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32話 クレスと婚約しても良いかもしれない。



ハム侯爵領の件から数日後。

ついに二人目の婚約者との顔合わせの日だ。


場所は再び、我がベルドレッド公爵邸の応接室。



目の前に座っているのは、二人目の婚約者候補、クレス・アルケイデス伯爵令息だ。



(あ〜良かった。とりあえず良かった。

事前情報の通り真面目そうな人だ。

ハレムみたいな女性関係の問題はなさそうね!)



彼は背筋を伸ばし、酷く緊張した面持ちで私を見つめていた。



「ベルドレッド公爵令嬢。本日はお招きいただき、心より感謝いたします。」



クレス様は、丁寧だがどこか使い古された感のある礼服を纏っていた。



アルケイデス伯爵家。

中立派の中でも「誠実」を家訓とする家柄だが、最近は隣領のケントール子爵家…つまり革新派から、じわじわと嫌がらせを受けているという報告が入っている。



(子爵家だけじゃなくて、周りが革新派だから逃げ場無しってことなのよね〜。

公爵家との婚約は、「これ以上好き勝手させてたまるか!」っていうアルケイデス伯爵の抵抗なのな?)



「ご挨拶ありがとうございます。クレス様。

あら?随分と顔色がよろしくないようですけれど? お疲れかしら?」



「っ大変失礼いたしました。大丈夫です。

最近、虹の広場には収まらないほどの異種族が領地に来てしまって、その対応を考えていたからかもしれません。」



「あら、それは私のせいかもしれませんわ…。」



(ケントール子爵め…。

ハム侯爵領から溢れた分を、隣のアルケイデス領へ流してるわね。

あんたのところは革新派なんだから、責任持って全部受け止めなさいよ!)



「…お話は伺っております。

ですが、あなたのせいではありません。

まだ十歳のあなたに手を上げようとしたハレムが悪いのです。

そしてこの件を利用して侯爵家の権力を削ごうという、ベルドレッド公爵のお考えも理解できます…。」



「真面目ですのね。」



「何の面白みもない男で、すみません。」



「フフ、嫌いじゃないです。

クレス様のこと、もっと知りたくなりましたわ。」



「では、今度は私の領地へご招待しましょう。

そこで、ゆっくりとお話しできれば。」



そんな感じで和やかな雰囲気で顔合わせは終わった。



「あの小僧…。絶対何かある…。絶対…。何か…。

ちょっと何かないか探して来ます。」



そう言ってノアはどこかへ行ってしまった。



「イザベル様…。婚約…するのですか…。

だめですイザベル様は私とずっと一緒にいるのです私と一緒にいないとだめなんですずっとずっとずっとずっとずっとです誰かのものになるのは百歩譲って良しとしますがでもそれって今じゃないといけないんですか?別に今じゃなくてもいいじゃないですか誰かのものになってしまっても私はずっとイザベル様と一緒にますけどでも絶対今じゃないと思うんですだって今は私がいつだってだれよりも一番近くにいるじゃないですかそもそもイザベル様と釣り合う人なんてこの世にいるんですか?いやいませんよ私が一番イザベル様のこと知っていて…(略)」



(リルが早口だ…。息継ぎしないでどうやって喋ってんの。

さすがリル。きっと肺活量も鍛えているのね。)



激重メンヘラっぽい言葉が聞こえるような気がするが、きっと気のせいだろう。



(あーでも、今日は無事、平和に終わって何より何より〜!)





ガッシャーーーーーン!

パリーーーーーーーン!


怒りのあまり女性は持っていたティーカップを床に投げつけ、皿が割れた。


「はぁ…?!なんですって…!!

クレスが婚約…?!私のクレスが…?!

どこの女と…。えっ?公爵令嬢?

ふーん、どうせアルケイデス伯爵の差金よ。

愛に障害は付きものだもの!乗り越えてみせるわ…!」



部屋の外では、女性の声を聞いてニヤリと笑うケントール子爵がいた。





「本日はお招きいただき、ありがとうございます。」


私はアルケイデス伯爵家を訪れていた。

道中、ノアが「きっと面白いことになりますよ」と不敵に笑っていたのが不安でならない。


だが、どの道いつかは婚約しなければならないのだ。

ハレムのような不良債権と結ばれるくらいなら、クレス様のような誠実な人と婚姻関係を結ぶのも悪くない。



(婚約だし。結婚じゃないし。私、通算四十歳のオトナの女性だし。

前世は結婚できなかったから、今世でしたっていいかもしれない。)



「来ていただき、ありがとうございます。」


丁寧に出迎えをしてくれたのはクレス本人だった。


「今日は領内を案内させていただこうと思います。

それでは、こちらに。」


そう言ってスマートに手を差し出してくれた。


「あ、ありがとうございま…」


その温かな手を取ろうとした、まさにその時だった。





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何卒よろしくお願い致します。

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