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46話 イザベルの逆襲



翌日の昼休み。



華やかな笑い声が響く中庭とは対照的に、アステリア王立貴族学院の学院長室は、重苦しい沈黙に包まれていた。

豪華な革張りのソファに深く腰掛けた私は、正面に座る三人の男女を、品定めするように眺める。



主犯格のハンス伯爵子息、彼に陶酔するベアトリス子爵令嬢、そして羽振りの良さだけが自慢の、なぜか裕福な商会の息子ゲイリー。



彼らは「公爵令嬢に呼び出された」という緊張感など微塵も見せず、むしろ革新派(王族が味方)の自分たちが優位であると信じて疑わない様子で、ふてぶてしい態度を隠そうともしない。



「で、わざわざ昼休みに何の用ですか、イザベル様。

証拠もないのに僕たちを拘束するなんて、公爵家の横暴ですか?」



ハンスが足を組み、冷笑を浮かべる。

ベアトリスは爪を弄り、ゲイリーは懐から出した金の時計をこれ見よがしに弄んでいる。



「証拠なら、揃っています。

実行犯の生徒たちの署名入りの供述書…チョークを盗んだ時間、場所、そしてあなたたちからの指示内容。

何より私の真っ白になった制服。言い逃れは不可能ではなくて?」



「はっ! そんなの、公爵家の権力で平民の生徒を脅して書かせた捏造だ!

そんな紙切れで、伯爵家の僕たちが動じるとでも?」



ハンスのその言葉に、ベアトリスとゲイリーがクスクスと下卑た笑いを漏らす。

彼らにとって、他人の人生を壊す程度の行為は「証拠があっても揉み消せる遊び」でしかないらしい。



「捏造だと言い張る自由はありますわ。

でも、あなたたちの『実家の汚れ』は、いくらチョークで塗り潰しても消えはしませんわよ?」



私は手元に置いていた一冊のファイルを、ゆっくりと開いた。





「まず、ゲイリー様。なぜか裕福な商会の息子さん。

あなたの家、表向きは雑貨商ですが、実態は革新派の教員や役人に、専門の『風俗店』を斡旋・贔屓にさせることで利益を上げているそうね。

しかも相場より安く。

それに、働かせている人たちの中には無理やり連れてこられたと訴えている者もいるそうで…。

これって誘拐…?」



「なっ……!?」



「あなたのお家、誘拐までして風俗経営していらっしゃるのね。

私の家を貶められるほど、あなたの家業は崇高なものですの?

ふふ、笑わせますわね。

これ、学院中に教えて差し上げましょうか?

ああ、隣のお友達の二人もそういう目で見られますわね。

きっと今までよりも、お友達が『厳選』されていくと思いますわ。…客層的な意味で。」



金の時計を弄んでいたゲイリーの手が、ガチガチと音を立てて震え出す。



「次、ベアトリス様。子爵家のお嬢様。

ハンス様への恋心でここまで付き合ってきたのでしょうけれど、男を見る目がなさすぎではありませんこと?

あなたのご実家、経済力がないから、子爵公認で国で禁止されている『幻覚作用のある薬(麻薬)』を裏で取引しているようね。

知っていました?」



「な、何を!出鱈目よっ!」



「それに、あなたの領地ではその薬のせいで路上でうなだれて生活している人が溢れているそうじゃない。

私にかまけている暇があったら、そちらにまずは目を向けてみてはいかが?

それとも、私が子爵家を潰して差し上げましょうか?

国に『薬』の件、バラされて困るのはどなたかしら?」



ベアトリスが絶句し、その場に崩れ落ちそうになる。

私は最後に、余裕の消えたハンスを冷たく射抜いた。



「そしてハンス様。伯爵家の次男坊。

何の権力もないお子ちゃまが…公爵令嬢であり、兄や姉からの信頼も厚い私に楯突くなんて、おこがましいにも程がありますわ。

立場、分かってます?」



「立場……? 学院は平等を……っ」



「学院がいつ平等を謳いましたの?

ふっ…。そういう空気感が出てるだけでしょう?

学院長、学院は平等を謳ってますの?」



「ある程度の平等は求めているが、大々的に平等を謳っている事実はない。」



「そんな…!!」



「 当たり前よ。

貴族という立場があり、出資までしているのに、生徒の立場が皆平等なわけないでしょう?

ベルドレッド公爵家は学院に多額の出資をしていますが、あなたの家は?

してませんよね。聞かなくても知っています。

私、あなたに何もしていないのに、ただ派閥が違うというだけでイジメられて、非常に腹が立ってますの。

だから、あなたを退学させる理由も権力も、私には全て揃ってるんですよ?」



私の宣告に、ハンスは顔を真っ赤にして叫んだ。



「……っ、退学なんてさせられないさ! 僕には友人がいるんだ!

中等部にいる、第一王子殿下だぞ!」



王子の名が出た瞬間、同席していたバルカス学院長が椅子から転げ落ちそうになった。

だが、私はピクリとも動揺しない。



「…殿下が、私をいじめるように言ったのですか?」



「そうさ! お前がこの学院に来なくなるようにな!

だから僕は悪くない! 王子の意思だ!

罰せられるわけがないし、退学なんて言語道断だ!」



(うーん、まぁそんな気はしていたようなしていなかったような…。

とりあえず王子はここでは置いておこう。)



殿下の威光を笠に着て、勝ち誇ったように笑うハンス。

…ああ、救いようのない馬鹿。



「そう。まあ、関係ないですけど。」



「…は?」



「あなたたち、王子が助けてくれるとでも?

そんなわけないじゃない。」



私は最高に冷ややかな笑みを浮かべ、彼らを見下ろした。



「王子が、たかが伯爵家の次男一人のために、公爵家を正面から敵に回すと本気で思っていますの?

殿下にとって、あなたたちはただの『使い捨ての駒』。

不祥事が明るみに出れば、真っ先にトカゲの尻尾切りに遭うのは、あなたたちの方ですよ。」




学院長室に、凍りついたような沈黙が流れた。




「さて、あなたたちに提案があります。

まずは私に謝罪をしなさい。

次に、金輪際私をいじめないこと。

あと、退学にされたくなかったら、今後王子の動向は私に教えなさい。」



「なっ…!」



「あなたたちの足りない頭に教えておいてあげる。

あなたたちが私を追い出すどころか、失敗して退学なんてことになれば、王子側の権力があなたたちとあなたたちの家を潰しにかかるでしょうね。

なぜなら王族に失敗は許されないから。

つまり、王族の失敗は『抹消』されるのよ。」



私の言葉に、三人は顔面を蒼白にした。

逃げ道など、最初から無かったのだ。



「…イザベル様。……大変……申し訳、ありませんでした……。」



ハンスが最初に絞り出すように言い、それに続くように二人も震えながら謝罪をした。

謝罪と、怯える様子を見て、ようやく私の溜飲も少しは下がった。



こうしてこの件は一件落着……というわけではないのである。




溶連菌には薬がよく効きますね。


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