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4話 やっぱりヤバイところですやん。


四歳半になった私は、父様と兄様にねだって領地内の散策に連れて行ってもらうことを日課にしていた。

すべては、私の安住の地となるはずのこの領地に、前世のような「崩壊の火種」がないか確認するためだ。


「にいさま、あっち。あのお花マークのところ、いきたい。」


私が指差したのは、領地の端にある「虹の広場」。

ヴィンセント兄様は少し複雑な顔をしたが、何回も視察について行っている実績と、私の「おねだり」に押し切られ、馬車を出してくれた。


ちなみに「ごじゃす。」は何回目かで母様に見つかって怒られたのでやめた。

もう四歳だもんね!


道中、案内役として現れたのは、王都から派遣されている管理官のトバクだった。


「お初にお目にかかります、イザベルお嬢様。

本日はこの平和の聖地をご案内できること、至上の喜びでございます。」


トバクは、地面に頭がつくのではないかというほど腰が低い。

そんなトバクの後ろをイザベル一行は歩いていた。

虹の広場は案外広く、小さな街のようになっていた。

必要な施設は大体そろっていると思って良さそうだ。

かなり充実している。


「お嬢様、こちらが商談の場です。

アステリアの技術とドワーフの資材が交わる、素晴らしい場所でございます!」

トバクが気合いを入れて言ってきた。


確かに、ドワーフと人間が真剣に商品の話し合いをする姿は活気があり、有益な場に見えた。

けれど、私の目はこの商談をする建物の不自然さに釘付けになる。


(ん?何これ?公爵領の建物はどれも質実剛健で立派なのに、ここだけ驚くほど作りがちゃっちいわね?

前世でいうプレハブみたいな…。

虹の広場には公爵家の資金を使っていると聞いたのに、結構節制して使っているってことなのかしら?)


とりあえず雨風凌げて話し合いができる場所であればいい、みたいな…。

とても簡素というか…とにかく材質が安っぽい。


ふと見ると、商談を終えたドワーフと人間たちが、揃って広場の奥へと移動していくのが見えた。

私はトバクとヴィンセント兄様を促し、その後を追った。



辿り着いたのは、大きな酒場。


扉を開けた瞬間、私の鼻がもげるような不衛生な臭いが漂っていた。


「うおーっ! 飲め飲め! 今日は人間の奢りだろ!」

「ちげぇよ!今日も、だろ!わははははは!」


そこには、ドワーフたちが浴びるように酒を煽り、人間の商人に無理やり酒を強要している光景があった。見渡せば、床のあちこちに酒に潰れた人間が転がり、吐瀉としゃ物が放置され、ハエが舞っている。 


(ギャーーーー!やっぱヤバイところですやん!!)

私は心の中で悲鳴を上げた。


公爵領にはスラムがない。

だがきっとスラム街があったとしても、これほど不衛生で規律のない場所は存在しない。

スラムがあったとしても、この酒と吐瀉物が混ざった匂いにはならないだろうと思う。


なのに、そこにいる人々は感覚が麻痺しているのか、誰もそれを気に留めていなかった。


「汚い…ここ…とっても…汚いわ…!」


私は思わずハンカチで鼻を押さえた。

前世の、管理されず荒廃していった街の路地裏を思い出す。


私はあまりの臭さで涙目になりながらトバクに伝える。

「おじしゃま、ここ、お掃除してないの? 病気なるよ?」


「い、いえお嬢様、これはその……ドワーフの方々の文化を尊重した結果でして…。

飲み終わる前に掃除をしてしまうと、彼らは気分が害されるとのことで、店を閉める時間になるまで掃除はしないルールになっているのですよ。」


トバクはもう慣れてしまっているのだろうが、私が涙目になっているのを見て冷や汗を流しながら言い訳を始めた。

トバクの言い訳が終わった時、一人の大柄なドワーフが千鳥足で割って入ってきた。


「がっははは! 小娘、何を言ってやがる。これが俺たちドワーフとの『交流』ってやつだ。

この良さは人間には分からねえだろうがな!」


この男が、トバクと懇意にしているドワーフの顔役、バクチだ。

私は冷ややかな視線を彼に向ける。


「こう…りゅう…? 交流っていうのは、お互いが気持ちよく過ごすことでしょ。

おじしゃまたちが楽しいだけで、こっちの人は泣いてる…。

これは『交流』じゃなくて、ただの『お行儀が悪い』だけ、です!」


「んだと!? このガキ……!

俺たちはわざわざこの国まで来てやってんだ!

てめぇら人間が礼儀を尽くすのは当たり前だろうが!」


「礼儀? 相手の家を汚して、無理やりお酒を飲ませるのがドワーフの礼儀なの?

それなら、ドワーフさんはとっても野蛮ですのね。

本に書いてある『誇り高い鍛冶師』の話は嘘だったんだ!」


私の淡々とした正論に、バクチは顔を真っ赤にして激昂した。

口喧嘩で四歳児に負けそうになった彼は、酒の勢いもあって、ついに本音を怒鳴り散らした。


「うるせえ! ここは俺たちドワーフのための『聖域』なんだよ! 文句を言われる筋合いはねえ!」


「…ドワーフのための聖域?」


ヴィンセント兄様が、低く鋭い声で聞き返した。

バクチは止めるトバクを突き飛ばし、高笑いする。


「ああそうだ! ここで酒を飲むのに金はいらねえんだよ。

全部そっちの商人の持ち出しだ。

タダで飲めるから来てやってんのさ、陛下も『もてなせ』って言ってるんだろうが!」


これだけ騒いでも、周りのドワーフたちは我関せずと酒を煽り続けている。

だが、管理官トバクの顔は、幽霊でも見たかのように蒼白だ。

ヴィンセント兄様の視線が、トバクと、そして散らかり放題の酒場へと向けられる。


(うーん、これだけだと人間が搾取されてるだけに見えるけど…。)


何か少し引っかかる。



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