清掃員』として園内のあちこちに配置済みですよ。
それに、メリッサから『王子派が不穏な動きを見せている』と報告がありましたからね。」
(あぁ、あの件か。っていうか副業は絶対嘘やん。)
王子とその側近たちが、この植物園で何やら企んでいるということは、先日のイジメの件で二重スパイになったハンスから事前に上がっていた。
彼らの狙いは、この植物園で私とエルザ姉様が「偶然」怪我をする筋書きを作ること。
私たちが不在の間に革新派を盛り返そうという、あまりに短絡的で浅はかな作戦だ。
(この程度、メリッサがいれば十分だと思っていたけれど…。
まったく、ノアたちまで総出で来られたら、大所帯すぎてちょっと恥ずかしいじゃない。)
ノアは爽やかな笑みを浮かべているが、その瞳は一切笑っていない。
彼の視線の先――茂みの陰で、腰を抜かして震えている一人の男子生徒がいた。
リュシアン王子の取り巻きの一人で、この計画の立案者で、初等部の者だった。
「ヒッ…!? な、なんで…?! あそこに立てば、魔植物が暴走するはずじゃ…!」
「ああ、君がさっき『魔力を活性化させる粉』を撒いていたやつかい?
悪いけど、全部回収させてもらったよ。」
ノアの部下たちが、影からヌルりと姿を表す。
彼らの手には、王子派が仕掛けようとした証拠品が握られていた。
ブックマーク・お気に入り・評価
お願いいたします。




