31話 断罪の後の日常
ハム侯爵領の「大掃除」を終え、私は数日ぶりに公爵邸へと帰還した。
出迎えた父様と母様は、報告を聞くなり、手に持っていたティーカップを落とさんばかりに驚愕していた。
「イザベル。今、なんと言った?
ハム侯爵夫人は愛人と駆け落ち、ハレムは廃嫡。
十歳の双子が後継者になった…だと?」
「はい。ついでに公爵家が後見人として入り、虹の広場にある学校も閉鎖。
領内の不正も大体は洗い出して、正常化させましたわ。
なので、お父様。有能な執事長の人選をお願いいたします。
あ、ハレム様は…遠方の施設で奉公していると侯爵から聞いておりますわ。」
父様は絶句し、母様はプルプルと震えながら私を抱きしめた。
「なんてこと…!一人でここまで成し遂げてしまうなんて…!
最初は、侯爵子息のことを気に入ったのかと思って焦ったのよ…!」
二人は興奮冷めやらぬ様子で、居合わせたヴィクトル兄様とエルザ姉様に、この「快挙」をまくし立てた。
だが、二人の反応は至って冷ややかだった。
「父様、母様。今更何を驚いているんですか?
イザベルならそれくらいやって当然でしょう。」
ヴィクトル兄様が、さも当然かのように言う。
「そうよ。この程度、イザベルにとっては『午後のティータイムの余興』に過ぎないわ。」
エルザ姉様も、優雅にお茶を啜りながら同意する。
(ファッ?兄様姉様、私を何だと思っているの?
全然余興レベルではない大仕事でしたよ?
それに、今まで私ちゃんと子供っぽく振る舞えてたよね…?あれ?)
疑問を残しつつ家族が騒いでいる間に、私は自室に戻った。
控えていたノア、アンリ、マユを呼び出す。
「お疲れ様。今回の件、三人がいてくれたから最速で片付けられたわ。ありがとう。」
ノア一人では広範囲過ぎて難しかった。
だが、アンリとマユのおかげでカバーすることができたのだ。
「いえいえ、今回も楽しめましたよ。
それと、報告があります。」
ノアが静かに一歩前に出る。
「孤児院出身の子供たちの中から、特に見込みのある者を選抜し、諜報・隠密部隊を編制しました。
普段は街に紛れていますが、有事の際は私の指揮下で動きます。
たまに、掃除もこなせますよ。」
(ファッ?!それいいの?!まぁ…いいか…。
非合法な組織なんてこの世界にいくらでもあるんだし。)
「分かったわ。
痕跡は残さない様に気を付けてね。」
一方、アンリとマユは、新たな事業報告書を差し出してきた。
「イザベル様。孤児向けの新聞が好評で、平民たちに広まり始めました。
なので、平民向けの定期的な『新聞発行』を本格化させます。
それと、稼いだ資金で出版社を立ち上げました。」
アンリが報告書を読み上げながら平然と言った。
「へっ?出版社? 本を出すの?」
「はい。
大衆を動かすには、事実を伝える新聞だけでなく、感情を揺さぶる『物語』が欠かせませんから。
ただ、公爵家と新聞社との繋がりを隠すため、経営母体は隣国の商人の名を借りた商会にしてあります。
そこにも私たちの手の者が働いているので、架空の商会というわけではありませんし、他にも色々工夫を施してあるので、足がつく心配はありません。」
マユが『工夫』のところでニヤッとしながら言ったのが気になるが、そこは触れないでおこう。
「そ、そう!素晴らしいわ!この調子でいきましょう!」
(なんか凄いことしてる…。
この二人がすることは、もう私の手に負えないから報告を聞くだけになってしまった…!
でも組織が大きくなるのは良いことだよね!うん!きっと大丈夫!)
◆
その頃。
一変したハム侯爵家では、双子が猛烈な勢いで勉強に励んでいた。
「エドモン。私たちはイザベル様に拾われた命よ。
彼女に報いるには、私たちがこの領地を完璧に統治し、彼女の右腕になるしかないわ。」
「わかってる。…ねえ、ルーラ。
僕が将来、イザベル様と婚約できれば、侯爵家の権力も財産も全て彼女に献上できると思わないか?」
「あら!名案ね!
そのためには、他の『婚約者』を実力で捻じ伏せるだけの力量を蓄えなければね…。」
双子の感謝が『狂信』へと歪み始めていることを、私はこの先も知ることはない。
◆
夜。
報告を一通り終え、私はベッドに入り、今回の件を振り返っていた。
(今回は結構大きな件だった割には、スムーズにできたかな。)
そう思える最大の要因は、徹底的な「事前準備」だ。
領地の腐敗は調査済みだったので、ノアとリルに命じ、あらかじめ「消えても問題ない者」をリストアップしていた。
特に『パラダイス学園』に関わっていた偏った思想の教師たち。
彼らの正体は、人間・異種族問わず手を出していた卑劣な小児性愛者たちだった。
これにはジンバイも激怒した。
「聖女様と同じ年頃の子供たちを弄ぶなんて……!」
リル自身がハニートラップで彼らを誘い出し、捕らえたこともあり、彼らはジンバイの手によって「適切に扱ってくれる場所」へと叩き売られた。
(リルが教師たちにハニトラを仕掛けたら釣れ過ぎて笑っちゃったわ。
それに、教師たちからハレムの素行についてたくさん聞けた。
リルも大活躍だったなぁ。
明日、ちゃんとお礼を言わなきゃ。)
仕上げは、世論の誘導だ。
侯爵領に足を踏み入れる前から、アンリとマユが発行する『アヴェンジャー新聞』を、現地の孤児や平民の間にできるだけ浸透させておいたのだ。
(おかげで、虹の広場縮小と学園の閉鎖に反発する者はほとんどいなかったわね。)
そして、ハム侯爵を泳がせたことで、彼と繋がっていた隣領の子爵家の存在も確定した。
ハム侯爵はケントール子爵家へ私のことについて密告する手紙を出していたのだ。
(ノアが事前に防いで、手紙を証拠に拷…尋問して色々吐いてくれた。
子爵領もなかなか闇が深そうだけど、今は次の婚約者との顔合わせの準備で忙しいから何もできない…。)
今はまだ子爵家までに手を回す余裕はないが、ノアに諜報活動を続けさせよう。
そして、いつか相まみえる日が来るだろう。
(はー、やってもやってもキリがない。
それもこれも国が蛇口を閉めないから!
でも何もしないのは、前世と同じ国になってしまうようなもの…。
昔は他力本願だった自分だけど、今はそうじゃない。
今の私には権力がある。実行部隊もいる。
貴族として生まれたのだから、自分のセカンドライフのためにも今できることをやらなくちゃね。)
私は改めて決意し、眠りについた。
ちょっと断罪感が足りなかったかもしれません。すみません。
その割に話が長くなったなと反省してます。
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