24話 婚約者の調査しました。
一人目の婚約者候補との対面が決まってから二日後。
ノアが、帰ってきた。
「イザベル様、ただいま戻りました。
なかなかパンチの効いた『婚約者』になりそうですよ。」
苦笑いしながら差し出された調査報告書を受け取る。
「ノア、ありがとう。早かったわね。
早速読ませてもらうわね。」
私は自室の机に広げられた二人の婚約者の情報を眺め、深くため息をついた。
背後ではノアが「どっちに転んでも面白いことになりそう」と言わんばかりに、楽しげな気配を漂わせている。
内容を知りたそうに身を乗り出しているリルに、私は報告書を手渡した。
「ありがとうございます。イザベル様。
一人目。ハレム・ハム侯爵令息。十七歳。
うっわぁ…。」
リルが露骨にドン引きした声を上げた。
無理もない、彼はリルが最も嫌悪するタイプだ。
彼は中立の皮を被った革新派、ハム侯爵家の長男だ。
彼は貴族の学院に通っているが、虹の広場にある「異種混合学校」にも入り浸っているという。
多様性を謳歌していると言えば聞こえはいいが、実態はただの節操なし。
人間だろうが異種族だろうが、スカートを履いていれば誰でもいいのではないか?とさえ思える。
(親は異種族から賄賂とハニトラを受けて、中身は真っ黒な革新派。
そんな泥沼の家を支えるために、私に嫁げと?
お母様、これほどまでに選択肢がなかったのですね…。)
十七歳まで婚約者が決まらなかったのも納得の、救いようのない不良債権である。
「そして二人目。クレス・アルケイデス伯爵令息。十五歳。」
こちらは一転して、文武両道の誠実な少年。
真面目で実直、けれど決断力に欠ける性格とのことだ。
彼の家は、立地が最悪だった。
周囲を革新派の領地に囲まれ、旧体制派の思想を持ちながらも、生き残るために「中立」を装わざるを得ない。
最近は、虹の広場を越えて領内にまで異種族が流入してきていることに頭を抱えているという。
(なるほど。
こちらは『親の思想は健全だが、包囲されて崩壊寸前』ってことね。)
私は報告書を前に、思考を巡らせる。
ハレムの方は論外。
会うだけ時間の無駄だが、向こうの親が受けている賄賂の証拠を掴めば、革新派への強力な交渉の材料になる。
クレスの方は、見込みがある。
彼の決断力のなさを私が補佐し、公爵家の後ろ盾を与えれば、革新派に包囲された伯爵家の領地を、少しはマシに作り変えることができるかもしれない。
「イザベル様。
やはり、どちらもイザベル様には相応しくありません。
会うだけ時間の無駄です。」
リルがきっぱりと言い切った。
「リル、落ち着きなさい。
人脈を広げることは大事よ。
それに、今のうちに潰せそうな芽は摘んでおきたいの。
表立って動いてくれる『駒』も手に入るかもしれないし…。」
私は、他人から見れば『悪役令嬢』そのものに見えるであろう、不敵な笑みを浮かべた。
「一人目のハレムさんには、彼の愛する『多様性』がどんなものか、現実を教えてあげましょう。
そして二人目のクレスさんには……。私たちが彼と取引する価値があるかどうか、見極めてあげるわ。」
(ハム侯爵領、ね。美味しそうな名前なんだから、しっかり火を通せば良い出汁が取れそうだわ。
賄賂にハニトラ……餌によく食いつく連中には、相応の『罠』を用意してあげなきゃね…。)
まずはハレムとの顔合わせまでに準備をしよう。
私はペンを走らせ、アンリマユ新聞社への「極秘指令」を書き綴った。
30話までは毎日更新したい…!




