23話 婚約者か〜〜〜〜。
「ファッ?!」
かつてこれほどまでに令嬢らしからぬ、不意打ちを食らった時のような声を出したことがあっただろうか。
いや、ない。
母様の口から飛び出した『婚約者』という言葉に、私は一時停止した。
「イザベル。
今の返事の仕方は聞かなかったことにしてあげる。
次はないわよ。」
母様の圧が凄まじく、私は冷静さを取り戻した。
「失礼しました。ですが、お母様。私はまだ十歳…。
社交界すらまだなのですが…。」
「あら、何を言っているの?
社交界の前から既に婚約者は決まっていても問題ないのよ?
それに…。今我が家の勢力が押されていてね…。
あなたには中立派の貴族に嫁いでもらって、私たち旧体制派を支える義務があるのよ。」
「では、お相手はもう決まっている…と…?」
「ええ。でも、あなたのためを思って二人候補を用意したわ。
ちゃんと貴族の役目を果たしてちょうだいね。」
(あー。なるほど。
つまりこういうことか…。)
この国には三つの派閥が存在する。
旧体制派・中立派・革新派だ。
伝統と歴史を重んじる我が家のような『旧体制派』。
異種族との交流で国を豊かにしようとする『革新派』。
そして、両方の顔色を伺いつつ美味しいところを狙う『中立派』だ。
虹の広場を強力に推し進めているのも、現国王のバックにいるのも革新派。
私にとっては、この上なく面倒な存在である。
現在、中立派がじわじわと革新派に傾き始めており、旧体制派は少数派に転落しかけている。
母様の焦りはそこにあるのだ。
(アンリとマユの新聞が中立派の領地で広まっているところだけど…。
貴族の目には届かないものね…。)
「お母様、分かりましたわ。
そのお二人と是非会わせてください。
このイザベル、公爵家の役に立ってみせますわ!」
私はそう言って部屋を後にした。
◆
自室に戻るなり、私は大きく息を吐いた。
「はぁ〜〜〜〜〜……。」
(トキメキは欲しいと思ったけど、自分が渦中にいるのは面倒なのよね〜。
まぁ、中身の合計年齢四十歳の私が恋に落ちるなんてことは…。
………万に一つもない。)
「イザベル様が婚約だなんて…。
まだ早いと思います…。
どうかお考え直しを…!」
リルが泣きそうな顔で訴えてくる。
心配してくれるのは嬉しいけれど、私には私なりの計算がある。
「大丈夫よ。
本気で婚約する気なんてさらさらないわ。
ただ、中立派の連中が何を考え、子供にどんな教育をしているのかを知る絶好の機会だと思っただけよ。」
そう。
同派閥の貴族ならお茶会で手の内は知っている。
けれど、他派閥の「内部事情」は未知数だ。
敵…とまだ断定はできないけれど、相手を知り弱みを握るには、向こうから飛び込んできてくれる今がチャンスなのだ。
「まず、相手について調べて来ます。」
ノアは早速、婚約者の相手二人について調べに行ってくれた。
なぜか殺気立っていたが…。
「ノアに負けてはいられません!
私も情報集めて参りますっ!」
リルはノアに対抗して情報を集めに行った。
「一人目の顔合わせまで、あと一週間……。
それまでに情報を揃えて、徹底的な『対策』を練っておきましょうか。」
私は、まだ見ぬ婚約者候補たちとのお見合いに向けて準備に入った。
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