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「愛や多様性の犠牲者が誰になるか分かってんのか!」悪役顔の公爵令嬢イザベル、綺麗事で国を壊すバカどもを現実でボコす内政改革  作者: 猫目こね
イザベル三歳〜十歳

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5話 トバクは逮捕!




酒場を包む吐き気を催すような臭いから逃れるように、私はヴィンセント兄様に抱きかかえられて外へ出た。

背後では、トバクが「文化の違いですから!」と必死に弁明を続けている。




(やっぱり…何かがおかしい…。)




違和感を拭えない私は、ふと兄様の肩越しに、先ほど通り過ぎた商談用の建物を凝視した。

あの安っぽい、プレハブのような建物を。



ヴィンセント兄様も、思うところがあったのだろう。




「酒代は公爵家が負担していないはず…。

商人だけで、これほどの酒代を賄えるものなのか?」




独り言のように呟くヴィンセント兄様の言葉に、私は心の中で頷いた。




(なるほど。

ドワーフの酒代は公爵家の支出じゃないのね。

際限がないから父様が突っぱねたのでしょう。

でも、いくら有益な商談ができるからといって、利益が吹き飛ぶほどの酒代を自腹で払い続ける商人がいる?

いや、いないでしょ…。

じゃぁ、あの浴びるような酒代は、一体どこから出ているの?)




「にいさま、あのね、ききたいの。」




「なんだい、イザベル。まだ気分が悪いか?」




「あの、おはなししてたおうち、コンコンってしたらポロポロしてきた。

あと、おうちのかたちがへんなかんじする。

…なんで?」




私は以前、図書室に置いてあった『虹の広場・建設報告書』という資料を見つけ、読んでいたのだ。


そこには…、要約すると

『一応他国に舐められないように、高級石材を使用すること。』

と記載されていた。


読んだことを兄に伝えてもいいが、今は子どもっぽく振る舞っていた方が面倒ごとは避けられるだろう。




(能ある鷹は爪を隠す、って言うしね!)




私の話を聞いて、ヴィンセント兄様は考えている様子だった。



「お話してた家…商談してた建物のことか。

たしかに、言われてみれば壁が薄く、全体的に歪な気がするな。

それに、イザベルが叩いただけで崩れるほど脆い作りなのは明らかに変だ…。

まさか…。」




思案したヴィンセント兄様の体が、強張った。

私の小さな、しかし急所を突いた指摘。




(そーう!

この国では建物を建てる際、商人が職人との仲介に入る。

つーまーり!

商人が建設費を水増し請求して、実際には安物を建てる。

浮いた差額をトバクが中抜きし、その金をドワーフへの酒代に充てていたってこと!

きっと兄様も気付いたんだ。)





ドワーフはタダ酒が飲めて上機嫌。

商人はトバクに便宜を図ってもらい、公爵家には「最高級の建物を建てました」と嘘の報告を上げる。

視察に来る役人には賄賂を握らせて口を封じる。




(しかも、建設維持費という名目で、継続的にお金をむしり取っていたんじゃない?

それに、他にもトバクにメリットはあったはず。)




―――トバクにとっての想定外。




それは、多忙な公爵本人は来ないと高を括っていたこと。

そして、いざ代わりにやってきた子供の私やヴィンセント兄様が、材質の安っぽさから金の流れを疑うなどとは、夢にも思っていなかったことだ。




「トバク! 貴様、視察担当の役人と結託して何をしていた!」




ヴィンセント兄様の声は、もはや怒りを通り越して、絶対零度の冷徹さを帯びていた。




「ひっ、ひいいいいいっ!

ヴィンセント様、何をおっしゃるのですか!

あれは最新の、軽量石材でして…!」




「さっき、さわったらポロポロしたよ。

さいしんなのに、こわれやすいの?」




言い訳を遮るように私が煽ると、トバクの顔がみるみる土気色に変わった。




(前世でもいたわー。

安全基準を無視して中抜きを繰り返し、最後には崩落事故を起こしたゼネコンの担当者…。

あの時と同じ、腐った匂いがするわ。)




ヴィンセント兄様は立ち尽くす兵士たちに、重く鋭い声で命じた。




「今すぐこの広場の全帳簿を押収しろ!

トバクは拘束。バクチ殿も念のため同行願おう。

それから、この数年間に虹の広場を視察した役人を全員リストアップせよ。

徹底的に洗うぞ!」




「そんなっ!

私は、私は国王陛下の掲げる友好のために…!」




「汚職と友好を履き違えるなよ。」




ヴィンセント兄様の冷徹な一言と共に、トバクは泣き喚きながら兵士に引きずられていった。

バクチも兄様の威圧感に毒気を抜かれたのか、大人しく拘束された。



夕日に染まる広場。



私はようやく、ハンカチを顔から離した。



見やすいように修正しました。(2026/6/4)


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