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22話 イザベル、十歳です。



「もう三年…。はぁ…。

たった三年でアンリとマユは『アンリマユ新聞社』なんてものを作ってしまうとは…。」



設立には、リルとジンバイを経由して私が出資したけれど、まさか国の半分以上を網羅するネットワークにまで成長するとは、度肝を抜かれるどころの話ではない。


(いくらなんでも、たった三年でこの規模……。

あの子たち、本当にバケモンかっ!)


アンリマユ新聞は、孤児たちによる孤児たちのための情報紙だ。

プライドの高い貴族や商人は見向きもしないし、一般の平民だって、心のどこかに差別意識があるのかあまり目にしてはいない。

だが、それでいい。

パートナーが孤児であれば、嫌でもこの新聞が目に入る。


そうやって、国民全体の深層意識に少しずつ真実を浸透させていくのが目的なのだから。



(前世と同じで、この国の人たちの識字率が高くて良かった。)


自室で最新の報告書を読みながら、私は内心で舌を巻いた。

変わったのはアンリとマユだけではない。


ヴィンセント兄様は結婚されて、公爵家の後を継ぐ準備は万端である。

エルザ姉様は、婚約者が出来て花嫁修行の真っ最中。


二人ともどこへ行っても高い人気を誇る、完璧な貴族だが…


(二人とも、案外私を頼ってくれているのよね。)


ヴィンセント兄様もエルザ姉様も、事あるごとに私に相談してくるのだ。

そして話した後にはスッキリした表情で「ありがとう、イザベル!一生ここ(公爵家)にいてね!」と笑いながら去っていくのであった。


(まぁ、このまま穏やかな生活が送れるなら…養ってくれるならいいけど…。

でも私がニートになってしまったら、この国が悪い方になっていく気がしてならない…。)



そして他にも、変わった者たちがいる。

私の目の前で、呆れたように紅茶を淹れ直している「彼ら」もまた、驚くべき変貌を遂げていた。



「イザベル様、また行儀悪く笑っていますよ。

優しく微笑んでいれば『悪役令嬢』ではなく、『普通の令嬢』に見えるのに。

少しは公爵令嬢らしくなさい、と奥様も言ってませんでしたっけ?」



そう言って笑うのは、二十一歳になったノアだ。


かつての「チキン野郎」の面影は微塵もない。

鍛え上げられた長身を黒い護衛服に包み、腰にはイザベルが贈った名剣。

鋭い眼光の奥には、私への狂信的なまでの忠誠と、大人の男としての余裕が同居していた。



(ノア……デカいっ!

ほんっと、身長が…伸びたわね…。

公爵家で出されるご飯が良かったのかしら…。

180センチはありそう…。)


ノアは外見こそ変わったが、前よりも隠密行動に磨きがかかり、今では私にたくさんの情報をもたらしてくれる。

たまに掃除もしてくれるので、リルが動かすジンバイによって処理は完璧である。




「あら、ノア。

また私の代わりにイザベル様を叱るなんて、越権行為ではなくて?」



部屋に入ってきたのは、十五歳になったリルだ。

彼女は今、メイドと学業を両立させながら、孤児院やジンバイの元に顔を出しては『聖女様』と崇められていた。

幼さが抜けたその美貌は、もはや美女と呼ぶにふさわしい。


(たった三年、されど三年…。

私はまだちんちくりんなのにな〜。

ノアといい、拾った子たちは宝石の原石だったのか。

私は人間鑑定士にでもなれるのではないだろうか。)



リルはリルで、街からの情報をよく集めてきてくれる。

特に流行に敏感な学生たちの話も聞かせてくれるので、ありがたい。

さらに、リルは護身術の腕も上げていた。


(「イザベル様を守るためなので。」って言ってたけど、片手でりんごをグシャァしてたのを見た時、リルが一瞬ゴリラに見えたよ…。

あれ?女の子って片手でりんごグシャァって出来たっけ?)


私がそんなことを思っているとは知らずに、リルはノアの前に立ち、牽制するように言葉を投げる。



「護衛なら、もっと黙って控えていればいいのに。

イザベル様には私が付いていますから、あなたは外の見張りでもしていれば?」


「リル、君こそ学校の課題は終わったのか?

終わっていないなら、イザベル様の側にいる資格はないと思うが。」



…パチパチと、二人の間で視線が火花を散らしていた。


三年前は「兄と妹」のようだったが、今の彼らの間には、共通の主である私への忠誠心と、それを奪い合うような独占欲、そして、互いを「自分と同じ地獄を見た者」として認め合う、奇妙な情愛が混ざり合っている。


と、私は分析している。


(あらあら。ノアとリルってば。

なんだか良い雰囲気ね…。

こういう関係がいつの間にか恋になって…なんて最高に胸キュンよね〜!

あーキュンキュンしたいわー。

ただし、見るだけでいい。)



前世三十歳プラス現世十歳で、中身四十歳の私はトキメキを欲していた。



そんな二人を生暖かく見守っていると、

お母様からの呼び出しがあった。



「お母様、どうれましたか?」


部屋に通された私を見て、お母様は事もなげに言った。


「イザベル。

あなたそろそろ、婚約者を選んだらどう?」


「ファッ?!」



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