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前世のことを振り返る



イザベルはベッドの天蓋を見つめながら、かつて「私」だった誰かの記憶を反芻していた。



前世の私の国は、あまりにも「優しすぎた」のかもしれない。

かつては、夜に一人で歩けるのが当たり前の穏やかな国だった。

けれど、その「当たり前」は、ある日を境に音を立てて崩れ始めた。


(前世の私がイザベラくらいの頃は、安心安全が当たり前。

だからこそ私は自由に生きてこれた。

今振り返ると、ちゃんと幸せだった。)


大人になるにつれて、社会のルールやしがらみは出てくるものだ。

でもそれとは別に、いつしか世界は「ルールを守らない者」が声を大きくし、それを注意することさえ「不寛容だ」と弾圧される歪な場所になっていた。

夜道はギャンブルになり、昼間でさえ少し路地に入ると警察も介入できないブラックボックスと化す。

そんな街が増えていくと、社会全体の治安も悪くなるのは必然だった。

真面目に働いて納めたお金は、なぜか、私たちの安全を脅かす者たちのための「対話の窓口」や「豪華な施設」に消えていった。


(「話し合えば分かる」そんな言葉が、ただの無責任な呪文に聞こえたっけ…。)


平和を願うのはいい。

けれど、一方的に奪われ、文化を壊されていく側は、一体どこで息をすればよかったのだろうか?

誰にも関心を持たず、関われば「差別だ」「悪だ」と糾弾される。

そんな空気に疲れ果て、みんなが心を閉ざしていったあの風景。


(だからこそ…私は震えているのよ。)


このアステリア王国の「虹の広場」から漂う、思考停止した平和の匂い。

それは、私の前世の平穏を食いつぶした、あの劇薬と同じ匂いがする。


(愛と平和という綺麗な看板を掲げて、実際には足元の防衛を削り、問題を先送りにしているだけ。

……そんなの、ただの自殺行為よ。)


もう、あんな寂しい街の景色は見たくない。

使い捨ての人材として、怯えながら生きる日々なんて二度と御免だ。


(私は絶対に、私の庭を守り抜く。

この可愛らしい小さな手を使って、お花畑に隠された『毒』を全部引っこ抜いてやるわ!)



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