25話 異種族への優遇 1
一週間後。
(ついに私の初!お見合いの日!
前世でもしたことなかったから、ちょっと緊張しちゃうかも…!)
ガチャッ。
そんな淡い期待は、ドアが開いた瞬間に霧散した。
応接室は、鼻を突くほど芳醇すぎる香水の匂いに包まれる。
「やあ、イザベルちゃん! 想像よりも可憐だね。
ああ、彼女たちは私の学園の友人たちだよ。
多様性の時代、種族の壁なんてないと思わないかい?」
現れたのは、目がチカチカするほどの煌びやかな衣装を纏ったハレム・ハム侯爵令息。
背後には、露出度の高い格好をした猫耳の獣人と、羽をパタつかせる有翼人の少女を侍らせている。
(はい無理ーーーーーー!!
正式な顔合わせに何を連れてきてんのよーーーー!!
百歩譲って、隠れてやらずに堂々とやってるのはいいと思う!
だが処す!ぜってー処す!
初めてのお見合いにちょっとでもドキドキしてたのにね!
ここまでバカなやつだとは思わないじゃない!
…私の顔に泥を塗ったことを公開させてやるわ。)
と、心の中でスナイパーを用意して四肢から順番にハレムをバンバン打つ想像をするほどに、内心穏やかではないが、私は完璧な貴族令嬢の笑みを浮かべ、優雅に一礼した。
「初めまして、ハレム様。
私、こういう場は初めてですの。
お連れの方とは学園のご友人、と仰っていましたが…。
貴族の学院にも異種族の方はいるのですか?」
情報は既に知っているが、知らないふりをして聞く。
「いいや!貴族の方は重苦しくてね…。
この子達は虹の広場の方にある学園の友達だよ!
興味あるかい?」
「ええ、是非。」
「今度連れてってあげるよ!
次は侯爵家においで!」
そうして私は自然に侯爵家に行く算段をつけた。
報告を聞いたお母様に「イザベル、男を見る目を養いなさい」と、自分が持ってきた縁談棚上げで心配された。
(そんな勘違いされたくないよおぉぉ…。
そもそも話持ってきてたのお母様ですやーん!
マジ心外。やっぱハレム処す。)
私は心の中で泣くのであった。
◆
数日後、ハム侯爵領にて。
「イザベルちゃん!お待たせ!
今日は虹の広場にある学園、その名も『パラダイス学園』にようこそ!」
「本日はお招きいただき、ありがとうございます。
早速見学をしたいのですが、お願いできますか?」
(わー来ちゃったよー。
タノシミダナー。)
私の目は既に死んでいる。
リルも既に目から光が失われていた。
ノアは隠れながら側をついてきてもらっているが、ノアも殺る準備万端の目をしているに違いない。
「まずは、ここが僕のクラス!
平民が五割、獣人が四割、あとの一割はエルフと魔族がいるよ!」
「獣人が多いのですね。」
「そうさ!獣人は、とにかくたくさん子供を作るんだよ。
だから虹の広場にもたくさん獣人がいて、その子供達が通っているんだ!」
「そうなんですね。
エルフの方もいらっしゃるのですか?」
「いるよ〜!
とても綺麗で話しかけづらいかな?って思うかもしれないけど安心して!
僕は彼女ととても仲が良いんだ!」
「魔族もいるとか…。珍しいですね。
魔族は人間が大嫌いなのかと思ってました。」
「あーそういう古い偏見あるよね〜。
イザベルちゃんも『学び直し』した方がいいんじゃない?」
(公爵家の令嬢として転生して、はや十年。
ここまで私をイラつかせる人間に出会えるなんて、ね。)
私はこのムシャクシャした気持ちを抱えたまま、何とか平静を装いハレムと話す。
教員は人間の貴族から採用しているようだった。
「イザベル様がいらしているとは…!
今日は是非お話を聞いていってください!」
そういうと、このクラスの先生は授業を始めた。
「今日の授業はエルフについてです。
彼らはとても美しい外見をしており、魔力も高く、扱いにも長けています。
エルフの歴史は古く…。」
正直、唖然とした。
エルフとの戦争や侵略の歴史を話すわけでもなく、エルフは高潔な存在であるということを強調した内容ばかり。
エルフは人間を下等生物…どころか人ではなく物として消費する残忍な性格な種族であるのに。
(まあ、エルフがいる前ではそんなこと言えないわよね…。
それにしたって褒めすぎじゃない?
あと、エルフの習性とか…エルフにとって不利になる内容は話さないのね。)
色々突っ込みたいことがあるが、とりあえず次の授業だ。
「次は獣人について…。」
「次は魔族について…。」
「次は、このクラスにはいないが、ドワーフについて…。」
「次は人間…人族について…。」
(どっれもこれも、エルフと同じような感じね!!
何なのよ!!
それでいて人間の時には、「人間は欲望が多すぎー」とか、「古い慣習から抜け出せていないー」とか…。
こんなの聞いてたら考え方が偏りまくるわっ!
どうしたものかねぇ…。
この学園も。この教師も。ハレムも。)
思ったよりも異種族アゲ・人族サゲの授業で疲れてしまった。
その疲れを感じ取ったのか、リルが「この学園には食堂があるそうです。そこへ行って休憩しましょう。」と提案してくれた。
「そうね…。
食堂には何があるのかしら?」
私とリルは食堂へ行き、さらに目を疑うことになるのだった。




