[嘆き]ケントール子爵
ドンッ!
執務室の机を叩く音がした。
「なぜだ…。
上手くいっていたはずなのに、なぜ……!」
私はイワン・ケントール子爵。
この国の由緒正しき貴族である。
国王陛下が掲げる多様性や異種族との共生という方針に従い、日々、民を導く立場にある。
――というのは、あくまで表向きの話だ。
この方針のおかげで、国からは多額の補助金が転がり込むようになった。
さらに見目麗しい異種族たちからの「接待」は、実に心地よい。
彼らは私に対し、実に勤勉で従順だ。
自領の虹の広場を拡張し、彼らが過ごしやすい環境を整えれば整えるほど、私が手にする恩恵は増していく。
このまま異種族を国に呼び込み、同志となる貴族を増やせば、この国は私の望む形に発展するだろう。
(だからこそ、隣領のハム侯爵にも革新派への転向を促したのだ…。)
彼は乗り気で、学園まで設立した。
もっとも、彼は「中立を装えば旧体制派から情報を引き出せる」などと能書きを垂れていたが、有用な情報を持ってきた試しはない。
せいぜい、あの学園の生徒たちを融通してもらい、私に良い思いをさせるのが関の山だった。
(あぁ…。実に良い学び舎だったのに…。
だというのに、廃校どころか虹の広場まで縮小だと?!
しかも、その縮小のせいで我が領へ入れろと異種族がき始めている。
まぁこれは、労働力が確保できたと思えばいい…か…。
虹の広場に入らなければ自領に住まわせるようにすれば良い。
もともと虹の広場は入り口であって、後々の定住を目的としているからな。)
報告によれば、ベルドレッド公爵令嬢との顔合わせの際、ハレムが令嬢に手を上げようとしたらしい。
「馬鹿め……! なんてことをしてくれたんだ!
そもそも、権力と金欲しさに公爵家を狙うなど、あの『猿』には荷が重すぎたのだ!
中立などと言わず、初めから革新派として我々の後ろ盾を得ていれば良かったものを!」
だが、不可解だ。
ハレムの不祥事程度で、なぜ家督を奪われ、学園の閉鎖にまで追い込まれる?
(十歳の小娘には、そんな決断ができるはずがない。)
「ベルドレッド公爵が手を回したな……!」
そうだ、あの頭の硬い、変化を拒む旧体制派の巨頭。
奴が娘への不敬を口実に、目障りだった革新派の拠点候補を一つ潰したのだ。
(腸が煮えくり返りそうだ…!許さんぞ…ベルドレッド…!)
…だが、いいだろう。
革新派の勢いは、こんな些細な出来事では止まらない。
平民が何を言おうと、広場ができる前から着々と「種」は蒔いてきた。
旧体制派は少しずつ瓦解しており、中立派も、たまたまハム侯爵が離脱しただけで、他にも協力者はいくらでもいる。
コンコン。
「入れ。」
「失礼いたします。閣下、新たな情報が入りましたのでお耳に。」
執事が差し出した一枚の紙に、私は目を通した。
「なんだと…!
またベルドレッド家は中立派と顔合わせをするのか?
おっと?相手は…アルケイデス伯爵家か。
ほう……。」
クレス・アルケイデス。誠実さだけが取り柄の、貧乏伯爵令息。
一瞬は眉を潜めたが、すぐに私の口角は吊り上がった。
「くっくっくっ……。これは、ちょうどいい。」
子爵は、薄暗い執務室で不敵な笑みを浮かべた。
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